37-19.エンディング
『マスター。そろそろ』
「あ、うん。そうね。
私がやらなきゃなのよね」
シーちゃんに催促されて、一旦運営側の控室に戻った。
これから一つ小芝居をしなければならない。
これは神アバターの本来の役目だ。
流石にちょっと気恥ずかしい。
まあ、既に聖女無しで魔神を倒せたりと色々融通は効かせているので、ついでにこれもオミットしてもらうって手も無くもないのだけど。
「じゃ、行くわよ」
「イエス、マスター」
アリア達の立つ、魔神戦の最終ステージ、空中魔法陣の上に天より光が降り注いだ。
私はシーちゃんを伴ってその光の中を降りていく。
眼科には先程まで一緒にいたアリア達が騒いでいる。
アリアとルイザちゃんは一向に気付く気配がない。
まあいい。もうこのまま進めちゃおう。
ルーシィはニヤニヤ笑いで私にウインクした。
後で絶対、誂ってくるやつだ。
いつか鳴かしてやろう。
ミーちゃんは驚きつつ、うっとり顔で私を見上げてきた。
たぶんあれ、妹の晴れの舞台を見るお姉ちゃんの顔だ。
微笑ましいとしか思ってないやつだ。
ポジティブに捉えるなら、これがごっこ遊びに過ぎないと理解しているとも言える。
多少の気恥ずかしさは我慢しよう。うん。
「勇者たちよ。
よくぞ魔神を打倒してくれました。
この世界の神として心よりの感謝を」
「アリア様!私の何が足りぬのですか!
どうか言って下さいませ!
私は覚悟を決めました!
アリア様のためなら何でもいたします!」
「いや!あの!そういう話じゃなくて!」
「ごほん。
勇者たちよ。
よくぞ魔神を」
「あ、やり直した」
うっさいやい!
「アリア様!どうかご決断を!」
「うぅ!それは!」
「もう良いわ。
お疲れ様。
世界は神様パワーで元通りにしておくから。
皆には迎えが来るからもうちょっと待機していてね」
本当はこの高い位置から復元されていく町並みを見て、感動のエンディングにって感じだったんだけどなぁ。
「あきらめるな~!
最後まで真面目にやれ~!」
何故かヤジを飛ばし始めるルーシィ。
本当にあの子、やりたい放題ね。
「小春~!こっちに視線頂だ~い!」
お姉ちゃん、いや、ミーちゃんは何やってるの?
なんか指で四角を作ってこっちを覗き込んでる。
「録画とスクショです。
機械天使アバターにはカメラ機能も搭載されています」
早速使いこなしてるの?
将来有望すぎない?
「シーちゃん。後はよろ」
「イエス、マスター」
結局最後までマスターだったわね。
いや、まだまだ最後ではないんだけども。
ゲームも後半分くらいは残ってるし。
とは言えまあ、ここでメインストーリーは一旦区切りだ。
後は後日談とかサブクエとかだ。
本当は残り一日、二日程度の期間だけなんだけどね。
RTAされた弊害で、まだ丸三日以上残っている。
魔神の出現には日数制限も課したほうが良いのかも。
魔神戦後、ゴールまで辿り着くと、ダイスの縛り無しで自由に世界を歩き回れるようになっている。
これがまあ、ゲーム攻略のご褒美だそうだ。
元々無視できるから、ご褒美ってのもなんか変だけど。
修学旅行の自由時間みたいなものだ。
私、あれに良い思い出無いけど。
まあとにかく、その自由時間を多めに取るとしよう。
この世界でのルイザちゃんの故郷の森まで、ゆっくり観光しながら向かってもいいわけだしね。
シーちゃんの操作で、眷属達によって荒らされつくした世界中の町並みは、またたく間に復興していった。
真下に存在したはずの廃都市も、都市の残骸が消え去って、綺麗な草原へと姿を変えた。
「モース!」
同じく復活した蛾怪獣が、こちらに向かって飛び上がってきた。
先に聞いて知ってはいたけど、やっぱりこうして直接目にすると感動だ。
我ながら、感情移入しすぎではなかろうか。
「うげぇ。
何あれ。まさかあれが迎え?
悪趣味なタクシーね」
ルーシィ!なんて事言うの!?
その反応って事はルーシィの時代にはオミットされちゃってるの!?
あとタクシー知ってるのね!
アニメ教育は健在なのかしら!
哀れモース……。
いやまあ、確かにこうして上から見ると、デッカイ蛾が迫ってくるようにしか見えないんだけどさ。
流石のミーちゃんも頬が引きつってるし。
この絵面は嫌う子いるかもしれん。
いや!けど!
