36-56.vs魔神 - 開幕
「セフィ姉、連れ出してごめんね。
今はレヴィの側に居たいよね。
話はすぐに済ませるから」
「うん。大丈夫だよ。
心配してくれてありがとう。
話ってレヴィの事だよね?」
「ええそうよ」
本当はセフィ姉の様子を確認するのも目的だけど。
「レヴィの調子はどうかしら?
戦う事にも少しずつ慣れてきたみたいだけど、やっぱり無理してるわよね?」
「……そうだね。
でも大丈夫。レヴィ自身にも目的が出来たから。
それだけルビィの事が心配みたい」
「そう……」
セフィ姉は私を安心させようと笑顔を浮かべたものの、レヴィを心配する心は隠しきれていなかった。
「安心して、アルカ。
私も付いてるから」
「うん。そうよね。
ならきっとレヴィは大丈夫ね。
セフィ姉はどう?」
「何が?」
「……ううん。
セフィ姉はレヴィのお母さんだもんね。
レヴィの強さはセフィ姉譲りなんだね」
「……まさかアルカ、何かインチキしてる?」
「ふふ。ごめんね、セフィ姉。
どうしてもセフィ姉の事が心配だったから」
「まったく。
そういうの感心しないよ。
レヴィの事を見てる私が言うのもあれだけど」
「レヴィに伝えてないの?」
「言えるわけ無いじゃん。
それで同化はやっぱり嫌なんて言われたら、ショックで寝込む自信があるよ」
「あらら。
それは私の説明不足だったわね。
ごめんなさい」
「そうだよ。
アルカが先に言っておいてくれれば、今更こんな事気にする必要なかったんだから。
まったく。反省してよね。ぷんぷん」
「「ぷっふふ」」
もう。セフィ姉ったら。
「何で私がセフィ姉に笑わされてるのかしら。
私がセフィ姉を元気づけようと思ったのに」
「それなら手っ取り早い方法があるじゃん」
「何だか今のセフィ姉に手を出すのは背徳的ね」
「今更何言ってるの?」
いや、私もそう思うけども。
でもほら、普段私より年上の女性なのに、今はセフィ姉フィリアスだから、まんまお子様なんだもの。
お姉ちゃんだって小さくなってたりするから、ほんと今更なんだけどさ。
私は諸々の思考を放棄してセフィ姉を抱き上げた。
セフィ姉の両頬にキスをして、最後に唇にもキスをした。
「元気出た?」
「うん。バッチリ」
何時もよりは随分と大人しめのキスだけど、今はこれくらいにしておこう。
あれだよあれ。
決戦の前に愛し合うのって、何か妙なフラグでも立ちそうだからね。
まあそれ言い出すと、さっきのノアちゃんとの約束もダメなヤツなんだけども。
私達が皆の元へ歩き出した直後、頭上から腹の底に響くような重々しい、まるで鐘のような音が鳴り響いた。
「急ごう!」
「うん!」
魔神戦が始まった!
アリア達がこのエリアに到着したようだ。
私達は急いで皆と合流し、エリアの端の、開けた空間に移動した。
魔神、頭上の大穴に潜む多頭の大蛇は、いくつかの頭を穴からぶら下げるようにして、廃都市へと降らせてきた。
「本当にこんなのと戦うの?」
今のは誰の呟きだっただろう。
本当に。いくら何でもデカすぎる。
これは想像以上だ。
穴との距離感が分かりづらくて錯覚していた。
完全に目測を見誤っていたようだ。
あの頭一つで、城くらいありそうだ。
そんなのが七つ、垂れ下がっている。
更に穴の中にも未だ一対の眼光が怪しく光を放っている。
どうやら真の本体を引きずり出すには、この七つの頭を潰していく必要があるようだ。
「私から行きます!」
フィリアスと化したノアちゃんが、切り込み役を買って出てくれた。
一番近い頭に一瞬で忍び寄り、至近距離から魔術で産み出した槍を投げつけた。
槍は大蛇の眼球に直撃するも、あっさりと弾かれ、砕け散った。
「硬すぎます。
やはり勇者と聖女でなければ通りませんか」
いつの間にか私のすぐ側に戻ったノアちゃんが呟いた。
「みたいね。
他に弱点になりそうな場所もないし。
先ずはアリア達と合流しましょう」
「逃がしてくれるでしょうか」
魔神の頭がこちらに視線を向けている。
どうやら完全にターゲットとして認識されたようだ。
「キシャァァァアアアアアア!!!」
大蛇の叫びとともに撒き散らされた唾が、次々と眷属達へと姿を変えていく。
そのままあっという間に眷属達が廃都市の大通りを埋め尽くした。
その数は数百を下らない。これでは魔神に近づく事も出来ないだろう。
「何よこれ!無茶苦茶じゃない!
バランス調整ミスってんじゃないでしょうね!!」
先程まで一体ずつ相手取っていた大蛇、魔神の本体と比べれば到底大蛇なんて呼べないが、それが群となって押し寄せてくるのだ。
これでは、魔神戦のエリアであるこの廃都市がヘビに埋め尽くされるのも時間の問題だろう。
本当にこんなの攻略できるのかしら。
イージーモードで、更に出力を下げてこれってどういう事なの?
まさかこれも不具合!?
シーちゃんにも何かあったの!?
「ごめん、ルネル。
今回ばかりは、言いつけ守れない」
私は全員を連れて、アリア達の下へと転移した。




