38-26.成長と計画
「今って何日くらい経ったのかしら」
『深層基準で七十四日が経過しました』
二月半くらいか。
しかもこれはゲームでの一週間を除いた日数だ。
想定より随分と時間がかかってるわね。
「そろそろ切り上げても良いんじゃない?
王妃様に勝つだけなら十分でしょ?」
『いいえ。剣技のみの試合に持ち込まれれば難しいかと。
当然、ヒオリを前面に出すなら別の話ですが』
そっか。
私の時みたいに木剣だけの決闘って可能性もあるのか。
今のツムギは覚視も使えるし、身体能力も格段に上がっているからそうそう負けはしないだろうけど、それでも達人相手に通じる技量とまでは言えない。
万全を期すならまだまだ修行が必要そうだ。
とは言えそれもやりよう次第だ。小細工を弄すれば勝つことは出来るはずだ。王妃様の説得が目的である以上、あまり妙な事は出来ないけど。
「このペースで後どれくらい必要だと思う?
ノアちゃん達が想定している実力を身につけるには」
『少なくとも半年は必要かと』
長過ぎる。いくら深層だからって。
いや、大国一の剣士をも上回る技量を身につける期間としては、信じられない程短いのでしょうけども。
「もう一度アイリス使ってみる?」
『それもまた有効な手段かと』
ツムギも何だかんだと成長したはずだ。
今ならまた、得られるものも多くあるだろう。
『バージョンアップも完了しています。
新しくなった世界をどうぞお楽しみ下さい』
あれ?
もしかしてこれ売り込み?
シーちゃん、頑張って更新したゲームやってほしいの?
『イエス、マスター』
まあ本当に良い手かもしれない。
こことゲームの中での修行を交互に繰り返せば、より成長が早まるのではなかろうか。次の休憩の時にでもノアちゃん達に相談してみよう。
「という事でノアちゃん」
暫くしてその日の修行を終えて休憩時間に入ったので、皆を集めて作戦会議をする事にした。
「良いでしょう。
折角ですから、純粋な剣技のみで魔神を倒せるようになるまでやりましょうか」
「鬼教官!!パワハラ!!」
「ベア姉さま。そのような物言いはお止め下さい。
ノア姉さまは私達の為に心を鬼にして下さっているのです」
「うゎぁ~ん!マノン寝取られたぁ!」
面倒くさい駄々っ子め。
今日は一段と厳しく扱かれたりでもしたのかしら。
『いい加減にしなさい、ツムギ。
元はと言えばあなたが望んだ事でしょ』
「ごめんなさい……」
ヒオリんつおい。
「魔神を倒せたら休暇としましょう」
「え!?
それっていきなり挑んでも良いってこと!?
初日で倒せば一週間お休みって事!?」
「ええ。お好きなように」
「やるわ!」
「即決だね♪
マノ姉もそれでいい?」
「はい。構いません」
「ねえ、マノン」
「なにかしら?」
「何でルーシィにまで敬語なの?」
「お師匠様だからよ。当然でしょ」
私は?
私も教えてるよ?
別に敬語使われたいわけじゃないけどさ。
いやむしろこれこそが距離が近い証か?
私を早くも将来の伴侶と見据えてなのか?
「マノン。
ムスペルの件が済んだら正式に婚約者になってもらうわ」
「勝手なこと言わないで。
約束したじゃない」
「問題ありませんよ、マノン。
私が認めます」
「そうですか。ノア姉さまがそう仰るのでしたら」
むむ。やっぱりこういうの面白くない。
「私には?
私にはなんか無いの?小春?」
『止めなさい。おばか。
皆ツムギの為に付き合ってくれてるんじゃない』
「うぐっ……」
ヒオリとツムギの関係はなんだか面白い事になってきた。
ステラが嫉妬しないかしら?
「ツムギには専用の研究所を作ってあげるわ」
今はまだ、シーちゃんの船とかで一時的に間借りしてただけだからね。
「ほんと!?」
「ええ。もちろん。
ニクスにも許可を貰って、向こうの研究を任せましょう」
私世界にはチグサ達がいるからね。
役割を分けてしまいましょう。
「嬉しいわ!嬉しいわ!小春!」
飛びついてきたツムギは、そのまま私の首に絡みついた。
ふふ。やっぱりこれくらい喜んでもらいたいものよね。
「何よ、その目は」
「マノンも来てくれないかなって」
「……後になさい」
ふふ。後なら良いのね♪
今晩はマノンと寝ることにしましょう♪
「研究所の件は、お爺さんにお願いしては如何ですか?」
「そうね。そうしましょう」
例の件の口実にも丁度良いわね。
ただ招いても来てくれないかもだし。
まあ別に、鍛冶場建ててくれでも良かったかもだけど。
「お爺さん?」
「あら?
