36-55.休憩
「レヴィ!」
「うん!」
ルビィの掛け声で、レヴィが魔術を解き放った。
セフィ姉の補助ありきとはいえ、あの戦いを嫌うレヴィが攻撃魔術を使ったのだ。
「やったぁ!」
また一体大蛇を倒し、レヴィに飛びつくルビィ。
ルビィは相変わらずの無邪気さだ。
レヴィは逆に代わりつつある。
今は少しだけ、嬉しそうな笑みを浮かべている。
既に数十体目となった眷属狩り。
強引な戦闘経験がレヴィの覚悟を無理やり作り上げてしまったのかもしれない。
荒療治が過ぎるとは思うけれど、レヴィの場合は母親の意思によるものだ。
残念ながら私達の暮らす現実世界は、一切の力を持たずに平穏でいられるほど呑気な場所ではない。
特にレヴィは私のハーレムに加わる以上、永遠の時を生きる必要があるのだ。
何れどこかで、戦う為の訓練は必要だったのかもしれない。
セフィ姉もそう思ったのだろう。
今まではレヴィの頑なさに折れて無理強いする事は無かったのだけど、今回は半ば無理やり戦場に立たせる事にしたようだ。
それに、ルビィの事もある。
レヴィ自身の考えにも変化が生じたのだろう。
ルビィの危うさに気が付き、自分が隣に立ってルビィの心を守る必要があると考えたようだ。
レヴィは戦いへの忌避感を隠しきれないながらも、それでも前線に立ち続けた。
ルビィはそんなレヴィの様子には気が付かず、無邪気に一緒に戦える事を楽しんだ。
そんな事を繰り返すうちに、レヴィも段々と受け入れていったようだ。
レヴィは元々強い娘なのだ。
自分の為ではなく、妹の為ならなんでも出来る娘だ。
覚悟を決めたレヴィなら、すぐに成長してみせるだろう。
セフィ姉はどう思っているのだろう。
罪悪感に苦しんでいるのだろうか。
レヴィと同化している今はレヴィの心を感じ取れるはずだ。
レヴィが苦しみながら魔術を放つ度、セフィ姉もそれ以上の苦しみを感じていたのかもしれない。
いくらそれが正しい事だからって、簡単に割り切れるはずも無い。
後でセフィ姉のケアもしておくべきだろう。
セフィ姉なら表面上はケロッとしてしまうだろうから、騙されないようにしなくちゃだ。
幸い今なら、私は人の心を覗く事が出来る。
流石に同化中のセフィ姉は無理だけど、解除してもらえば造作もない。
そろそろ休憩を挟むのも良いだろう。
「アルカ!
何故こちらに!?
何かトラブルですか!?」
ノアちゃんが駆け寄ってきた。
いつの間にかノアちゃんチームも辿り着いていたようだ。
「ノアちゃん!」
私はノアちゃんを抱きしめて頬ずりする。
ああ。この感じ。
猫耳は無いけど、やっぱりノアちゃんはノアちゃんね♪
「落ち着いて下さい。何があったのですか?」
「ノアも来たわね。
丁度良いわ。少し休憩しながら情報を共有しましょう」
「セレネ!!脱落したって聞いたのに!!」
今度はアウラがセレネに飛びついた。
「久しぶりね、アウラ。
その辺りも説明してあげるから、少し落ち着きなさいな」
愛おしそうにアウラを撫でるセレネ。
アウラはまるで同化出来ない事がもどかしいと言うように、セレネをきつくきつく抱きしめた。
「リヴィ!おっきい!」
「ルビィも!」
幼女組も両の掌を合わせて、まるでダンスでも踊るかのようにくるくると回っている。
息の合った可愛らしい動きに思わず吹き出しそうになる。
それからワチャワチャと感動の再会を喜びながら、少し時間をかけて安全地帯へと移動した。
「それで?
あれから一体何があったのです?」
定位置、私の膝の上に座ったノアちゃんが、代表して質問を切り出した。
「えっと、最後にノアちゃん達に連絡したのは魔神戦の開始時だったわよね。
丁度その時、ルビィとレヴィも魔神戦に参加するかどうかで揉めていたの。
確かそこに介入したのがキッカケだったわ」
その後、私はセレネとルビィを引き合わせて、ルビィを使徒に任命したのだ。
その際私は、管理者部屋に戻る事が出来なくなった。
原因は未だに判明していない。
シーちゃんからの連絡も無い。
仕方がないので、そのままセフィ姉達と合流して魔神戦に参加する事にした。
目的はシーちゃんへの連絡手段の復旧と、お姉ちゃんの妨害だ。
狩りをしている最中に一度お姉ちゃんの事も見かけたけど、お姉ちゃんはこちらに笑顔だけ向けて、直ぐに次の眷属へと向かっていってしまった。
こちらとしても、今お姉ちゃんと合流するわけにはいかないから、まあ好都合っちゃ好都合だ。
「アリア達はまだ来ていないのですね」
「ええ。
でももうすぐ着く頃だと思うわ。
そうしたら魔神本体との戦闘も始まるから、皆しっかり準備しておいてね」
「聖女のレベルが心もとないですが、まあどうにかなるでしょう。
これだけ戦力がいれば負ける気はしませんし」
「ノアちゃんが補助してみる?
