37-5.作戦会議・始動
「小春!
これも食べたいわ!」
へーちゃんの頭に大の字でしがみついた混沌ちゃん。
残念ながら、私の力をキッチリ半分吸い上げても、手の平妖精サイズから子猫くらいまでしか変わらなかった。
まあ、なんとか会話は問題無さそうだし後は追々だ。
そしてどうやらまだまだ腹を空かせているらしい。
三女神にもカンパしてもらおうかしら。
「ダメよ。
へーちゃんは私のよ。
そもそもお義母様がくれたんでしょ」
混沌ちゃんの襟首を捕まえて取り上げようとすると、何故かへーちゃんが両手でガードしてきた。
どうやら気に入ってるらしい。
本能的に自分の母だと気付いているのかしら。
「こんな時の為だって!」
「ダメ。諦めなさい」
まったく。
こんな純粋で良い子な娘の前でする会話じゃないわね。
「何をしても力が欲しかったんじゃなかったの?」
「それとこれとは話が別よ。
へーちゃんは私の大切な娘よ。
家族を犠牲にするなんて本末転倒じゃない。
絶対に吸収なんてさせないわ」
へーちゃんが二ヘラと笑って私に抱きついてきた。
嬉しそう。可愛い。
頭でも撫でてあげたいけど、お邪魔虫が張り付いたままだ。
やっぱ引っ剥がしてやろうかしら。
「吸収?
そんな事しないわ。
別にこの子が何か失うわけじゃないわよ」
「どゆこと?」
「なんて言ったら良いのかしら?
私ってもう、何者でも無いのよ。
だからこの子の中のを自分に移したりは出来ないわけ。
要はあれよ。権限が足りなくて機能が制限されてるの。
コピペは出来るけど、カット&ペーストは出来ないのよ」
なんかシュールね。
原初神でもそういう単語知ってるのね。
「力じゃなくて知識を吸い上げたいと?」
「それもちょっと違うのよね。
知識、データベースは変わらず使えるから。
失われたのはハードとソフトよ。
ハードは小春から貰った分で取り敢えず間に合わせるわ。
この子から貰うのはソフトだけよ。
まあ、マシンスペックは足りないし、オーエスもスカスカだから大したものは使えないけどね」
「らしいけど、へーちゃんどうする?」
「アルカ!」
へーちゃんの鳴き声は相変わらずアルカ一択だ。
どうやら許してくれるらしい。
「良いって。
好きになさい。
へーちゃんに害が及ばない範囲でね」
「ありがと♪」
へーちゃんの頭にがぶりと齧り付く混沌ちゃん。
私から力を吸い上げる時もそうだったけど、退化しすぎて有線接続にしか対応していないようだ。
ハード、もう少しどうにかならないかしら。
「ニクスも協力してあげたら?」
「やだよ」
うへぇ~って顔で距離を置くニクス。
変わり果てた母親に対して辛辣すぎやしないかしら。
まあ良いや。
話し、進めよ。
「取り敢えず、セレネ。
教会組が把握している事から話してくれるかしら?」
「いいえ。
先にアルカから話しなさい。
私達の目的を果たすには、アルカの知識は少なければ少ない方が良いわ。
これはもう一方の敵を刺激しないためよ。
アルカの敵は二人、もしくは二組いるの」
「なら、これだけは先に聞かせて。
敵の正体は?」
「そこはもう話せるわね。
片方は世界の意思、或いは世界の因果。
ニクスの守るこの世界を一つの意識体と仮定した存在。
私達はそう考えているわ。
とは言え私達も捕捉した事は無いから詳しくは不明よ。
人に近い意思を持っているのか。
あくまでシステムに過ぎないのか。
そんな事すらわからないの。
その辺り、混沌ちゃんに話を聞けると嬉しいわね」
混沌ちゃんはお取り込み中のようだ。
セレネの言葉にはなんの反応も示さなかった。
相変わらずへーちゃんの頭にしがみついて齧りついている。
その代わり、何故かへーちゃんが頷いた。
どうやら混沌ちゃんの意思を代弁しているようだ。
大丈夫?やっぱり何かされてない?
