38-4.タイミング
「結局、偽神がこの時間軸から手を引いたからって、今後の影響が完全に消え去るとは限らないのよね」
「そこは気にしなくとも良いのでは?
アルカにとっても都合の良い事しか起きないはずですし」
それはそうだ。
何せ偽神は私を幸せにしたいんだから。
「私の伴侶が増え続けてきたのも、偽神の影響かしら」
「「「それはない」」」
あ、はい。すみません。
「もう一つの懸念もあるよ。
世界の意思。それがどこまでアルカの人生に干渉していたのかも見極めないと。そうでなきゃ、偽神の暗躍を絞り込む事は出来ないよ」
「対話は出来ないの?
イオスなら引きずり出せたりしない?」
「……出来るかもだけど、それは私の世界にお母様が手を加えるって話になるから……」
ニクスは乗り気じゃないわけね。
「そんな下らない事に拘っている場合ではないわ」
「そうです、ニクス。お母様とは仲良くして下さい」
「うぐっ……せめて少し考えさせて」
「だめよ」
「だめです」
「うぅ……」
容赦ないわね。二人とも。
「この際だ。
例の件も一挙に解決してしまうべきだと思うがね。
もちろん、本当に神イオスが全ての問題を解決してくれると言うのなら。だが」
「そこは……問題ないと思うけど……」
「ならその案でいきましょう。
イオスに私達の望みを全て伝えて、ニクス世界の意思とやらを引きずり出してもらいましょう。眼の前にさえ出てきてもらえれば、後はアルカが口説き落としてくれるはずよ」
「そんなところですね」
「わかったよ……」
「なんか肝心な所がふわっとしてない?」
「大丈夫だ。君が疑念を抱いた部分に関しては、この場の誰一人疑ってやしないさ」
いや、私が疑ってるんだけど。
「一応言っておくけど。
あの子別に、仲間にしても役立たないよ」
「待って!ルーシィ!
それ絶対言っちゃダメなやつだから!」
ネタバレ禁止!
いや!そんな事言ってる場合じゃないけどさ!
「あの子って事は、世界の意思とやらも女の子なの?」
「カノン!ダメだって!掘り下げないで!
先に聞いちゃうと純粋な目で見れなくなるから!」
「うん。最初からおかーさんゾッコンラブって感じの子」
無視された!?
私のことガン無視で話し進められた!?
「「「「「……」」」」」
何で私がそんな目で見られなきゃいけないの!?
「目的はただ一つ。
おかーさんを自分のものにすること。
それ以外の有象無象には一切の興味がないの。
そう、あいつによって歪められた存在」
「「「「「「……」」」」」」
何か重い話し出てきた……。
そっか、そもそも世界にも手を出していたのね……。
本当に手段を選ばないわね。あの偽神は。
でもそうよね。本当に世界の意思なんてものがあるなら、そこに干渉するのは理に適っているものね。自分の代わりに、ある意味自動的に私を幸せにしてくれるんだから。
「もうとっくに手遅れだよ。
こっちのあの子もそうなってる。
だからまあ、早めに会ってあげて。愛してあげて。
今更役には立たないだろうけど、出来る事なら慰めてあげて」
「……わかったわ。私に任せておいて」
「仕方ありませんね。
アルカに責任を取ってもらいましょう」
「まったく。
そんなのがいったい後何人いるのかしら」
「あぁ……私の知らない所で……私の世界がぁ……」
「ちなみにニクスは嫌われてるから気をつけてね」
「なんで!?
私頑張ってったよ!?
世界を守るために必死にやってきたよ!?」
「そう。だからこそだよ。
信頼していたの。最初は。
でもニクスに裏切られたから。
抜け駆けして、おかーさんを独り占めしているように見えたから。その反動でね」
「そんなの私悪くないじゃん!
ただの被害妄想じゃん!」
「言ったでしょ。歪められているの。
正常な判断は出来ないよ。既にそう、狂わされているの」
「「「「「「……」」」」」」
なんでそこまで……。
そんな無茶して、世界ごと滅びたらどうするつもりなのよ……。
いや、気にしていないのか。
領域はそれこそ無限に存在しているのだ。
いくつかの実験場が潰れたとしても、大した損害にはならないのか。
私達はまだ、偽神の事を甘く見ていたのかもしれない。
「ルーシィ。ノルンの正体は知っているの?」
「正体?
ノルン姉は心配いらないよ。
確かに少し秘密はあるけど、少なくともあれの関係者ではないはずだよ」
良かったぁ!
私のノルンはやっぱり潔白よ!
私は信じていたわ!
『『『『……』』』』
ハルちゃん、イロハ、ハルカ、シーちゃん。
何か言いたいことでも?
『『『『べつに』』』』
そう。ならそろそろ出てきたら?
『まだ』
『そうまだよ』
『まだだね』
『良きタイミングというものがあるのです。マスター』
さようで。
「ねえ、何でノルンは姉なのに、私は呼び捨てなの?」
「え?
だってニクスはニクスだし」
「答えになってないよ!?」
「う~ん。そう言われてもなぁ~。
強いて言うなら、アーちゃんがそう呼んでたからかな?」
「アリアとはどのような関係だったのですか?」
「ノアちゃん。止めておきましょう。
ルーシィにとっては二度と会えない相手よ。
そもそも、未来の話は無闇に聞くべきではないと思うの」
「アーちゃんはねぇ~ふふ♪
私の恋人でね~♪」
また無視された!?
