36-35.神様体験
Interspecies Life Simulator。
通称、ILiS。
異種間人生シミュレーターと名付けられたそのゲームは、ヘルメット型の端末を頭に被る事で、五感全てを使って仮想の現実を体験する事が出来る。
シミュレーターなのかゲームなのかいまいちハッキリしていないけど、そこはまあ、御愛嬌だ。
そもそも、納期一週間未満の突貫工事で生み出されたものなのだ。
流石のシーちゃんでも、何もかも完璧に仕上げるのは無理があるだろう。
今回はベータ版的なやつでもありそうだ。
「傷つきました。
マスターは私の能力をお疑いなのですね」
「そんなわけないじゃない。
そもそも現状でも驚きの完成度だわ。
シーちゃんがどれだけ頑張ってくれたのかなんて、私にわからないわけがないでしょ?」
「何やらご不満があるように見受けられるのですが?」
「不満というか、驚いたというか、むしろ驚かなかったというか」
「ハッキリ仰って下さい」
「何で私、神なの?」
神様体験はあかんのでは?
色んな意味で。
神化を回避しようとしているのに、自分から神様体験しちゃってたら不味くないだろうか。
今更っちゃあ、今更だけど。
そして、感覚的に普段とあまり違いが無い。
これもこれで、不味くはないだろうか。
折角のゲームを楽しめないとかじゃなくて、今の私の状況がどうなっているのかを自覚しちゃう的な意味で。
想像以上に神に近づいていたのかもしれない。
「ランダム設定を取り入れたアリアと、一発で引き当てたマスターご自身を恨んで下さい」
「シーちゃん、なんか機嫌悪い?
ごめんね。文句を言いたかったわけじゃないの」
「……いえ。失礼しました。
申し訳ございません。
その可能性を残したのは意図的なのです。
我欲を抑えきれなかったのです」
「えっと?」
「どうかこのゲームの最中は、私の手足となって働いて頂きたいのです」
「ああ。
つまりシーちゃんは私と遊びたかったのね♪
そういう事ならもちろん大歓迎よ!
このゲーム中の私はシーちゃんのマスターじゃなくて、ゲームマスターのお手伝いさんをロールすれば良いのね♪」
「はい!嬉しいです!
ありがとうございます!マスター!」
「ふふ。
頑張りましょう、ゲームマスター♪」
神云々もどうせ今はゲームの中の事だし、気にしすぎる必要も無いだろう。
そもそも再現された神の感覚だって、私の情報も参考にしてるかもだ。
違和感の無さは、そこに起因するのかもしれない。
逆に違う部分を探してみるのも良いかも。
まだ普段の私が持っていない感覚を自覚する事で、神と半神の違いを明確に出来るかも。
それはそれで役立ちそうだ。
さてさて~♪
皆は何処で何をしてるのかな~♪
やっぱり最初に気になるのは、ノアちゃんとセレネよね♪
今回はアリアとルイザちゃんを気にするべきな気もするけど、先ずはノアちゃん達がどんな姿になっているのか見てみましょう♪
ふふふ♪
このゲームの神様も悪くないわね♪
まさに高みの見物ってやつだ。
多分本来のニクスの役目とは全然違うんだろうけど、そこはまあ、ゲームだからね。
たっぷり楽しませてもらいましょう♪
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「ここは……ダンジョンの最奥でしょうか。
つまり私は吸血鬼になったのですね。
ルチアは……いないようですね。
完全に一人きりのようです。
少し懐かしい感覚ですね」
ノアちゃんったら独り言多いわね。
実は早速寂しくなっちゃってるのかしら。
気持ちはわかるわ。
私も今はハルちゃんすら側に居ないみたいだし。
別に融合が解けたわけではないのだけど、私と側近達は別々にダイブしたようだ。
どうやったらそんな事が出来るのかわからないけど、とにかくシーちゃんは凄いって事で。
「なんでしょう。
どこからか視線を感じます。
シイナでしょうか。
いえ、この感覚はアルカですね」
何でバレたの!?
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「驚きました。
この世界では条件を満たさねば覚視は使えないのですが……」
事前に説明があった事だ。
現実世界で各自が使える能力をそのまま持ち込んでしまえると、いくら何でも参加者同士で差が開きすぎてしまうのだ。
ゲーム性は二の次とは言え、それでは楽しめない子達も出てくることだろう。
そもそも、元の力が強すぎては現実と大差無くなってしまうのだ。
そんなこんなで、このゲーム中は様々な技術や能力が制限されている。
ノアちゃんの覚視もそうだし、レーネの人魚としての念話なんかもそうだ。
逆に各種族ごとに再現された力を使う事はできる。
吸血鬼となったノアちゃんの場合は、霧化と吸血くらいかしら。
まあ、まだレベル一だからね。
その辺は追々覚えて行くのだろう。
何れは覚視だけでなく、同化とかもできるのかも。
面白そうね。私も後で、吸血鬼やってみようかしら。
「何にせよ流石ノアちゃんね♪」
「ですが、これ以上覗くのは止めておきましょう。
ノアも楽しみづらくなってしまうかもしれません」
そうね。
折角誰も見ていないのだし、色々試してみたいわよね。
名残惜しいけど、次行きましょう。
何せ私達以外のプレイヤーが二十八人も、いや商会組がこのゲームには参加していないから今はまだ二十三人か。
とにかくいっぱいいるのだ。
サクサク行かないと、全員見きれないからね。
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「セレネは人魚なのね。
早速可愛い子見つけてナンパしてるわよ?
あの子って、家族の誰でも無いよね?
NPCってやつかしら」
「はい。
ある程度の知性も備わっていますので、セレネも十分楽しめるかと」
「後でお仕置きしてもらいましょう。ノアちゃんに」
「録画機能も完備しています。
神様特権です」
「ナイスよ!シーちゃん!」
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その後も私は皆の様子を見て回った。
この世界では、人間、吸血鬼、人魚、エルフ、ドワーフ、機械天使、猫獣人、兎獣人、ドラゴン、勇者、聖女、神と実に十二種もの種族が用意されている。
獣人はともかく、勇者と聖女まで別カウントなのは、カサ増し感ない?
いやまあ、ただの人間とは能力値が全然違うから、ゲーム的には別種族扱いでもおかしくはないけども。
その辺は所謂ユニークジョブってやつなのね。
勇者と聖女、それに神は、一人ずつしか選出されないようになっているようだ。
そう言えば使徒は?
この感じなら別枠でもおかしくないけど。
「神であるマスターが指名すれば変化します。
ただしその為にはいくつかの条件を満たす必要があります」
なるほど。そんな所まで再現されているのね。
つまり、一定の信仰を集める必要があるわけだ。
それに力も必要よね。
その辺は、レベルいくつ以上とかかしら。
この様子だと、勇者と聖女のパワーアップイベントもありそうね。
二人が私の下へ辿り着ければ、強化してあげられるのかしら。
ふふふ。
誰が一番最初に私の下に辿り着くかしら?
何だか楽しみになってきたわ♪
「そう言えば、ドラゴンってまだ見てないわね。
ドラゴンもユニークなの?」
「いえ。単に確率が低めに設定されているだけです。
所謂、レアキャラと言ったところでしょうか」
なるへそ。
少し遊び心を加えてみた感じか。
まあ、ランダム設定は別にそれでも良いわよね。
キャラメイクは自分で出来るモードもあるそうだし、ドラゴン体験がしたかったらそっちをやれば良いわけだしね。
「最後にルイザちゃんとアリアの所を見てみましょう。
ふふ♪二人はどんな姿になっているのかしら♪」




