37-2.脅迫
私がお姉ちゃんに縋り付いて泣いている間に、シーちゃんとハルちゃんが中心になって調査を進めてくれていた。
まず、元々ニクス世界で一緒に暮らしていた方のお姉ちゃんを仮に「未来お姉ちゃん」としよう。
未来お姉ちゃんは、あっさりと所在が判明した。
どうやらゲーム世界に残っていたようだ。
ただ、この未来お姉ちゃんはゲームをプレイしていたお姉ちゃんとは別人だった。
もっと正確に言うなら、ゲームに参加していたお姉ちゃんが偽物だったのだ。
つまり、お姉ちゃんは三人いた事になる。
普段の、未来お姉ちゃん。
私の世界から連れ去られてきた、現代お姉ちゃん。
ゲームに参加していた、偽物お姉ちゃん。
未来お姉ちゃんは、ゲームにログインした直後に囚われの身となっていた。
精神だけが隠し領域に移され、一切の身動きを封じられていた。
お姉ちゃんのアバターを乗っ取った偽物お姉ちゃんは、お姉ちゃんのフリをして敵の手引をしていたようだ。
RTA紛いの行動も、計画通りに状況を進めるためだったのだろう。
現代お姉ちゃんの出現は、偽物お姉ちゃんが姿をくらませるための目眩ましでもあったようだ。
姿を消した偽物お姉ちゃんの痕跡は、未だ見つけられていない。
ここまではまだ良かった。
お姉ちゃんが見つかって何よりだ。
最悪の事態は回避された。
そう安堵できたのは束の間だった。
「お姉ちゃんの肉体が無いってどういう事?」
「現代ミユキ、アルカの元々住んでいた世界のミユキは既に亡くなっているわ。
少なくとも、大怪我では済まない事故にはあっているの」
ハルちゃんと一緒に現代お姉ちゃんの記憶を探ったイロハが言うには、お姉ちゃんの最後の記憶は大型のトラックに轢かれるところだったそうだ。
それ以降の記憶は完全に途絶え、精神だけがこの世界へとやってきたと言うのだ。
「アルカ。ごめん。イロハの考えは間違いないと思う。
精神だけ取り出して世界を超えるなんて事は出来ないよ。
肉体が残っているならそう簡単には引き剥がせないから。
シイナの作ったゲームとはわけが違うの」
肉体と精神はゴム紐でもついているかのように引き合うと言いたいようだ。
シーちゃんのゲームとの違いはよくわからないけど、ニクスの考えでは別物らしい。
「かと言って、肉体ごと世界を超えるのも難しい。
少なくとも、この世界で私の許可なく出来る事じゃない。
かつて未来ミユキが六百年前に遡らざるを得なかったのもそのためなの。
かつて私が開けた穴を利用するしかなかったの」
今回、その痕跡は見つかっていないようだ。
私達がミーシャ世界から帰還した時はニクス自身が開けてくれたけど、そうでないならこじ開ける必要があるのだ。
そんな事、ニクスにバレずに出来るはずがない。
「だから、向こうのミユキを殺して精神だけ引っ張ってきたという方が納得できるんだよ……」
……。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
ニクスに当たっても意味はない。
イロハにだってハルちゃんにだって責はない。
ああ。そうか。
これは脅しでもあるのか。
私はここまで出来るぞと。
歯向かうなら家族の命は無いぞと。
そう言いたいのか。
……。
…………。
………………………。
………………………………………………。
………………………………………………………………………………………………。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぅああアアaa嗚呼ぁああああああああああああ!
『アルカ!!』
『おちつけ!!!』
『だいじょうぶ!』
『ハルもいる!』
『ちからかす!』
『つよくなる!』
『みんなで!』
……うん。
「シーちゃん、現代お姉ちゃんの新しい体用意して。
ハルちゃんと一緒に中身移し替えて」
「イエス、マスター」
大丈夫。これは以前アムルにやったのと同じ事だ。
二人なら出来ないはずがない。
先ずは一つずつこなしていこう。
眼の前の問題を一つずつ片付けていこう。
怒りに身を任せるのはその後だ。
ぶつけるべき相手はもう決まっている。
ああ。本当に憎い。
どこまで愚弄すれば気が済むのだろう。
目的を見抜かなくては。
私を怒らせて何がしたい?
力を求めさせるのが目的か?
私を神にしたいのか?
いや、今更その程度の力では足りないはずだ。
もっとだ。もっと上を目指せと言っているのだ。
高みから煽っているのだ。
どこまで上り詰めれば良い?
どうしたら奴に手が届く?
原初神?それよりもっと上?
先ずはニクスに話を聞こう。
原初神はどういう存在なのか。
出来る事から一つずつ。積み重ねていこう。
何時か必ずこの手を届かせる為に。
奴を引きずり降ろす為に。
「ニクス、それからセレネ。
後ノアちゃんも。
それからアムルとグリアも呼びなさい。
全て話しなさい。
あなた達の知っている事の全てを」
「「「……」」」
「聞こえなかったの?
それとも命令してほしい?」
「話すよ。全部」
「そうね。この状況で隠しておく意味も無いわよね」
「アルカ。
大丈夫です。私達を信じて下さい。
全てお話しますから、先ずはお姉さんと話をして下さい」
「……うん。わかった。
ごめんね、皆」
「謝るのは私達の方よ。
これは私達の見通しが甘かったせいでもあるのだから」
「セレネ、話は後で。
これ以上は例の場所で話そう」
「そうですね。
セレネとニクスは先にアムル達と向かっていて下さい。
私はこの場を収めたらアルカと合流します。
ルイザさんにも色々と謝らねばなりませんから」
「ありがとう。ノアちゃん。
本当なら私がやるべきだけど。
ごめんね。今回は任せるわ」
「はい。安心してお任せを。
難しいとは思いますが、どうか心穏やかに。
お姉さんを怖がらせたり、逆に気遣わせたりしてはいけませんよ?」
「うん。頑張る」




