38-24.スパルタ教育初級試験
「きっしょ!マジ無理!蛇じゃん!
しかもデカいし!デカすぎだしぃ~!」
半泣きで逃げ惑うツムギ。
ドラゴンには慣れた様子だったのに、蛇はダメなようだ。
大した違いも無いと思うのだけど。
「ベア姉さま!ここは私が!」
ここもの間違いでは?
マノンがツムギを庇うのも既に見慣れた光景だ。
大好きなベアトリスお姉様を放ってはおけないらしい。
「ダメです。マノン。
マノンは私と一緒に別の首を落としますよ」
「くっ!!ノア姉さまのお言葉とあらば……」
「裏切りものぉ~~~!!」
まあそう言わないで。
マノン、すっごい苦々しげな表情だよ?
めっちゃ渋々だよ?
気付く余裕ないのかもだけど。
「ツムギんは私が手伝ってあげる♪」
「ダメよ、ルーシィ。
今のツムギとヒオリなら自分達で乗り越えられるわ」
「これは違うでしょぉ~~~!!!!」
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「嫌!マジ無理!キショい!絶対に嫌!!!」
あれ?
さっきも聞いたぞ?
「ただの虫じゃないってば。これ怪獣だから。
モ◯ラだから。この繭、映画で見たことあるでしょ?」
「それ蛾のやつじゃん!やっぱ虫じゃん!
怪獣映画なんて見ないし!
小春趣味やばすぎっしょ!?
そんな人だと思わなかったぁ!」
な!?
これはまさか破局の危機!?
方向性の違いってやつ!?
「別に今回は必要ないのでは?
私達空飛べますし」
「そんなぁ!」
ノアちゃんまで!?
モースにまた会えると思ったのに!
今回こそは守りきろうと思ったのに!
『無理です。マスター。
あの撃墜は必ず発生します。
固定イベントです』
そんなぁ!?
「もうこれ以上デカブツは必要ないよ。
最終形態まで適当に進めちゃおうよ。
あれなら訓練相手にも丁度良いしさ」
ぐぬぬ。仕方ない。
ルーシィの言う事も尤もだ。
わざわざ地下水道通ってここまで来る前に言って欲しかったけど。
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「きゃ~!
マジヤバじゃん!
かっこよじゃん!
そうそうこういうので良いんよ!」
魔神最終形態はお気に召したようだ。
これはどっちだ?乙女的なやつか?それとも少年心?
ツムギんは科学実験大好きお姉さんだからなぁ。少年チックな心も持ち合わせているのかと思ったけど、虫とか蛇とかダメなのよね~。
「ベア姉さま!来ます!」
マノンとツムギは怯む事なくラスボスに向かっていった。
たった一週間で見違えたわね。
これがノアちゃん式スパルタ教育の成果か。
あれと戦えるなら、王妃様相手に怖気づく事もあるまい。
「マノンは良い動きをしますね。
まるでクレアさんのようです」
「元を辿れば同じ流派みたいなものだからね。
クレアよりは少し技術に寄ってるわね」
「クーちゃんのは一緒にしちゃだめだよ。
あれは逆にクーちゃんにしか出来ないって」
「ルーシィ?
貴方まさかクレアとも?」
「えへへ~」
「驚きました。
クレアさんがまさかアルカ以外と関係を持つとは」
「ノア姉もさっさと手を出しちゃいなよ。
面倒くさいんだから。拗れると」
「何の話です?」
「私がクーちゃんオトした時の事。
ノア姉イジケちゃって大変だったんだから」
ルーシィから、というかルビィから言い寄ったんだ……。
まあそりゃそうか。クレアだし。
「これもネタバレなのでは?」
「まあ、これくらいなら良いんじゃない?
ノアちゃんがクレア大好きなのは周知の事実だし」
皆時間の問題と思ってるでしょうし。
「だから気を遣ってるんじゃないですか」
「だからってルビィが成長するまで遠慮するのは違くない?
何でルーシィんとこのノアちゃんはそこまでクレア放置してたのかしら?本当に遠慮だけ?」
「あれ?おかーさん勘違いしてる?
別に私のいた時間軸はここの延長なわけじゃないよ?」
「というと?」
「私の時間軸のクーちゃんは、正式加入がもっと遅かったんだよ。
でもほら、実はクーちゃんもあれにとってお気に入り枠だから」
「お気に入り?
クレアの事も憎んでたりはしないの?
偽神の時間軸のクレアも勇者としてニクス側に付いたんじゃないの?」
「そこはわかんない。
ハッキリとは言わなかった。
たぶん複雑なんだよ。
元々仲良かったみたいだし」
なるほど。
勇者云々は抜きにして、知り合いではあったのか。
もしかしたら、唯一の友人でもあったのかもしれない。
お姉ちゃんに救われず、ノアちゃんと出会うまでの私は、代わりにクレアに依存していたのかもしれない。
「そうよね。
クレアとの縁ってお姉ちゃんいなくても可能性あるのよね」
「出会い方も全然違ったみたいだけどね」
多分、今のこの時間軸とルーシィの時間軸と偽神の時間軸で、それぞれ別物だったのだろう。
クレアの運命も偽神によって随分と弄り回されていたようだ。
「まさかクレアが最初から私に執着してたのって……」
「どうかな?
それも聞いたこと無いや」
ニクス世界に戻ったらクレア連れてまた深層に来よう。
贖罪代わりにいっぱい可愛がってあげよう。
「あ、負けちゃった」
流石にまだ早かったか。ラスボス戦は。
イージーならワンチャンいけるかと思ったけど。
ラスボスの眼の前で力尽きたツムギが、フル回復した状態で私の眼の前に出現した。シーちゃんはサービス良いなぁ。
「さ、もっかい行ってみよっか」
「こんなんでぃーぶいじゃん!
もう実家帰るぅ!!」
「その為に頑張ってるんじゃない。
あと、帰っても必ず連れ戻すわ。
何度も言ってるけど私から逃げられるわけないでしょ」
「束縛系だぁ!ヤンデレだぁ!」
「ヤンデレは違くない?」
「それより、ツムギ。
このままではマノンも危ないですよ?」
「イビリだぁ!
嫁カーストだぁ!」
半ばやけっぱち気味のツムギが再びラスボスへと突っ込んで行った。
「少しは成長したと思ったのに」
「ツムギん、根本的に戦い向いてないと思う」
「仕方ありません。
まあ、今回だけですから」




