37-3.負い目
私は新しい体に移した現代お姉ちゃんと、ゲーム世界からサルベージして元の体に戻したお姉ちゃんを連れて、私世界のシーちゃんの船へと移動した。
さて、お姉ちゃんの呼び方どうしよう。
現代お姉ちゃんは容姿年齢共に、十六歳だ。
新しい肉体もお姉ちゃんの記憶を元に忠実に再現した。
未来お姉ちゃんは容姿が十二歳、年齢が六百歳超えだ。
ややこしいけど年上お姉ちゃんの方が見た目は幼いのだ。
これは私が不老魔法を使った影響だ。
「へ~ふ~ん。
私がもう一人ね~不思議ね~びっくりね~」
十六歳お姉ちゃんはなんだか呑気だ。
異世界転生にも前向きなようだ。
何より、私の下に来れた事を心底喜んでくれている。
また泣きそう。
「私ってこんなだったかしら……。
なんだか恥ずかしいわ」
こうして見比べると、六百歳お姉ちゃんはすっかり擦れてしまっていたようだ。
案外気が付かないものなのね。
「ふふ。そんな事言わないで仲良くしましょう。私」
「ええ。そうね。
正直あなたには負い目があったから。
こんな事を言うべきでは無いとわかっているけど、会えて嬉しいわ。
そして何より、あなたが小春と再会できた事が本当に嬉しい」
ダメだって。それは泣くって。
「けど」
「でも」
「「小春のお姉ちゃんは私よ」」
あれ?
何かバチバチし始めた?
「「という事で、小春。
私達では決められないわ。
だからあなたが決めて頂戴。
私達の呼び方を」」
同一人物だからってなんでそんな息ぴったりなの?
「えっと……お姉ちゃん」
「「なにかしら?」」
「呼び方は一旦置いておきましょう。
先ずは情報共有よ。
お姉ちゃ、えっと若い方の」
「小春!待ちなさい!
その呼び分けは嫌よ!」
「そうよ!小春!
それは年増の私が可愛そうだわ!」
「とし!?」
あ、未来お姉ちゃんが撃沈しちゃった。
よっぽどショックだったらしい。
「じゃあその、お酒を飲まない方のお姉ちゃん」
「「……」」
おいこら。
「新?あ、いや、私にとっては旧?
いや、これもどうなのよ。
えっと他には……」
いや違うって。
今はそんな事悩んでる場合じゃないって。
「もう良いわ!今からお姉ちゃんは私の妹よ!
私の方がもう年上なんだし!
これから私達は三姉妹よ!
お姉ちゃんとミーちゃん!
今からそう呼び分けるわ!」
「なんだか猫さんみたい……」
ミーちゃんはご不満のようだ。
「取り敢えずの仮って事でお願い。
追々正式なのを考えるから。
今はゆっくりしている余裕がないの。
ごめんね、ミーちゃん」
「ふふ。まあ良いわ。
すっかり生意気になっちゃったみたいだけど、実際に小春を困らせているのは私の方だものね。
小春の庇護下にある内は、ミーちゃんで良いわ。
その代わり、猫さんみたいにいっぱい可愛がってくれると嬉しいな♪」
くっ!?
可愛い!!私のお姉ちゃん可愛い!!
はぁ。
無理か流石に。
一瞬暗い気持ちが吹き飛ばせるかと思ったんだけど。
まあでも、お姉ちゃん達のお陰で少し気が楽になった。
そんな気がする。
「ミーちゃんの事は私に任せておきなさい。
必要な情報は伝えておくわ。
小春は小春の為すべき事を優先なさい」
「そうだよ、小春。
お姉ちゃん私がいるからこっちは大丈夫。
何か心配ごとがあるんでしょ?
今はそっちを優先してね」
「うん。ありがとう。
なら少しだけ話を済ませたらそうさせてもらうね。
お願いね、お姉ちゃん」
「「ええ!」」
今のは未来お姉ちゃんの方に言ったんだけど。
まあいっか。
「ミーちゃん。いえ、今だけはお姉ちゃんって呼ぶね。
ごめんなさい。
ハッキリと伝えておかなくちゃいけない事があるの。
お姉ちゃんはもう帰れない。
これでお父さんとお母さんは二人きり。
私はお姉ちゃんに、家族に手を出した敵を討ち滅ぼす。
だからこれから忙しくなるの。
お姉ちゃんといっぱい話さなきゃ、ううん。
話したい事がいっぱいあるんだけど、その時間も無いの。
ごめんね、お姉ちゃん。
愛してる。会えて嬉しい。
けど今は素直に喜べない。
もし私と距離を感じても、今は信じて待っていてほしい。
こんな形で再会して勝手な事ばかり言ってごめんなさい。
本当に本当にごめんなさい。
私のせいでいっぱい辛い思いをさせてごめんなさい。
大好きよ、お姉ちゃん。
ずっとずっと会いたかった。
会わないつもりでいたけど、本当は会いたかった。
どうかそれだけは信じていてね」
纏まらない。締まらない。
言葉は止め処無く溢れていく。
でも今はここまでだ。
これ以上続けている余裕は無い。
敵がいつ何をしてくるかわからない。
敵に手が届くのが何時になるかもわからない。
「もちろんよ。小春。
私がどれだけ小春と会いたかったのかはわかるでしょ?
もう一人の私がとっくにそれを証明してくれたんでしょ?
何も疑わないで。心配も要らないわ。
私にとって、小春以上に大切な存在は無いの。
私もきっと、もう一人の私のように世界を越えたはずよ。
きっと何者の助けが無くたって。自分の力だけでだって。
きっと、ううん。必ずやり遂げていたわ。
だから心配しないで。
これは早いか遅いかの違いでしかないの。
両親には申し訳ないと思うけど、後悔なんて微塵もない。
小春が敵と呼ぶその人にだって感謝してもし足りない。
私はそんな酷い人間なの。
だから気にしないで。
小春が負い目を感じる必要は何一つ無いんだから」
結局気を遣わせてしまった。
ノアちゃんから念押しされていたのに。
不甲斐ない。
「うん……。
ありがとう。ミーちゃん」
「あら。もうお姉ちゃんはお終いなのね。
名残惜しいけど、それも仕方ないわね。
なら私もこう呼ばなきゃね。
いってらっしゃい。小春お姉ちゃん」
「うん!いってきます!」




