37-12.作戦会議・再
「それで、どうしようか。
皆はどう?
このまんまやられっぱなしで我慢出来る人いる?」
「落ち着いて下さい。
アルカの気持ちはわかります。
ですが、敵は途方もなく強大です。
先ずは引き続き考察と今後の方針決めを行いましょう。
やり返すにせよ、止めるにせよ、備えるにせよ、救うにせよ、我々には準備が必要です。
先ずはその具体的な方法を話し合いましょう」
そうね。
ノアちゃんの言う通りだわ。
私はあれを止めたい。
今尚付き従う未来ミーちゃんを救いたい。
未来ルビィの復讐を手伝いたい。
ノアちゃんが居る以上、再び襲ってこないとも限らない。
他の領域の事だって、これ以上の惨劇を食い止めたい。
ミーちゃんを殺して異世界転生させた件の復讐もまだだ。
散々好き放題しておいて、あっさり放り出す程眼中に無かったのも腹が立つ。
なにより、あれは別の可能性の私だ。
私が食い止めようとしないでどうするというのだ。
見て見ぬふりなんて出来るはずがない。
だってあれが不幸にするのは、私の家族なのだ。
例え別の時間軸だろうと関係ない。
何処かでノアちゃんが泣いているなら救いにいかないと。
それは私の存在意義だ。
私だってノアちゃんに対する愛は負けていないんだから。
何をするにせよ、私には力が必要だ。
あれを追いかける力が必要だ。
あれを倒す力が必要だ。
黒幕、いえもう何か違うわね。
何か相応しい呼び名は無いかしら。
考えるついでに少しおさらいしてみましょう。
世界の敵、いえ、世界では範囲が狭すぎるわ。
世界がいくつも集まって、混沌ちゃんの管理する一つの領域となるわけよね。
そしてさらにその領域が、分かたれた時間軸ごとに無数に存在しているわけだ。
時間を遡るとは、要するに領域を超える事なのだろう。
あれ?
以前ミーシャが、私が神になれば一方通行の過去干渉は出来るって言ってなかった?
これは後で確認しておこう。
ミーシャが何か勘違いしていた可能性もあるけど……。
いや、今は余計な事は考えるまい。
それにノルンも同じだろう。
ノルンが何度か使ってくれた力も気になるところだ。
私に未来の映像を見せてくれたのか、それとも私を過去に引き戻したのかはわからないけど、ノルンがその手の力を持っているのは間違いない。
イオスも交えて色々確認してみるとしよう。
ルネルがやった巻き戻しの方も気になる。
今回それを聞きたくてこの場に連れ込んだのだけど、まだその話は出来ていなかった。
まさか話が終わる前に黒幕本人が乗り込んでくるとは思わなかったし。
考えを戻そう。
とにかくその数多ある領域を襲っているのが、かつてお姉ちゃんを過去に送った私だ。
きっとお姉ちゃんを送ったのは全ての始まりだったのだ。
お姉ちゃんに作らせた理想の世界を乗っ取るという計画の。
本当に悪辣な存在だ。
一時は感謝すらしたものだが、まさかそんな事の為にお姉ちゃんを利用していたとは思いもよらなかった。
もはや黒幕どころか、領域や混沌ちゃん、そして私達の天敵とも呼べるような存在となってしまっている。
何か相応しい呼称はないだろうか。
混沌ちゃんハンター?
ドメインイレイザー?
ここはシンプルに、簒奪者とか?
どれもなんかしっくりと来ない。
もっとわかりやすく言い現せる言葉はないだろうか。
『ディ◯イド』
ダメよ。ハルちゃん。
確かに世界の破壊者とか名乗ってたけどさ。
『アルカオルタ!』
それもダメよ、ハルカ。
『それを言うなら、小春オルタじゃないかしら。
あの偽者がアルカと名乗っていたかはわからないんだし』
そういう問題じゃないわ、イロハ。
もう。
皆ふざけてるの?
そんな場合じゃないでしょ?
