37-10.偽者
「シーちゃん!イロハ!」
私の呼びかけに応じて、二人が私に同化した。
今更ながらに擬似フルモードも起動して、足りない力をかき集めていく。
同時にへーちゃん、イオス、グリアを私世界に取り込み、ニクスとセレネ、ルネルとアムルをそれぞれ私の後ろに転移させた。
そうして、私、お姉ちゃん、ノアちゃんの三人でルビィの前に立ち塞がった。
「おっそぉ~い。
待ちくたびれちゃったぁ~♪
さ!始めよっか!」
どうやらルビィは私達の準備が整うまで待っていてくれたようだ。
私達は完全に舐められている。
遥か格下と侮られている。
ルビィは躊躇うことなく殴りかかってきた。
ノアちゃんとお姉ちゃんを傷付けてはいけないと言われていたけれど、その程度のハンデなど気にする必要も無いと言わんばかりだ。
よっぽど自身の技量に自信があるのだろう。
「ルビィ!お願い!話を聞いて!」
私は今更ながらに説得を試みる。
オートモードの補助も加えてどうにかルビィの猛攻を凌ぎつつ、ルビィを制止しようと声を張り上げた。
「私に勝てたらね!おかーさん!」
「ならせめてもっと広い所に行きましょう!
知ってるでしょ!私世界にならいくらでもあるから!」
「い~や♪」
拒絶の言葉と共に、拳を振り抜くルビィ。
私は防ぎ切る事が出来ずに直撃を受け、重い一撃に一瞬気が遠くなる。
「アルカ!!」
ノアちゃんが割って入り、ルビィの手を掴もうとするも、逆に手首を取られて投げ飛ばされた。
「かはっぁ!」
「ノアちゃん!!!」
「あっちゃぁ~。
こっちのノア姉弱すぎ~。
もっと加減しなきゃじゃん」
ルビィが一瞬気を取られた隙に、お姉ちゃんがルビィに覆いかぶさった。
「ミユ姉は下がっててよ。
どうせ弱すぎて相手になんないんだからさ」
ルビィはお姉ちゃんを雑に掴んで放り投げた。
技だけでなく、純粋な膂力も私達より遥かに上のようだ。
私は無防備になるのも構わずにお姉ちゃんを受け止めた。
この瞬間に攻撃されたら避けようが無いが、ルビィが追撃を放ってくる事は無かった。
というより、ルビィは何かに戸惑っているようだ。
自分の手の平を見つめて、首をかしげいてる。
「あれ?力入んない?
そっか。おかーさん、私の事もう要らないんだ。
あはは。また捨てられちゃった……。
まったく。折角見捨てないであげたのに。
やっぱりあんな偽者ダメだよね」
「ルビィ!
あなたも全部わかってるんでしょ!
私があなたのお母さんを取り戻してみせるから!
だからあなたも!」
「うるさい!!」
突然激昂したルビィは今まで以上の激しさで殴りかかってきた。
「ルビィ!」
「もうそれ以上喋るな!!
私のおかーさんはもういないんだ!
あんな偽者にだって縋るしかなかったんだ!!
そんな事お前が一番よくわかってるはずだろ!!」
ルビィの猛攻が続く。
私には到底捌ききれず、何度も体に直撃する。
けれど既に先程の力は感じられない。
まるであの一撃がピークだったかのように、段々と力が抜け出していった。
供給元との繋がりを失ったルビィは、遂には私の神威すら貫けなくなった。
それでも私の技量ではこのルビィには追いつけない。
私を押し倒し、馬乗りになって殴りつけてくるルビィにも、碌な抵抗も出来はしなかった。
ぽつり、ぽつり、と雫が落ちてきた。
ルビィはいつの間にか泣きながら私を殴りつけていた。
「なんでよぉ!
なんでやり返さないのぉ!
もっと遊んでよぉ!
あんたも私のおかーさんでしょ!
優しかった頃のおかーさんでしょ!
会えるの楽しみにしてたのにぃ!
全然相手になんないじゃん!」
力なく拳を降ろしたルビィは、そのまま私に縋り付いて泣き始めた。
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「……」
「ルビィ?
目が覚めた?」
「……なんで拘束もしてないのよ」
「必要ないでしょ。
あなたも私の娘よ。
帰る場所が無いならここにいなさい。
復讐がしたいなら一緒にやりましょう」
「……違うわ。
私はもうただの娘じゃない。
とっくにお嫁さんよ」
「勿論歓迎するわ。
私でよければ代わりになる。
代わりが嫌なら取り戻しましょう」
「バカな事言わないで。
出来るわけ無いじゃない」
「どっちが?」
「どっちもよ。
よわよわおかーさん」
そう言いながら、唇を合わせるルビィ。
そのまま随分と長い事、まるで貪るように縋り付いていた。