そのまま頭に寄生されちゃわない?
「もう一つは?」
「認識できない何か。
おそらくこれが、アルカも気付いた敵の正体よ」
「セレネ達はもっと前から気が付いていたの?」
「ええ。
その何かからもアルカを守ろうとしていたの。
まあ、実際には敵か味方かもわからなかったんだけどね。
一番に警戒していたのは混沌ちゃんの方だったの。
混沌ちゃんは中でも唯一明確に目的を示していたもの。
私達はアルカを神化させるわけにはいかなかったのよ」
「そう……」
神化阻止は私達の共通目標だ。
私は人間で在り続けたい。
今まではそう思っていた。
けれど今はダメだ。それでは。
このままじゃ力が足りない。
奴と同じ場所まで上り詰めないといけない。
その為には神化だろうがなんだろうが受け入れるしかない。
さて、今の私の気持ちをどう伝えるべきかしら。
ストレートに伝えても、反対されるのは間違いなさそうだ。
家族を誰も犠牲にしないのが必須条件とはいえ、私が何もしないわけにはいかない。
先ずは話を進めよう。
情報を整理しよう。
私の考えを伝えるのはそれからだ。
「わかった。
なら次は私達の集めた情報を話しましょう。
シーちゃん、イロハ、お願い」
私の両脇に飛び出すシーちゃんとイロハ。
既にこの部屋の惨状は把握していたので、地面には足を付けずに空中に浮かび上がっている。
「この部屋で十人は無理だよ……」
まあそうね。
厳密には混沌ちゃん含めて十一人だけど。
混沌ちゃんはへーちゃんとセットで一人だからまあいいか。
「シーちゃん」
「イエス、マスター」
シーちゃんが産み出したミニドローン達が、部屋中の書類を読み取りながら正しい並びとなるよう、書類棚やファイルも産み出しつつ、凄まじい速度で整理を始めた。
「ちょ!?何するの!?
ダメだって!触らないで!場所変えないで!
これはこれで整理されてるの!
私にとっては使いやすい配置なの!!
というかそれスキャンしてない!?
見ちゃダメなやつだから!それくらいわかるでしょ!?」
ならなんで堂々と放ってあるのよ。
普通にしてたって目についちゃうじゃない。
シーちゃんによる強制大掃除はものの数分で完了した。
更には全員が座れる円卓と茶菓子まで用意された
この部屋、意外と広かったのね。
パッと見八畳くらいしかないかと思ったのに。
実際はもう少し広そうだ。
「うぅ……私の部屋がぁ……。
私の部屋なのにぃ……落ち着かないよぉ……」
シクシクと泣き止まないニクス。
よっぽどショックだったようだ。
仕方ない。少し慰めておこう。
私はニクスを抱き寄せ魔法で引き寄せて膝に座らせた。
「シーちゃん。ありがとう」
「はい。マスター」
「それじゃあ話を再開しましょう。
シーちゃん。例の件お願い」
「マスター。その前に確認すべき事があります。
ニクス及び混沌ちゃんに問います。
この部屋は本当に安全ですか?
今尚、認識できない何かに観測されている可能性は?」
「それは……」
ニクスは自信が無いようだ。
混沌ちゃんがいつの間にかこの部屋に放り込まれていたくらいだ。
覗き見る事くらい造作もないだろう。
と思いきや、混沌ちゃんに代わってへーちゃんがドヤ顔で親指を立てた。
どうやら問題ないと言いたいらしい。
混沌ちゃんも相変わらず口は塞がっているけど、協力してくれるつもりはあるらしい。
「シーちゃん。構わないわ。
話してしまいましょう。
この状況でどこなら安全とか言えないもの。
最悪、全てバレている前提で立ち回りましょう」
「イエス、マスター。仰せのままに」




