38-3.干渉の影響
「あと気になっているのは、ノアちゃんの護衛についてと、偽神が手を引いたことによる影響よね」
「前者は力を付けなければ話にならないわ。
今は敢えて気にしないでおきましょう」
「そうですね。セレネの言う通りです。
それと、護衛すべきはアルカです。
私はむしろ、最も安全であるとも言えます」
まあそれもそうか。
今のところ、偽神はノアちゃんを直接攫ってしまうつもりでも無いみたいだし。
「偽神が手を引いた影響とやらはどうだろうね。
アルカの推測通りなら、認識できない何かは偽神だった。
ただ、偽神がこの世界で直接何かをしたと言うよりも、あらゆる並行世界でアルカの幸福を追求した結果、その変化がこの時間軸にも影響を及ぼしてきたと考えるべきだ」
その干渉は恐らく本当に多岐にわたるはずだ。
「目に見えてわかりやすいものと言えば、ミユキの出現だ。
ミーちゃんの方も同じだね。
二人は偽神が干渉した事により世界を移動した」
「ただその二人には大きな違いがあるのよ」
領域越えの有無という違いはある。
しかしここで問題なのは、偽神の干渉が直接的であったかどうかだ。
ミーちゃんは今回偽神が手ずから連れ込んだはずだ。
タイミング的にそれは間違いないのだろう。
「そうだね。
ミーちゃんの場合は偽神が直接この時間軸に手を加えた。
けれどミユキの場合は、恐らく別の時間軸で起きた出来事がこの時間軸にも反映されたんだ」
「それはどう違うのですか?」
どう説明したものかしら。
巧妙い例えが思いつかない。
「お姉ちゃんは偽神にとっての唯一無二ではないの。
唯一無二だったお姉ちゃんは、きっと別の時間軸に存在したんだと思うの」
「唯一無二。
つまりアルカにとってのミーちゃんのような存在ですか?
同じ領域を出身地とするお姉さんだと?」
「そう。まさにそういう事よ。
同じように偽神の連れているミーちゃんは、私にとっても唯一無二のお姉ちゃんではないの。
私の本当に生まれ故郷を共にしたお姉ちゃんは、あらゆる領域中を探しても私達のミーちゃんしか存在しないの」
「ならば今いるミユキお姉さんは、偽神にとってどのような存在なのですか?
あのミユキお姉さんは、いったい何処から現れたのですか?」
実はそれもよくわからない。
そもそも時間軸の枝分かれはどのように発生するのだろう。
枝分かれが起きた瞬間に、新たな領域が誕生するのだろうか。
少なくとも、分岐前が今尚重なり合っているわけではないのだろう。
領域と言うくらいだ。それぞれの時間軸ごとに別のエリアに存在しているはずだ。
分岐前の部分は丸々コピーされたと考えるのが近いのではなかろうか。
であれば、領域は無限に増え続けているのだろうか。
混沌ちゃんという外部管理者が存在している以上、管理できる数には限りがあるのではないだろうか。
増えすぎた領域は、いずれ処分されてしまうのではないだろうか。
それが領域の寿命なのだろうか。
私達がどれだけ生き続けようとも、いずれ終わりの時は訪れるのだろうか。
「偽神にとって、コピーされた偽者程度の存在なのかもしれない。
それはミユキに限らず、私達やノアも同じかもしれないけど」
領域ごと無限に生えてくる、量産されたお姉ちゃんに過ぎないのかも。
「「「「……」」」」
「それでもお姉ちゃんはお姉ちゃんよ。
私を助けてくれたのは、あのお姉ちゃんなの。
ミーちゃんでも、偽神のお姉ちゃんでもなくね。
私が愛を向けているのはあのお姉ちゃんよ。
それはミーちゃんに向けるのとすら別のものよ。
あのお姉ちゃんを私は愛しているの」
「大丈夫です。
アルカの気持ちは疑っていません。
あのお姉さんが私達にとって大切な存在である事も、言われるまでもない事です」
「そうよ。
余計な心配してんのはアルカだけよ。
見くびらないで頂戴」
「うん。ごめん。
ありがとう、ノアちゃん。セレネ」
「なんとなくミユキお姉さんの存在がどういうものなのかわかりました。いえ、やっぱりよくわかりません。ですが、アルカとニクスの言いたい事はわかりました。
