38-5.不安定
「アルカ。すみません、アルカ。
やりすぎました。ごめんなさい。
どうか立ち直って下さい。アルカ」
「シクシク」
「意外と平気そうよ。
相変わらず信じられない程タフね」
今回ばかりは死んじゃうかと思ったわ。というか何度も心臓止まりかけてたんじゃないかしら。どんなに弱ってもセレネとハルちゃんとシーちゃんのスペシャリストチームに蘇生されてたけど。
本当に皆して容赦無いんだから……。
「ハル。私達だけでも戻してくれる?
もう話し合いは十分でしょ?」
「逃さないわよ!ニクス!
次はあなたの番よ!
偽神を産み出したあなたにも罰をあげるわ!!」
「今それ言う!?
ちょ!?本気!?待って!あんなの死んじゃうって!
アルカだから耐えられたの!私には無理だからぁ!!」
「名案ですアルカ。
このまま放っておけば、どうせニクスは抱え込んでいたでしょう。我々で禊の機会を与えるのは良い事です」
「大丈夫!私も気にしてない!
私のアルカは良い子のままだから!
偽神になんかならなかったから!
だらかお願いアルカ!撤回してよぉ!」
「よく言うわ。
私が何度お願いしても止めてくれなかったくせに」
「アルカぁ!!」
「安心なさい。ニクス。
神の肉体もそうそう壊れたりしないわ」
「お願いだよぉ!やめてよぉ!セレネぇ!」
「ふふ。良いわねその表情♪
ゾクゾクしちゃうわ♪」
「言っておくけど、ニクスの次はセレネの番よ。私のグリアに勝手に手を出しておいて、タダで済むと思わないでね」
「……話し合いましょう」
「ダメよ。決定。精々ニクスには優しくする事ね。
セレネの時に手を抜いてくれるかもしれないわよ」
「ニクス。逃げましょう」
「無理だよぉ!」
「観念して下さい。二人とも」
ノアちゃんも後で理由こじつけて虐めてやる。
私の復讐はこれからだ!!
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「何じゃ、お主ら。
今日は随分とフラフラじゃのう」
「ちょっと燥ぎすぎただけよ。気にしないで。
というかイオスこそ、何でまたその口調なの?
相変わらずキャラが安定しないわね」
「それこそがわしの"あいでんてぃてぃ"じゃ」
混沌だから?まさか意図的に?
でも二種類しかないよ?レパートリー少なくない?
何かニクス達は人格も滅茶苦茶みたいに言っていたけど、案外話してみるとそうでもないのよね。
本来の混沌ちゃんの構成要素が足りていないから、逆にシンプルになってたりするのかしら。
昨日と比べて随分と力が戻っているみたいだ。
それで混沌部分も復活しつつあるのだろうか。
それにしても、なんて生命力の高さだろう。素直に驚きね。
あんな辛うじて存在を保てる程度の搾りカスになっていたのに、既にニクス以上の存在感だ。
結果論だけど、私とニクスから力を貰う必要すら無かったのかもしれない。
まあ、あの時点では偽神が混沌ちゃんの住処に居座っていたみたいだし、この回復方法は使えなかったのだろうけど。
「それで、色々とお願いしたい事があるんだけど」
「うむ。もうよい。全て伝わった。
答えられる範囲で答えてやろう」
相変わらず話が早い。
アルカネットの方も健在のようだ。
「じゃがまずは、あやつを呼び起こしてやろう。
少々待っておれ」
そう言って姿を消すイオス。
あやつって誰かしら?
「ふむ。こんなところじゃな。
我ながら急場凌ぎにしてはよい仕事をしたものじゃ」
え?
もう戻ってきたの?殆ど一瞬だったよ?
というか、お連れのその子まさか?
「イオス、この子ってもしかして」
「うむ。お主らが世界の意思と呼ぶものじゃ。
今はもう触覚の方が近いじゃろうがな。
こやつに会いたかったのじゃろう?
じゃからこうして肉付けしてやったのじゃ」
肉付け?
「コ……ハ…………ル」
何かゾンビみたいな動きで近づいてきた。
しかもたぶん私の名前まで呼んでいる。
私は倒れ込みそうになった少女を慌てて抱きとめた。
少女はそのまま私にしがみついた……っぽい。
なんか体の感じが妙だ。
どこにどう力を入れて良いのかわからないのだろう。
よくこれで私の名前を言えたものだ。
立って歩けたのだって驚きだ。
いきなり問答無用で肉の塊に押し込まれたのだろう。
イオスには色々と言い聞かせておかなければならなそうだ。
「何じゃ。気に入らんかったのか?
作り直すか?」
「違うわ。
無茶しないでって話よ」
どうして表面上しか読めないのよ。
アルカネットって元々そういうもんだけどさ。
「読まん方が良いのかと気を使ったのじゃが」
それはそのままでお願い。
まったく。
どうしてそこはわかるのに、こんな無茶するのかしら。
「それは甘く見すぎじゃぞ、小春。
こやつは仮にも世界の意思じゃぞ?
人間の体何ぞ、すぐにでも乗りこなすわい」
なるへそ。
「コハル」
ホントだ。何かもう普通に名前呼んできた。
「コハル!ウレシイ!
アイタカッタ!」
言葉まで。
成長速いなぁ~。
「コハル!コハル!コハル!」
すっかり体の方も馴染んだようだ。
私の名前を連呼しながら、抱きついて額を擦り付けてきた。
「あなた、お名前は?」
「クオレリアだよ。
その子というか、この世界の名前は」
空気を読まずに横から口を挟んだニクスを少女がキッと睨みつけた。
「邪魔!消エテ!」
ニクスは突然足元に空いた穴に吸い込まれ、何処かへと消え去った。
「もう!そんな気軽に穴あけないでよ!
これ塞ぐの大変なんだよ!!」
あ。戻ってきた。
どうやら少女が穴を開けたのは世界の壁だったらしい。
要するに私達が収納空間と呼んでいる場所の更に外に繋がるやつだ。神様とかしか開けられない方のやつだ。
一度放り出されれば、自力ではこの世界に戻ってこれなくなるやつだ。
あれ、神じゃなければ一発アウトよね。
「今のはもう使っちゃダメよ。
私の家族に害が及べば、例えあなたでも許さないわ。
約束出来る?」
「コハル!?
コハル怒ッテルノ!?」
「大丈夫よ。
もうしないと約束してくれるなら怒ったりしないわ」
「ゴメンナサイ!ゴメンナサイコハル!
コハル!怒ラナイデ!ゴメンナサイ!!」
あかん。話通じてない系だ。
「大丈夫。大丈夫。
怒ってないわ。落ち着いて、レリア」
「レリア!?
私!レリア!?」
どうしてそこで興奮を?
渾名が嬉しかったの?
「レリア!私レリア!
コハル!名付けてくれた!」
それが嬉しかったの?
名付けって程じゃないけど。
まあ、喜んでくれたのなら良しとしておこう。
ルーシィから事情は聞いてるから理解出来ないわけでもない。
「それならば心配要らぬぞ。
妙な細工はわしが解いておいた。
そやつは既に偽神の干渉は受けておらぬ」
え?ほんと?
何かそんな感じには見えないけど?
「当然じゃ。一度根付いた想いまで消えはせぬ。
単に強制力が無くなっただけじゃ。
そやつも直に落ち着くじゃろう」
なるほど。
今はまだ残滓みたいなものが残っているのか。
なら何れニクスとも仲直り出来るのかしら。
「コハル!コハル!」
「とにかくよろしくね。レリア」
「コハル!」
へーちゃん二号が誕生したようだ。




