36-60.vs魔神 - 対抗手段
「モ◯ラじゃん!!
丸パクリじゃん!!!」
私達が地下水道を歩き続けると、開けた場所に到着した。
そこではお姉ちゃんとノアちゃんが、何故か妙な舞を踊っていた。
あれって舞なんかあったっけ?
歌の方はこびり付いてるんだけど、流石に映像までは覚えてないよ?
いや、舞はどうでもよくて。
問題は眼の前に鎮座する巨大な繭だ。
絶対デカい蛾が出てくるやつだ。
あれ?蝶?モ◯ラってどっち?
ま、いっか。
「マズいね」
ニクスが深刻そうな表情で呟いた。
「そうねマズイわね」
私も思わず同意してしまう。
「どうしたのよ。深刻そうな顔して。
折角二人と合流できたのに。
頭の心配でもしているの?」
まあ確かに。
あの妙な歌と舞を見たらそう思うのも無理はない。
別に本家をディスってるわけじゃないよ?
突然家族がそんな事始めたからだよ?
「違うわ。そんな話じゃない。
ノアちゃん付き合い良いなぁとか思うけど、そっちはどうでも良いのよ。理由は察しがつくし。案外本人もノリノリなのかもだし。
ただ……」
「ただ?」
「モ◯ラって負けるのよ」
「そもそもモ◯ラって何よ?」
そりゃ知らないか。
セレネもアニメや映画は嗜んでいるけど、ノアちゃんやニクス程じゃないだろうし。
「なんて言ったら良いのかしら。
ざっくり言えば、巨大な蛾の怪獣でね。
基本的に人間の為に戦ってくれる良い子なんだけどね」
私が一旦言葉を止めると、ニクスが後に続いた。
「大抵一度は負けるか死んじゃうかしちゃうんだ。
しかも今回の相手はギ◯ラ系だし。
あれがデスかヤングならなんとかなるかもだけど、グランドなら手も足も出ない」
「本当に何の話してんのよ?」
セレネは呆れ顔だ。
「これ、こっから過去改変まで込みだと思う?
一回ボロ負けして、昔の魔神を倒しに行く流れだと?」
「無いでしょ。
いくら何でも突拍子が無さすぎるよ。
それじゃあゲスト出演のキャラに力入れすぎだよ」
主役が食われちゃうものね。
これは怪獣映画ではなく、私達が主役の物語なんだから。
「ワンちゃん、最初から鎧モ◯ラの可能性も……」
卵じゃなくて繭スタートなのはその伏線とか?
「それこそ私達要らないじゃん。
もうモ◯ラだけで良いじゃん」
「でもほら、第二形態倒してくれるだけかも。
第三形態の前にはあっさり倒されそうじゃない?」
「私達、鎧モ◯ラが太刀打ち出来ない相手に挑むの?
無理ゲー過ぎない?」
「なんなのよ、その"ヨロイ◯スラ"とやらへの信頼は。
いやこれ、本当に信頼してるの?」
何て言うかね。
ここで出てくるのがゴ◯ラなら、全幅の信頼を寄せられるんだけどね。
いやむしろ、このモ◯ラはゴ◯ラ出現の布石なのでは?
モ◯ラが敗北したところに、ゴ◯ラが現れるのでは?
「アリアは何か知らないの?」
「知らない。
アリアの知ってる魔神、あんなんじゃなかったもん」
どういうこっちゃ?
お姉ちゃんは知ってるみたいよ?
でもお姉ちゃんは今取り込み中っぽいしなぁ。
色々質問したいんだけどなぁ。
というかあの舞、何時まで続くのかしら?
「とにかく皆を休ませましょう。
きっとお姉ちゃんとノアが目的を果たすまではゆっくり出来るんでしょ」
流石セレネ。
相変わらず色々飲み込めてないっぽいけど、要点だけは理解してくれた。
私達は巨大繭とお姉ちゃん達の舞を眺めながら、辺りに座って休息を取る事にした。
「「~~~♪~~♪」」
長い。ほんと、何時まで続ける気かしら。
繭に特段変化は見られない。
「私達も参加してみた方が良いのかしら」
「やだよ」
「私も嫌よ」
うん。私も嫌。
「今のうちに今後の予測と作戦でも考えましょうか」
「アリア、こちらにいらっしゃい」
セレネの呼びかけに応じて、アリアとルイザちゃんが近づいてきた。
「アリアが知っている魔神はどんなやつだったの?」
「人間の魔王だよ。
邪神と契約して力を得た」
ルイザちゃんの膝に頭を乗せ、ルイザちゃんに優しく撫でられているアリアは、億劫そうに答えた。
勇者の力は随分と消耗が激しいようだ。
ルチアも気だるそうにアウラに寄りかかっている。
と言うか、もろじゃん。こっちも。
「なら、あの魔神は例のトラウマ事件の後にでっち上げたって事?」
「それは違うわ。
私がシーちゃんから聞いたのは今の魔神よ。
規模はともかく、特徴は一致するわ」
眷属を放ってくるって辺りまでしか聞いてないけど。
「なんでその時に全部聞いておかなかったのよ」
「楽しみが減っちゃうじゃない。
本当はずっと見学してるつもりだったんだし」
そもそも忙しすぎて聞いてる余裕もなかったし。
シーちゃん、今はあれ全部一人で処理してるのかしら。
早く戻ってあげなくちゃ!
「そもそもミユキだって把握してるんだ。
これはアリアが知らなかっただけでしょ」
アリアの知識はあくまで初期案なのだろう。
アリアはゲーム全体の構成を考えただけで、細かい敵の造形とかは関わってないのかも。
自分も参加する都合上、あえてその辺はシーちゃんに任せた可能性もある。
そしてそこが一番の疑問でもあるのよね。
逆にお姉ちゃんが色々詳しすぎるのだ。
お姉ちゃん、テストプレイヤーでもしていたのかしら。
ならなんで、今になってRTAなんて始めたの?
いくらお姉ちゃんがおとぼけさんだって言っても、お客さん放ってそんな事する人じゃないんだけど。
お姉ちゃんは何かの問題に気が付いているの?
何も言ってくれないのは、何時もの秘密主義のせい?
こっそり自分で解決して、私達に気を遣わせないようにしていたの?
お姉ちゃんならあり得るなぁ。
でもまあ、後でお説教はしよう。絶対。
ルイザちゃんに気を遣うのはともかく、私にまで内緒で動くのはやり過ぎだ。
そこだけは反省してもらわないと。ぷんぷん。