私的にはやっぱり愛着があるからね!
モースは決して消させたりはしないわ!
それから私達の下まで辿り着いたモースの頭頂部に、再び足元の魔法陣が縮小して張り付いた。
それから復興していく世界を眺めながらぐるりと世界を一周して、廃都市のあった草原まで戻ってきた。
草原に私達を降ろすと、挨拶するように鳴いたモースはどこかへと飛び去っていった。
「モース~!ありがと~!
また会おうね~!絶対よ~!」
「小春、怪獣映画好きだったものね」
「あ、そうだ。
聞いてみようと思ってたんだ。
私に怪獣映画見せたのってお姉ちゃんだっけ?」
もしくはお父さん?
「お母さんよ」
「え゛」
なぜ?ほわい?
「小春、忘れてしまったの?
お母さんの映画趣味」
ああ。そっか。言われてみればたしかに。
そっかお母さんの趣味がきっかけなのか。
なんか思い出が色々蘇ってきた。
度々レンタルビデオ店で借りてきた、ジャンルもバラバラの映画をお茶の間で流すんだよね。
ホラー映画とかも普通に混ざってて、何度文句を言ったかわからない。
でも一時期、怪獣映画ばかり借りてきてたんだった。
あれきっと、私が好きだから借りてきてくれてたのよね。
あれもそもそも、先に怪獣映画が好きになったんじゃなくて、お母さんに見せられて気に入ったのか。
でもそんな趣味にも、成長すると段々付き合わなくなっていったのよね。
食事が終わるとすぐに部屋に戻って、自分の好きなアニメや漫画に熱中して。
そんな風に、いつの間にか忘れてしまっていたのだろう。
もしかしたら、お姉ちゃんが私に施した記憶の封印も原因にあるのかもしれないけど。
もっとお母さんと一緒に映画見ればよかったなぁ。
お母さん。会いたいなぁ。元気にしてるかなぁ。
そんなわけないよね……。
娘二人ともいなくなっちゃったんだし……。
私達の無事を報告するだけでもどうにかならないかしら。
お姉ちゃんの場合は事故死になっているだろうからややこしいかもだけど……。
とにかく、イオスに相談してみましょう。
「さあ、ルイザちゃん。
次はお母さんドラゴンの所へ向かいましょう」
「あ!はい!
って!え!ここどこですの!?
いつの間に移動したのですの!?
は!?これはもしや転移を!?」
「ふふ。やっと正気に戻ってくれたのね」
ぐったり気味のアリアが私に抱きついてきた。
結局アリアがルイザちゃんの求婚に頷く事はなかった。
アリアはどうして断ったのかしら。
自分からプロポーズしたかったのかな。
それとも、ルイザちゃんが冷静じゃない間に関係を進めちゃうのは卑怯だと思ったのかな。
さっき私にもそんな風に言っていたし。
まあ、ルイザちゃんの件はアリアに任せましょう。
ふふ。こうして経験を積んでいくのね。
娘の成長を見れて、お母さん嬉しいわ。
私はアリアを抱き上げて歩き始めた。
ルーシィはミーちゃんの手を引いて私を追い抜いた。
ルイザちゃんは私に抱えられたアリアに申し訳無さそうな視線を送りながら付いてきた。
もうダイスも良いか。
目的地、ゴールまで行くべきな気もするけど、気持ち的にはこれでゲームクリアで構わない。
後はクリア後のオマケ要素だ。
好きに歩き回って、時間が来たらお母さんドラゴンの下へ転移してしまおう。
三日間のプチ旅行だ。
ルーシィとミーちゃんとの新婚旅行だ。
ルイザちゃんがアリアを落とすための、或いはアリアがルイザちゃんを落とすための強化合宿だ。
そんな風に色々と理由をこじつけながら、好き放題楽しんでみるとしよう。
「シーちゃんも一緒にどうかしら?」
「お供します。マスター」
ふふ。
シーちゃんを側近に加える件もここで進めてしまおう。
シーちゃんのお手伝いはミーちゃんに任せよう。
そう言って、シーちゃんも私の中に常駐してもらおう。
シーちゃんは元々側近みたいなものだけど、そこだけ遠慮されちゃってるからね。
今度こそ口説き落としてみせよう。
そんな風にして、私達は自由に歩き続けた。
運命の縛りは放棄して、自分達の好きに目的を決めて、仮初の世界でやりたい放題遊び続けた。
現実世界だってきっと同じで良いんだ。
未来なんて気にせず、今できる事を全力で楽しむべきだ。
私達ならきっと乗り越えていけるはずだ。




