36-42.トラブル
今回はアリア視点のお話です。
「エルお姉ちゃん!!
エルヴィお姉ちゃんよね!?」
「あら~!アリアちゃん!
それに隠れているのはルイザちゃんね♪
ふふ。二人ともとっても可愛いわぁ!」
お姉ちゃんは私の荷物から首だけ出したルイザにもすぐに気が付いてくれた。
「エルお姉ちゃんはあんまり変わらないね。
耳が短くなったくらい?」
どうやらエルお姉ちゃんは人間に転生したようだ。
既にアルカの不老魔法によって変化した子供の方の姿と変わらないくらいだ。
人間スタートの場合はもっと幼いはずだ。
ここまでで思っていたより時間を食ってしまったらしい。
この感じだと、既に一日目も終わりが近いようだ。
「エルお姉ちゃんはこの近くの町から来たの?」
「ううん。最初からこの町よ」
え?
移動してないの?
ゲーム攻略にはあまり興味がないのかな?
「特に目的がなければ、私達と一緒に旅に出ない?
私達、勇者と聖女を探したいの」
「う~ん。どうしましょう」
「何かこの町でやりたい事があるなら手伝うわ」
「そういうのとも違うのよね~。
そもそも私、お邪魔じゃない?」
「きゅっきゅー!!
(そっそんな事無いのですわ!)」
「ルイザ!ダメ!
声出しちゃ!」
マズい!
魔物の声に気付いたのか、周囲の人達がざわざわと騒ぎ出した。
私は慌ててエルお姉ちゃんの手を掴んで走り出す。
一旦どこかに隠れなきゃ!
「アリアちゃん。こっちへ」
逆に私の手を引いて駆け出すエルお姉ちゃん。
どうやらこの町の事はある程度把握しているようだ。
そのまま路地裏も経由しながら、とある建物に駆け込んだ。
「あ!エルヴィだ!
いらっしゃい!」
「「「エルヴィお姉ちゃん!」」」
駆け込んだ建物の中には、何人かの子供達が待ち構えていた。
「こんにちは!皆!
今日はお姉ちゃんのお友達を連れてきたの!
仲良くしてあげてね♪」
何故か勢いのまま私達を紹介するエルお姉ちゃん。
「ここ……まさか……」
「孤児院よ~。
町を散策してたらたまたま見つけたんだけどね~。
ここの子達と仲良くなって離れがたくなってしまったの」
「エルヴィお姉ちゃん!?
どこか行っちゃうの!?」
一人のNPCが不安そうに駆け寄ってエルお姉ちゃんに縋り付いた。
シイナ……やりすぎよ……。
一体どういうつもりでこんな場所用意したのよ……。
何でもかんでも再現すれば良いってものでもないわ。
よりによって私が開発に関わるゲームにこんな場所を産み出すなんて。
それにあの子、よく見るとどことなく面影まで……。
ここってまさか!?そういう事!?
後でシイナの事とっちめてやるわ!
まだ私だから良かったようなものの、ルカが見てたらどうするのよ!!
『アリア、すみません。
配慮が足りませんでした』
『ごめんね!アリア!
シーちゃんはアリアの思い出を踏みにじるつもりなんてなかったの!』
『……』
やっぱりそうなのね。
そんなのあんまりじゃない……。
『アルカの教育不足が原因よ。
シイナだってまだ子供なんだからちゃんと教えなさい』
『ごめんなさい』
『それで?
ここは私の記憶から再現したのね?』
『はい。完全にそのものではありませんが。
ベースは間違いありません』
『悪質過ぎるわね。
私の記憶を覗けるなら、これを見た私がどう思うかだって想像出来たはずなのに』
『すみません』
『……もう良いわ。
いえ、ごめんなさい。私も言い過ぎたわ。
皆に記憶を貰っておいて、私だけこんな事を言うのはむしが良すぎたわよね』
『すみません』
『もう良いってば!
私だって大して覚えてたわけじゃないんだから!』
だって仕方ないんだ。
皆がどうなったのかさえ私は知らないんだもの。
きっとこの建物だって私達が暮らしていたあの孤児院と似ているのだろう。
けれど、私の記憶は何一つ訴えかけてこなかった。
私はとっくに忘れ去っているんだ。
それを今更穿り返されて突きつけられたって、気にする必要なんかない。
こうして思い出した事さえ偶然に過ぎないんだから。
『とにかく至急チェックして。
絶対他の誰かのトラウマを抉るような真似はしないで』
『『はい!』』
とは言え難しいかもしれない。
シイナだって生まれてから一年も経ってないんだ。
そんな機微を察しろと言われても無理があるだろう。
これはシイナだけの問題じゃない。
ちゃんとチェックしなかった私だって悪いんだ。
後でもう一度ちゃんと謝ろう。
カッとなって酷い事を言ってしまった。
シイナ、許してくれるかな。
散々我儘言った上、あんな態度まで取ってしまって……。
ごめんね、シイナ。
私は大丈夫だから。どうか気にし過ぎないで。