ツムギは会ったこと無かったかしら?
そう言えば、まだ指輪お願いしてないんだったわね。
お爺さんって言うのは、ドワーフの職人さんの事よ。
へパス爺さんっていうの」
「職人?指輪の?」
「そうそう」
「違います。
普段は武器や防具、旅用品などを取り扱っているのです。
指輪や家は、アルカが頼んで特別に作ってもらっているものです」
「へぇ~。流石ドワーフなのね。
何でも出来るのね~」
改めてそう聞くと、私達便利に使いすぎじゃないかしら?
まあ、爺さん何でも出来るからね。流石年の功だね。
私達の平気年齢と比べたら、全然若いほうだけど。
私達の家族って四、五人くらい、いや今はもっとか。
とにかく数人がもの凄く長く生きているから、平均値だとおかしな事になるのよね。イオスとか特にそうだろうし。
仮に最高年齢十万歳、家族を五十人としたら、平均年齢は二千歳以上になっちゃうわけだ。だから何だって話でもないけども。
「ヒオリとサクラも希望があれば何でも言ってね。
ツムギとマノンに気を使いすぎる必要はないからね。
貴方達一人一人も私達の家族なんだから」
『それはつまり』
『私達も嫁に加えるというお話ですか?』
「寝取り!?
まだ私も手を出されてないのに!?」
ツムギったら、隙あらば混ざろうとしてくるのよね。
流石に可愛そうなんだけど、ステラとの約束もあるし。
かといって、私達が数ヶ月も我慢するのは不可能だし。
「最低よ、アルカ」
「違うわ、マノン。誤解しないでよ」
「誤解でしたか?
何れは加えるのですよね?」
「そりゃまあね。
でも順番くらいは守るわ」
『残念です』
サクラちゃん?
『サクラはまだ良いじゃない』
ヒオリん?
『そうですね。
マノンは素直で愛らしいですから。
きっとすぐです』
「余計なこと言わないで」
『はい。マノン』
「まるで私は素直でも可愛くもないみたいに言うじゃない」
「ベア姉さま、サクラに絡まないで下さい」
「しくしく……素直で可愛いマノンにも遂に反抗期が……」
可愛そうに。一線超えない範囲で可愛がってあげよう。
『止めておきなさいよ。
どうせ我慢できなくなるわよ』
『そうだよ。イロハの言う通りだよ。
アルカが加減なんて出来るわけないでしょ』
『もんだいない』
『ハルがとめる』
『私もお止めしましょう。
肉体の制御はお任せ下さい』
『仕方ありません。
お預けを食らって悶々としている小春先輩は、私が責任持って美味しく頂くとしましょう』
私の中も賑やかになったものね。
この娘達が結託したら私なんて一切抵抗出来ないわよね。
シーちゃんもいつの間にか精神体への同化出来るようになってたし。
『今の私は情報生命体に近い状態です』
なるほど。わからん。
『ネットナビみたいなものです』
つまりフルシンクロ?
いや、あれはなんか違うか。
『がったいせんし』
『けいかく』
『はばひろがる』
そうなの?
『あとは』
『ひととかみ』
ダメよ、ハルちゃん。
その要素は私の分体だけで我慢して。
『ルネル』
『でーたほしい』
その為にシーちゃんがルネルと同化するの?
『ちょっと』
『ちがう』
『せんよう』
『フィリアス』
『よういする』
どういう事?
『あいのこ』
混ぜ込むの?
『いえす』
『ハルとシイナ』
『こどもつくる』
チハルじゃダメなの?
『ダメ』
『チハル』
『たいせつ』
新しく産み出す子も大切にしなきゃダメよ?
『とうぜん』
なら良いけど。
やるならノアちゃんにちゃんと許可とってからやってね。
『ゆるす?』
どうかな。
無理じゃないかな。
でもほら、力は欲しいから。
もしルネルだけじゃなくて、ルーシィからも全ての経験が引き出せるなら、最強の合体戦士が生み出せるのは間違い無さそうだもんね。
『そう』
『アルカ』
『さらにつよく』
まさか更にその合体戦士を私に取り込ませるの?
『そう』
『さいきょう』
『まちがいなし』
なんだかベ◯ットじゃなくて魔人◯ウみたいになってきたわね。私が取り込んだら、中で合体解除されたりしない?
『むむ』
『たいさくする』
頑張れ!ハルちゃん!




