37-15.頑固者
「そろそろ話を再開しましょうか」
名残惜しいけど、息抜きの雑談タイムは一端終わりだ。
まだ私達は話し合わなければならない。
この機会に、全ての疑問を解消してしまいたい。
「いいえ。
やめておきましょう。アルカ。
一端ここらで切り上げるべきです。
少々根を詰めすぎですよ。
焦る必要はありません。
今後の活動は長期的なものになります。
これから何度でもゆっくり話し合っていきましょう」
「まだまだ気になる事がいっぱいあるの」
偽神の今後について予測を立てておきたい。
それに時間遡行についてもう少し掘り下げておきたいし、ある技術についてもイオスとルネルの意見を聞いておきたい。
とはいえ今はルネルが本調子ではない。
イオスも復旧作業とやらに向かう必要がある。
確かにこのまま続行するのは無理があるのかもしれない。
「それでもです。
今はお客様もいるのです。
続きは皆で夕食を食べて、少し気分転換をしてからでも遅くはありません」
少しでは済まないでしょうに。
今日はルイザちゃんの歓迎会用のご馳走だって用意してあるんだ。
『尚の事じゃない。
少し落ち着きなさいな。
ノアの言う通りよ。
今すぐどうこうなる事でもないのだから』
本当にそうだろうか。
偽神は相当気まぐれらしいのだ。
再びやる気になる事だってあるかもしれない。
ルビィを迎えに戻ってくるかもしれない。
いつ何が起こるかなんてわからないんだ。
だから少しでも、一手でも多く備えておきたいのだ。
『だから落ち着けと言っているのよ。
今できる事をいくつ準備したって焼け石に水よ。
逆立ちしたって勝てっこないんだから。
だからそんな事になんの意味もないわ。
それは時間を無駄にするだけだと言っているの』
……そうね。言う通りね。
確かに少し冷静じゃなかったかも。
ありがとう、イロハ。
「わかったわ。ノアちゃん。
一端切り上げましょう。
ニクス。場所を貸してくれてありがとう。
今度は二人でゆっくり遊びにこさせてね」
「うん。良いよ。
それがアルカの気分転換になるならいくらでも」
まったく。
皆して気を使いすぎよ。
こんなんじゃダメね。
偽神には私一人で立ち向かえるわけないんだから。
皆に余計な心配をかけている場合じゃないわね。
「イオスはどうする?
私達と一緒にくる?
それとも、ここから別行動?」
「別行動よ。一度帰るわ。
あなた達の時間で明日までには仕込みも済むはずよ。
そうだ。へーメラ借りてくわね。
この娘はきっと役に立ってくれるわ」
「へーちゃんも良い?」
「アルカ!」
おっけーらしい。
「お願いね」
「「アルカ!」」
へーちゃんの鳴き声を真似て返事をしたイオスは、へーちゃんと共に姿を消した。
イオスの神の座的な場所に移動したのだろう。
今のも転移なのかしら。
そもそも転移で行けるような場所なのかしら。
今度聞いてみよう。
「アルカは行ってはいけませんよ」
「行ったら説教じゃ済まさないわよ」
「お母様の後を継ごうなんてバカな考えは忘れてよね」
ノアちゃん、セレネ、ニクスから念押しされてしまった。
どうやら私の考えを読まれたらしい。
もうフィルターは解かれているのかしら。
『まだ』
『ぜんいん』
『みえてない』
流石ね。三人とも。
「先ずはゆっくり話し合いましょう。
結論を出すのはその後にね」
「「「ダメって言ってるの!言う事聞きなさい!」」」
躱せなかったか……。
「諦めなよ、おかーさん。
本当にあれと同じ存在になりたいの?
やるなら他の手段探すべきじゃない?」
ルビィもそっち側なのね。
まあ確かに。
偽神の手間を省くような行為でもあるのよね。
決してその意味がわからないわけじゃない。
ただそれ以外に手段が思いつかないだけだ。
私だって本当は……。
「わかった。
ならないで済むように頑張るから。
今はそれで見逃して」
「アルカは仕方のない人です。
本気モードだと頑固でいけませんね」
「まったくよ。
こういう時は全然聞いてくれないんだから」
「でも前回はたしか、セレネもアルカ側だったよね」
「あの時は苦労しました」
「うるさいわね。
つまんない事思い出すんじゃないわよ」
「セレネは何時でも私の味方でしょ?」
「だから止めてんじゃない!
こういう時に限って聞き分け悪いのやめなさいよ!」
「ごめんね。セレネ」
「それは何に対してよ!
どうせ諦める気なんてないでしょ!」
さすセレ。よくわかってる。
「安心してママ♪
いざとなったら私が力尽くで止めてあげる♪」
「ルビィの伴侶入りを認めます。
アルカの側で見張っていて下さい」
「がってん♪」
もう。ノアちゃんたら。