ルビィにフィリアス化してもらって、ルチアに同化するって手もあるわよ?」
「良いわね!是非やりましょう!」
「いえ、申し訳ありませんがそれは止めておきましょう。
私も聖女の力の使い方はそれほど詳しくはありません。
セレネに隣で教えてもらうくらいで十分でしょう」
「別に良いじゃない!
私はノアと同化したいだけよ!」
「気持ちはわかりますが、それは魔神戦の後でも出来る事です。
焦らずとも、まだ三日以上残っているのですから」
「もう!
ノアは真面目すぎよ!
これはゲームなんだから良いじゃない!」
「ダメです。
アルカにトラブルが起きている以上、真剣に行動するべきです」
「負ける気がしないからどうにかなるって言ったのはノアじゃない!」
「確かに私はこの状況で負けるとは思いません。
ですが、犠牲者が出ないとも限りません。
私の戦い方と聖女の戦い方は違いすぎます。
前後に分かれて別々に戦った方が、守れる者も多くなるのです」
「もう!わかったわよ!」
「ふふ。ありがとうございます。ルチア。
後で必ず付き合ってあげますから」
「約束よ!」
「ノアちゃん、私にも同化してみない?」
「神相手でも出来るのですか?」
「さあ?」
「後で試してみましょう」
「ふふ。楽しみね♪」
「何でアルカならあっさり認めるのよ!」
「後でと言っているでしょう。
試すのは魔神戦の後です」
「私の時間が減るじゃない!」
「まったく。ケチな事を言ってはいけませんよ」
「ノアの意地悪!!」
ルチア、こんなんだったっけ?
アウラと随分性格に差が出来てるのね。
どっちも宿主大好きに変わりないけど。
「ところでルチア、アウラ。
私には何も無しなの?
二人は私のお嫁さんだって自覚あるの?」
「「アルカが悪いんでしょ!
沢山お嫁さんいるからって放置してるのはアルカの方よ!
誰でも相手から来てくれるなんて思わないでよね!!」」
「ごめんなさい」
仰る通りです……。
私はノアちゃんを膝から降ろして、ルチアとアウラを順番に膝に乗せて抱きしめた。
「もっと構って」
「私達の事も忘れないで」
ルチアとアウラは私の頬にキスをしてから、それぞれの主の下へ戻っていった。
後で深層に連れ込もう。絶対。
「つぎはリヴィ!」
すかさず空いた膝に座るリヴィ。
今はノアちゃんのように猫耳が生えている。
ふふ。ノアちゃんそっくりね。
体格は今のリヴィの方が大きいけど。
というか、結構デカい。
今は十五歳くらいかしら。
ルビィも変わってないし、今はこれ以上成長しないのかも。
「ルビィも!」
ルビィが背中に抱きついてきた。
ふふ。何このふわふわ空間。素敵。
「主!我も!」
クルルが右肩に。
「ラピスも♪」
ラピスが左肩に。
うぐっ……普通に重い……。
だが!負けない!
この至極のふわふわ空間を満喫するのだ!
「私の場所が無くなってしまいました」
「ノアには私の膝があるでしょ?」
ルチアが自分より小さなノアちゃんを膝に抱え込む。
今はノアちゃん吸血鬼だからね。
普段のハルちゃんくらい、大体六、七歳くらいの身長しかないし。
逆にルチアは聖女ジョブ持ちの人間だ。
ルビィ達と同じように、十五歳くらいってところだ。
『レヴィは混ざらなくて良いの?』
「入る場所無いもん」
分体が!分体が欲しい!
何で普段の私が出来る事なのに、神様モードの今の私が出来ないのかしら!
全員まとめて抱きしめたい!
もどかしい!!
「何かアルカ、悔しそうな顔してるわよ?」
「どうせバカな事でも考えているのでしょう。
それより話を続けましょう」
失敬な!
「それで、ハルはどうしているのですか?」
「あ、それ聞いちゃう?」
「何よ、その妙な前フリは。
勿体ぶってないで言いなさいよ」
「……内緒」
「何故です?
ハルは頼りになるでしょう?
力を借りるべきではないのですか?」
「大丈夫。
ハルちゃんがこんな美味しい場面、逃すはずがないから。
必ず必要な時には現れてくれるはずよ」
「まあそうね。
最後の最後で現れて、良いところだけかっさらっていくなんて、いかにもハルがやりそうな事よね」
「ではルネルさんは?」
「わかんない」
「なんでよ」
「さあ?」
「神とゲームマスターの目を誤魔化す手段を持っていると?」
「たぶん」
「無茶苦茶ね。
まあ、ルネルらしいとも言えるけど」
「ルネルさんも手を貸して下さるのでしょうか」
「どうかなぁ。
普通にどっか平和な国で人間の生活を満喫してるのかも」
案外、普通に魔神戦に突入してくる事もありえるけど。
ルネル、ゲーム好きだし、負けず嫌いだし。
「まさか本当に裏ボスになったりはしませんよね?」
「……」
「……」
「アルカ?」
「無いよ。たぶん。
そんな設定無いし。
シーちゃんが付け足してなければ……」
「「「……」」」




