37-7.作戦会議・上位存在
「混沌ちゃんに確認したい事があるんだけど」
私が視線を向けると、未だ復旧作業中の混沌ちゃんに代わって、へーちゃんが力強く頷いた。
「出来れば混沌ちゃんの口から直接話してほしいな。
その作業、後どれくらいかかりそう?」
ぴっと指を三本突き出すへーちゃん。
「三分?」
首を横に振るへーちゃん。
あまりの勢いに、すこし混沌ちゃんが浮き上がりかけた。
「三十分?」
今度は気持ちゆっくりめに首を振るへーちゃん。
これも違うようだ。
まさかもっと長いの?
三秒はとっくに過ぎてるよ?
「三時間?」
三度首を横に振るへーちゃん。
「まさか三日とか言うつもり?」
「さんねん」
喋った!へーちゃんが喋った!
初めてアルカ以外喋った!
「って!長すぎよ!
一回中断なさい!」
混沌ちゃんをつまみ上げて、強制的に中断させた。
「何するのよ!?
もう!折角順調に進んでたのに!!
また最初からじゃない!」
「ニクス、命令よ。
混沌ちゃんに力を分け与えて」
「無茶だよ。
アルカの力で全然足りないのに、今更私が少し分け与えたってどうにもならないよ」
言いつつ指先を突き出すニクス。
混沌ちゃんは相変わらず躊躇う事なく齧りついた。
「ミーシャとノルンも呼ぶしかないかしら」
「ダメよ、アルカ。
二人はまだ呼ばないで。
特にノルンは」
セレネが待ったをかけてきた。
何でノルン?
「理由は?」
「信じなさい」
答えになっていない。
どうやら答えられないようだ。
気にはなるけど、今は問い詰めている時間も惜しい。
「わかった。
なら混沌ちゃんの問題は別で考えましょう」
いくら元原初神だからって燃費が悪すぎる。
何か別の器を用意するべきなのかもしれない。
『ためす』
名案?
『ダメもと』
それでも良いわ。
お願い、ハルちゃん。
『なまえ』
『かんがえて』
混沌ちゃんの?
名前ねえ。あまりゆっくり考えている場合でもないのよね。
カオスにしとく?
いや、もう今の混沌ちゃんは混沌ちゃんではないのだ。
そこから少し離してあげるべきかもしれない。
『ダメ』
『かえすぎない』
『はんちゅう』
『でもカオス』
『ダメ』
面倒ね。
まあでも、ハルちゃんがそう言うなら。
「イオス。
あなたは今からイオスよ」
勝手に名付けて勝手に契約を補強してみた。
既に混沌ちゃんが私と繋いだ神パスモドキもあるけど、今はむしろハルちゃん製の契約パスの方がマシだったようだ。
私の力がさらにごっそりと削り取られて、混沌ちゃんの姿が更に一回り大きくなった。
「いきなり何すんのよ!?
無茶しすぎよ!!」
混沌ちゃん改めイオスは私を心配してくれているようだ。
咄嗟に力の流入も堰き止めてくれたらしい。
これ、イオスが止めてくれなければ吸いつくされてたわね。
『めんご』
問題ないわ。結果オーライよ。
「イオス。
アルカネットの扱い方を教えるわ。
力の回復とソフトの復旧はこのパスを利用なさい」
「……まあ悪くないわね。
やるわね、小春」
「お褒めに預かり光栄ね」
ハルちゃん。後はお願い。
『がってん』
「作業は裏でやってもらうとして、先に話を続けましょう。
イオス。黒幕があなたの力を奪った理由に心当たりは?
その力を使って何がしたいとか何でも良いの。
思いつくことは全て挙げてみて」
「……なるほどね。
小春はこう考えたわけだ。
こっちも良い線いってるわね。小春」
どうやらアルカネットで私の記憶を覗いてくれたようだ。
早速使いこなしてくれているらしい。
流石上位存在なだけはある。
話が早くて助かるわ。
「直接答える事は出来ないわ。
けれど、特大のヒントをあげる。
きっと小春なら正解に辿り着けるはずよ」
「それで良いわ。
ヒントって?」
「今回黒幕が奪ったのは全体からしたらほんの一欠片よ。
私の数ある端末の内の一つにすぎないわ。
この私自身、私の一端末でしかないの。
本体はもっと奥深くに存在するわ。
各私がそれぞれ別の意思を持ち、別の領域を治めるの。
恐らく黒幕は、最低でも二つの欠片を持っているわ。
自らが発生した領域の私とこの私。
ヒントは以上よ。後は自分で考えてみなさい」
それはまた……随分と壮大なことで……。
「その本体に泣きついたりできないの?
黒幕は本体の立場からしたって放っておけないでしょ?」
「いいえ。
それは無理よ。
本体にとっては細胞の一つが消えた程度だもの。
私達がどれだけ騒ごうと、気付く事すらありえないわ」
黒幕はウイルスかなんかなの?
症状が広がって、目に見えるようになるまでは相当時間がかかるって事?
これ聞いちゃいけない類の情報だったんじゃ……。
まあ知った所でどうにもならないだろうけども……。




