37-17.悪戯黒兎
少々巻き気味の夕食会が終わり、約束通りルイザちゃんに話せる範囲で情報を共有した。
当然、ルイザちゃんに話せる事などたかが知れていた。
犯人は取り逃がしたけどもう近くにはいない、くらいの事しか伝えられていない。
これでどこまで納得してもらえたかは疑問だけど、ルイザちゃんは私の話した内容に深く踏み入ってくる事は無かった。
「二人が望むなら、ゲームの続きをやっても良いわ。
けど今回は全員での参加は出来ないの。
もしやるなら、私と一緒に三人だけで遊びましょう」
シーちゃんが頑張ってくれたおかげで、既にセーブ機能も実装されている。
問題なく前回の続きからプレイできるそうだ。
あんな事があったばかりで本当に良いのかと思わなくもないけど、私は分体での参加だし、三人だけなら何かあったとしてもすぐに救出出来るはずだ。
念の為、今回はシーちゃんにも外部から干渉出来るように調整してもらっている。
シーちゃんには、内と外で見ていてもらうつもりだ。
そんな感じで、試しに少しだけプレイしてはどうかと提案してみたのだった。
「私も行くよ!おかーさん♪」
いつの間にか首に絡みついていたルーシィ。
「マスター。
ミーちゃんの同行も承認して下さい。
このシミュレーターを使って、体の使い方を覚えさせてみるのは如何でしょう」
なるほど。
ナノマシン体は特殊だからね。
スキルやらなんやらで補助できるゲームの方が、かえって学習しやすいのか。
とは言え、ミーちゃんの場合は色々と考えないといけないこともある。
未来ミーちゃんと同じ道に繋がるとわかっていて歩ませるのは忍びない。
このミーちゃんがあの子になる事はないという事もわかってはいるのだけど。
「う~ん。
そんなに焦る必要あるかしら」
「良いじゃない!
来たばかりのお姉ちゃんを一人にしてはダメよ!
出来る限り側にいてあげて!」
アリアも参加に賛成なのね。
まあアリアの言う事も尤もか。
今回はニクス世界の時間で十数分程度のつもりだったから、ちょっとくらい良いかとも思ってしまったけど、ミーちゃんの事ももっと気にかけないとよね。
色々ありすぎて気が回っていなかったわ。
ゲーム世界で親睦を深めるのも良いかもしれない。
「ルイザちゃんもそれでいい?
三人から五人になってしまったのだけど」
「もちろんですわ!
よろしくお願い致します!なのですわ!」
なんか変な言葉使い。
もしかしたら戸惑っているのかも。
あのゴタゴタの後で増えたと紹介された家族だもんね。
ルイザちゃんからしたら、警戒する事くらい当然なのだ。
それに、ルイザちゃんは私の勧誘術を知らないものね。
当然、アリアはもう動じてない。
どうせ家族が増えるのは何時もの事だし。
「改めまして、ルイザちゃん。アリアちゃん。
私は篠宮 深雪。改めミーちゃん。
小春の、いえ、アルカのお姉ちゃんで妹よ。
気軽に、ミーちゃんって呼んでね♪」
「うん!ミーちゃん!」
ミーちゃんの一見意味不明な自己紹介にも動じず、素直にミーちゃんの手を握るアリア。
「ルビィは良いの?」
「ルーシィよ。おかーさん♪
ルビィと呼んで良いのは、ベットのな・か・だ・け♪」
「え!?」
一瞬で真っ赤になるルイザちゃん。
おかしいなぁ。母娘が仲良く一つのベットで寝るって話しをしただけなのになぁ。
「ふふ♪
ルイザ姉は変わらないのね♪」
未来ルビィはルイザちゃんも知っているのか。
ならやっぱ、ルイザちゃんは私達の家族に加わるのだろう。
これ、ネタバレになるわね。
未来ルビィの言葉には気を付けなきゃ。
「ルーシィお姉様!
先程未来からいらしたと!
私は!私はどうなっていましたか!
アリア様と!アルカ様と家族になれていましたか!」
「ありゃ?
ルイザ姉にしては察しの悪いことで。
やっぱり少し違うわね。
未来のルイザ姉もあっち方面の話には弱いけど、それ以外は何時でも冷静沈着だし。
やっぱ、おかーさん達に散々振り回された結果かしら?」
なんかごめん……。
「ダメよ!ルイザ!
未来の事を無闇に聞いてはいけないの!
ルイザはルイザよ!
ルーシィの知っているルイザとは別人なのよ!
そう考えなさい!」
あら。
アリアったら良い事言うじゃない。
誰の受け売りかしら?
「ねえ、なんで私はお姉ちゃんって呼んでくれないの?
今のアーちゃん、私より年下じゃん」
「「アーちゃん!?」」
「みゃは☆
あ~バレちゃった♪
もしかして♪もしかして♪
私とアーちゃんの蜜月の日々想像しちゃった?
ふふ♪アーちゃんたら凄いんだよぉ~!」
クネクネニヤニヤしながらルイザちゃんの耳元で囁くルーシィ。
ルイザちゃんは既に耳まで真っ赤になっている。
「ダメよ!ルーシィ!
ルイザをからかわないで!」
アリアがルイザちゃんを庇おうと間に割って入った。
ルーシィはアリアに標的を変更して、怪しい手つきで頬を撫でた。
「ふふ♪
こっちのアーちゃんもかっわい♪」
そのまま流れるようにアリアの唇を奪い、ルイザちゃんに見せつけていくルーシィ。
片手で頬から首、そして後頭部へと撫で回すように手の位置を変え、もう片方の手でアリアの腰を抱きしめて固定しながら、お尻の方へと伸ばしていく。
「……!!!」
ルイザちゃんはそんな二人を真っ赤な顔で視線を逸らすことなく見つめ続けていた。
「はい。そこまで」
私はルーシィを抱き寄せ魔法で回収した。
膝から力が抜けてへたり込むアリアをルイザちゃんが慌てて支えた。
「ふっふ~♪
私のテクも凄かったでしょ♪
アーちゃん♪」
確かに言うだけの事はあるようだ。
既に経験豊富なはずのアリアが一瞬で腰砕けになってしまった。
「ダメよ、ルーシィ。
そういう事は時と場所を選びなさい。
私も後でちゃんと相手してあげるから」
「楽しみになっちゃった?」
ニマニマと笑いながら見上げてきた。
この悪戯兎、どうしてくれようかしら。
『今のアルカじゃそっちも勝てないんじゃない?』
『きょうてき』
『私頑張って修行してくるよ!イロハ!行こ!』
ダメよ。ハルカ。やめなさい。