しかもなんかめっちゃ嬉しそう!?
自分でああ言った手前、これ以上止められないじゃん!
「ルカ姉と何度も取り合ったなぁ。
楽しかったなぁ……会いたいなぁ……アーちゃん……」
って!泣きそうになってるじゃない!!
「もう!無理しないの!
そんな気の遣い方しなくて良いんだってば!」
慌ててルーシィを抱きしめると、ルーシィは私の体に手を伸ばしてきた。
「ひひ♪
かかったね!おかーさん!」
「……もう。
好きにして良いけど、少しは加減してよ」
「やぁだよ~♪」
「三回戦が始まるようですね。
そろそろグリアさんも交えてみましょうか」
「とうに三回戦どころではなかろうが。
もう好きにしたまえ……」
「あら。
そんな事言って良いのかしら?」
「セレネ君は遠慮したまえ!
君の相手はもうウンザリだ!」
「な!?
そこまで言う!?
私がこんなに愛しているのに!?」
「君の愛はねちっこいのだ!
加減というものを覚えたまえ!!」
「……そう。わかったわ。
まだまだ伝え足りていなかったのね」
「何もわかっておらんではないか!!」
「セレネ。あなたはこっちよ。
私もあなたに愛されたいの。いらっしゃい」
「カノン~!」
「はいはい。
今は慰められたいのね。
それでも良いわよ」
「皆賑やかだね。
もしかして気を遣われちゃった?」
「ルーシィが変な空気にしたからでしょ。
本当にもう無理しないでね」
「別にしてないよ。
さっきのも冗談冗談。
おかーさんに構ってほしくて演技しただけ」
「そう。なら良かった。
それなら沢山構ってあげなきゃね」
「きゃっ♪」
そうやって何度も何度も中断しながら、寝台上での会議は長い事続いていった。気になっていた事は何でも話し合った。今まで秘されていたセレネ達の目論見すらも、ほぼほぼ話してもらえた。
この妙な会議は皆の心を素直にさせるのには最適だったのかもしれない。
まあ、流石に効率悪すぎて普段はこんな事出来ないけどね。会議なんてやる時は緊急事態の方が多いもの。気分的にもそうそう盛り上がれないだろうし。
「そうそう。
ついでだから話しちゃうけど、実は家族に加えたい子達が六人程いるんだけど」
いい加減、チハちゃんズの皆も認知してもらいたい。
「調子に乗りすぎですね。
今なら許されるとでも思ったのですか?」
ごめんなさい。怒らないでノアちゃん……。
「これは反省させる必要がありそうね」
セレネは何をする気かしら?
「全員でやっちゃお♪」
ルーシィ!そっち側につくのね!わかってたけど!
「この際だ。私も色々不満をぶつけさせてもらおう」
グリアまで!?
「迂闊過ぎたわね、アルカ。
アルカも空気に酔っていたのかしら」
皆もね!もちろんあなたもよ!カノン!
カノンからセレネ誘った時は少し驚いたわ!
「「しかも私達との約束まで忘れてるわね!」」
ルチア!アウラ!
もしかして出てくるように言わなかった事怒ってる!?
「忘れられていると言えば、そうこの私。
ご無沙汰しております。お母様。
約束どおり、今度はお母様の伴侶を目指すわ!」
スミレ!?本当に久しぶりね!
という事はカノンの攻略が終わったのね!
そうよね!セレネ達とも普通に絡んでたし!
「もちろん私もいるよ!アルカ様!
私もアルカ様のお嫁さん目指しちゃうんだから!」
コマリ!
もちろん忘れてないわ!
そろそろ出てくる頃かなって思ってたのよ!本当よ!
「これは私も乗っかってよろしいのでしょうか?」
半信半疑なら止めておいた方が良いと思うわ!ソフィア!
この混乱の中だと印象が薄まると思うの!色々と!
「きた」
ハルちゃん!?
何故今出てきたの!?
まさか助太刀を!?
「きたわね。この時が」
イロハ!私信じてる!
だからそっち側に立つのはやめて!
「ふっふっふ。
この混乱ならば誰も私を止められまい!」
でしょうね!
今更ハルカを止める冷静さを持った人はいないでしょうね!
「マスターには反省して頂かねばなりません」
タイミングってここなの!?
シーちゃんまでそっち側なの!?
「覚悟して下さい。アルカ。
アルカが泣こうが喚こうが私達は手を止めません。
言っておきますが、深層を抜け出すのも許しません。
ハルもこちら側についたのです。
逃げられるとは思わないことです」
「何故そこまで!?」
「当然、私達の真の要求は一つよ。
偽神に対抗する為だからって、イオスの役目を継ぐのは認めないわ。止めて欲しければ誓いなさい。二度とそんな事は考えないと」
「考えない!もう二度と考えません!」
「まあまあ。まだそう言わないで、アルカ。
折角の機会だ。何もしないままじゃ勿体無いじゃん。
いっぱい泣かせてからなら、その言葉も認めてあげるから」
「鬼!悪魔!人でなし!」
「人じゃないし。神だし」
「誰か!誰か私に味方はいないの!?
ハルちゃんは!ハルちゃんなら!」
「かんねんしろ」
「ぶんたいも」
「ださせない」
「そんなぁ!」