『『『おまいう』』』
なんでさ。
『名前なんてなんでも良いじゃない。
それこそ拘ってる場合じゃないわ。
まあ、何時も通りブレないで居てくれるのは心強いけど』
そうね。
ごめんなさい。
取り敢えず"偽神"とでも呼称しておきましょう。
私に成り代わる偽者であり、原初神の端末を狩る征服者。
そんなあいつにピッタリの言葉が思いつくまではね。
「奴を黒幕改め、偽神と呼称するわ。
偽神を滅ぼす為という前提で、現状の再確認と今後の方針決めを進めましょう」
「本気?
止めときなよ、おかーさん。
あんなの相手するだけ無駄だって。
どうせ戻ってきやしないよ。
それにどうやって追いかけるつもり?
領域はそれこそ無限にあるんだよ?」
ルビィはすっかり心が折れてしまっているようだ。
私の膝に頭を乗せて、私の手をニギニギしながらボヤくように反対した。
「ダメよ。
今は私達だけなの。
あれに対抗出来るとするなら。
それに逆に考えてみて。
私達がその意思を持って活動を続ければ、私達自身が討ち滅ぼさなくても、この今の私達の影響を受けた未来の私達が太刀打ち出来るようになるかもしれないわ。
そうすれば、偽神の野望の阻止、あるいは偽神討滅もある種自動的になされるかもしれないじゃない。
実際に追いかける手段を見つけられなかったとしても、奴に一矢報いる方法は存在するのよ」
「……なるほど。
それは悪くないね。
そういう話なら私も少しは力になれるかも。
皆の修行、腑抜けたルネルの代わりに引き受けてあげる」
ぴくっとルネルの肩が動いた。
ルビィのあんまりな物言いに反応したようだ。
私はルビィのほっぺを摘んで注意する。
「こら、ルビィ。
そういう事を言うのはやめなさい。
大体、もう今のルビィじゃ勝てないんじゃない?
確かにルビィは修行いっぱい頑張ったんだろうけど、偽神からの力の供給が無くなったら神威抜けなかったじゃない。
ルネルなら、自力で神威なんて突破出来るわよ?」
「むぅ。
なら良いよ。
後でもう一度ルネルと勝負してあげるよ。
私の力、おかーさんに見せてあげるんだから」
「そうね。
楽しみにしているわ。
私だってルビィがこんなに強くなってくれたのは嬉しいんだもの」
「えへへ~」
何故か私の指を咥えて甘えるルビィ。
ちょっとくすぐったい。
「なんでアルカばっかりなのよ。
私の方にも来なさいよ」
セレネが不貞腐れ始めた。
セレネも未来ルビィに興味津々のようだ。
しかし今は膝にニクスを抱えているので、残念ながら近づいてこれないようだ。
「後でね、ママ。
もちろんママの事も愛してるよ♪」
ルビィは私の指を口から離して、セレネにウインクした。
小さなルビィもいずれこうなるのかしら。
なんだか少し複雑だ。
いや別に、悪いって意味じゃないんだけどね。
「そうだ!
今から深層行こうよ!
私そっちも自信あるよ!」
まったく。この子ったら。
本当に小さなルビィとは別人ね。
「後でね。
それより今は続きを話しましょう」
へーちゃんはイオスが見ていてくれそうだし、久々に深層も使えかも。
ルビィの話はもっと色々聞いてみるべきだろうし。
「もしかして今日だけで三人目?」
「はわわ!アルカは流石です!」
「アムル、あんたそれしか言えないの?」
「セレネ、アムルに八つ当たりは止めて下さい」
「何で庇うのよ?」
「むしろ何で辛辣なんです?」
「多分私、アムルと相性悪いのよ」
「そんなぁ!?
私はセレネ大好きですよ!!」
「いやまあ、好きか嫌いかなら好きなのよ?」
「何ですかその煮えきらない態度は!?」
「そう言われてもねぇ……。
仕方ないわ。
アルカ、深層にはアムルも連れて行きましょう。
私が許可するわ」
「はわわ!?」
「ダメです。しません。却下です」
「これで四人目かぁ……」
「却下だと言っているでしょう」
「騒がしいわね。
あなた達って何時もこうなの?」
「アルカ!」
「あれ?
へーちゃんさっき少し喋ったのに。
また戻っちゃったの?」
「アルカ!」
「さっきのは私が喋らせただけだもの。
今は私も!って言ってるわよ。
深層とやらに一緒に行きたいんだって」
「五人目……」
「ダメです!」