ミユキお姉さんの存在こそが、『認識できない何か』による干渉の結果だと言いたいのですね」
「そう。つまりはそういう事。
同じように、直接偽神がこの領域に手を加えていなくても、他の時間軸で起こった出来事が反映されているんだと思うの。
それは分岐以前の話しだけではなく、隣り合った並行世界の出来事も影響し合っているんじゃないかしら」
例えばそう。ノルンとの出会いとかも。
「あり得ない話ではないね。
そういう干渉が私達には不自然に映るわけだね」
「けれどそれがわかったからって、具体的にどの出来事がって判断出来るわけ?」
「「「……」」」
「わかるかもしれんぞ。
少なくとも、神イオスならばな」
「お母様が教えてくれるかなぁ。
そういうのは口を閉ざしそうな気がするけど」
「それこそ心配したって意味がないわ。
聞くだけ聞いてみましょう。
情報は多いに越したことないんだし」
「ですね。
対策を打てるとまでは言えませんが、手口の癖ぐらいは見抜けるかもしれません」
皆前向きね~。
「手口と言えば、ルーシィの事だけど」
皆の視線が珍しく静かに聞いていたルーシィに集まった。
「も~♪
そんな風に見つめられたら興奮しちゃう☆」
「ルーシィ。
君が加担してきた悪事を詳らかにする勇気はある?」
「……」
ニクスの直球すぎる問に沈黙が流れる。
ルーシィは偽神と長く共に生きてきたはずだ。
偽神の手口を知りたいのなら、ルーシィに聞くのが手っ取り早い。
だけど、それは本当に聞いて良い事なのだろうか。
ルーシィの気持ちもあるが、私達だって知るべきじゃないのかもしれない。
知ってしまえば、ルーシィを見る目だって変わってしまうかもしれないのだ。
「ルーシィ。何も言わないで。
私はあなたを愛してる。
愛していたいの。これからも。
ニクスも。悪いけどその質問は遠慮しておいて。
ニクスが正しいのはわかるけど、私もその勇気がないの」
「うん。ごめん。アルカ。
そうだね。余計な事を聞いたよ。
ルーシィもごめん。
これからは仲良くしてくれると嬉しいな」
「……しょうがないなぁ。
次はニクスにしてあげるヨ♪」
「待った!何その手の動き!?
やだ!近づかないで!」
「ふっふっふ♪
仲良くするんでしょ♪
そんな事言わないで♪」
「少し休憩しましょうか。
アルカはまだまだ話したいようですし、ゆっくり時間をかけていきましょう」
そう言いながら、今度は私に覆いかぶさるノアちゃん。
ノアちゃんも火がついたらしい。
ついさっき寝落ちするまで頑張ったのに。
まあ無理もない。
何か命の危機とかがあると盛り上がるって言うもんね。
偽神なんてわけのわからない存在に出会ってしまったのだ。
色々ストレスも溜まっていたのだろう。
「あらら。見抜かれちゃったのね」
「アルカの考えなど何時でもお見通しです」
「なら私のして欲しい事してくれるのかしら?」
「いいえ。私がしたい事をします」
「ふふ。なら良かった。
それが私のしてほしい事だから」
「余裕でいられるのも今の内です。
カノン、付き合って下さい」
「私で良いの?
セレネは?」
「このメンバーではグリアさんに貸してあげなければ可愛そうですから」
「お気遣いは結構だ!
セレネ君もそっちで回収してくれたまえ!」
「ふふ。逃げようたってそうはいかないわ♪」
「やめたまえ!
私はもう十分だ!
あちらへ行きたまえ!」
「あんまりグリアをイジメすぎてはダメよ、セレネ。
へそを曲げたら長いんだから」
「心得ているわ♪言われるまでも無くね♪」
きっと既に何度もやらかしているのだろう。
その上で、ギリギリを見極められるだけの経験を積んできたのだろう。
やっぱり私がグリアを伴侶にした途端、好き勝手やっていたようだ。
後でセレネもイジメてやろう。ついでにグリアも。
誰がハーレムの主なのかわからせてやらないとだ。
「何時まで余所見しているつもりですか?」
何はともあれ、先ずはノアちゃんの相手だ。
カノン共々可愛がって、いや、今は可愛がられてあげよう。
ふふ。これは長くなりそうだ。




