36-63.vs魔神 - 第二形態②
「出た!モ◯ラ出た!」
繭に亀裂が入ってからは速かった。
流石にガチの蛾の羽化をやるわけでもないようだ。
強烈な光を纏いながら、いきなり羽を広げてみせた。
残念ながら鎧は無かった。
多分、普通の。もしかしたらレインボー。
あれ?でもこんな色だっけ?
もっと青とか緑とかじゃなかった?
何かオレンジ色なんだけど。こんな形態あったかな?
流石に丸パクリはマズイと考えて変えたのかしら。
「小春!
全員集めなさい!」
ようやく歌以外の言葉を口にしたお姉ちゃんが、自らの足元に敷かれた魔法陣を指し示した。
私が全員を転移で集めた直後、魔法陣がドーム上に閉じられ、光を放って浮き上がり、そのまま蛾怪獣の頭頂部に張り付いた。
今は殆ど垂直のはずなのに、重力は足元の方に向いている。
お陰でまっすぐ立てるようだ。
「お姉ちゃん!色々聞きたい事が!」
「後で!」
どうやら蛾怪獣が飛び立つようだ。
助走のような羽ばたきで、周囲の眷属達が埃のように吹き飛ばされていく。
この様子なら、羽を食い破られる心配は無さそうだ。
思っていた以上にこの蛾怪獣は頼りになりそうだ。
「お疲れ様、ノアちゃん。
体力はどう?大丈夫そう?」
「問題ありません。
あの舞に何か回復の作用も有ったようです」
なるほど。流石ゲーム。
飛び立った蛾怪獣は、眷属達が広げた天井の穴を更に勢いよく突き破り、そのまま空高くへと舞い上がった。
「アルカ、皆さんは手を出さないで下さい。
ここはこの子と私達が戦います」
そう言ったノアちゃんは、お姉ちゃんの隣に立って前方に視線を向けた。
あれ?
これもしかして、お姉ちゃんとノアちゃんが蛾怪獣を操作してる感じ?
なんかめっちゃ話しかけるなオーラ出してるし。
ここは空気を呼んで大人しくしておこう。
皆も察して事の成り行きを見守る事にしたようだ。
「ねえアルカ、私も今度あれやりたい」
ニクスが小声で話しかけてきた。
どうやらニクスも同じ事を考えていたようだ。
「付き合っても良いけど、舞とセットじゃないかしら?」
「……保留で」
これはダメそうね。
今後も、このゲームやる時は罰ゲーム扱いになりそうだ。
いやまあ、この魔神戦の仕様は諸々見直してもらうけども。
それから蛾怪獣は三つ首の周りを飛び回りながら、光線や鱗粉、時には光を纏った体当たり等も交えながら攻撃を続けた。
三つ首も負けじと噛みついたり、振り回したり、毒を吹き出したりと襲ってきたが、全て綺麗に躱していく蛾怪獣。
この調子なら問題なく倒せそうだ!
いっそ最後までこの子にお願い出来ないかしら!
「「「グゥォオオオオオオオ!!!」」」
三つ首が到底蛇とは言えないような、腹の底に響く感じの唸り声を放った。
声はそのまま衝撃波となり、蛾怪獣の体を吹き飛ばす。
この戦闘中、初めての被弾だ。
今のは避けようが無い、全体攻撃なのだろう。
幸い今すぐ墜落する事は無さそうだけど、この子も決して無敵ではないのだ。
「頑張れ~~~!!!
モース~~~~!!!」
「何さ、モースって。
まさかこの子に名前つけたの?」
「何時までも蛾怪獣じゃ呼びづらいじゃない。
かと言って、パクリ元の名前呼ぶのも何かあれだし」
「でもこの子、名前モ◯ラでしょ?
さっきミユキとノアも歌ってたじゃん」
いやまあ、そうなんだけどさ。
「それにこの子多分あの個体をパクっ、再現してるんだろうし、モ◯ラ・レ◯って名前じゃないかな?」
え?なにそれ知らない……。
「こんな配色のいたっけ?」
「きっとエタ◯ナルモ◯ドだね」
「ニクス……あなた……」
詳しすぎてドン引きだわ……。
私そんなの知らないわよ?
覚えてないだけかもだけど。
「今更引かないでよ!
アルカだって勝手に名前つけたくせに!!」
それ言われたらグウの音も出ないけども。
なんかほら、こんな特等席で怪獣の戦い見るなんて人生初だからさ。なんかつい、盛り上がっちゃって。
「それで?
そのエタノールは何が出来るの?」
「わざとでしょ!
からかってるんでしょ!」
うん。ごめん。
「あんたら、いい加減にしなさい。
少しは空気読みなさいよ」
「「ごめんなさい……」」
ニクスが恨みがまし気な目で見てきた。
私のせいでセレネに怒られたと思っているようだ。
その通りだけども。
私とニクス以外の皆は真剣な表情で敵を見据えている。
私だって最初は空気読んでたんだよ?
でもさ、これ無理だって。
真剣になれないやつだって。
「この盛り上がる気持ちをわかってくれるのは、ニクスだけなのね」
「その相手を蹴落としておいてよく言えたね?」
悪かったってば。
仲直りしましょ。ニクス。
「黙りなさい」
「「はい」」
先にセレネと仲直りしなきゃだったか……。




