36-32.お泊り会
「ようこそ我が家へ!
歓迎するわ!ルイザちゃん!」
我が家の近くに転送されてきたルイザちゃんを迎える為に、少しだけ大げさに声を張り上げてみた。
今日は今朝早くから、私に変身したリリカが、ルイザちゃんの父であるストラトス侯爵と、ルスケアの件で話し合いをしていた。
無事合意も取れたので、リリカは約束通りルイザちゃんを我が家に招待する為に、ここに転移させてくれたのだ。
ルイザちゃん視点では私と一緒に転移してきたように見えた事だろう。
一応ルイザちゃんには真面目モードの私しか見せていないので、自宅では気を抜いているのだとアピールするために、少し燥いでる感じに歓迎してみた。
これでリリカと入れ替わっている事を誤魔化せると良いのだけど。
「……」
「あれ?
ルイザちゃん?」
ルイザちゃんは驚きに固まっている。
自分の家とも遜色ない大きなお屋敷に驚いていたのかな?
それともここが森の中だから?
この辺りはだいぶ開発が進んでるから辺り一面の広範囲が切り開かれているけど、それでも周りは森に囲まれているのだ。
少なくとも、周囲に私達以外で住んでいる人間はいない。
そもそもルネル達の家を含めても、片手で数えられる程度にしか建物自体が存在しない。
王都の雰囲気との違いでも感じているのだろうか。
「ルイザ!
来たのね!待っていたわ!!」
アリアが待ちきれずに駆け寄ってきた。
計画と違うわ。
屋敷のエントランスで合流の手筈だったのに。
ルイザちゃんの目的は私らしいので、少しだけ二人で話せる時間も用意していた。
アリアもそれは理解していたはずなのに。
直前になって心変わりでもしてしまったのかしら。
まあでも、お陰で助かったかも。
ルイザちゃん、何か動かないし。
「あっアリア様!」
アリアに手を握られて再起動したルイザちゃん。
まあいっか。
一応、他にも話しをする時間は用意してあるし。
いつの間にかお泊りまでする事になっていたのだ。
ここはアリアに任せてしまおう。
「案内するわ!
ほら!アルカも!何してるの!
早く行くわよ!」
元気よく駆け出していくアリア。
ルイザちゃんが半ば引きずられるように連れて行かれた。
アリアったら。
燥ぎすぎて怪我をさせないといいのだけど。
しかも最初に向かったのは訓練場だ。
いきなりそんな所見せても楽しくないだろうに。
これも予定と違う行動だ。
アリアったら、勢いだけで行動してるわね。
今はセフィ姉達の訓練中だ。
ちなみに今日、明日は私の分体はお休みだ。
訓練だけでなく、家事組とレヴィ&ルビィの所もだ。
万が一ルイザちゃんに違和感を持たれても困ってしまう。
ルネルはまだ出てきてないだろうから、訓練場に居るのはセフィ姉とエリス、それにイリスだけかな。
イリスはエリスに同化したままだろうけど。
最近、宿主持ちフィリアス達とは全然会えていない。
中でもルチア達、初期組は顕著だ。
あの子達もそれぞれにやりたい事があるのだろう。
それはわかっているけど、やっぱり寂しいものだ。
スミレとイリスはともかく、ルチアとアウラは私のお嫁さんでもあるのだ。
そこんところ、忘れているのではなかろうか。
前回お嫁さん皆と深層潜りをした時も、二人が出てくる事は無かったし。
明日の晩にでも呼び出してみようかな。
久しぶりに一緒に過ごしたいし。
別に深層が使えなくたって大丈夫よね。
とにかく、今はルイザちゃんの事に集中しよう。
「アルカ~!
はやく~!
私の相手してよ~!」
なるほど。
それで訓練場に。
自重無しの全力を見せつけたいのだろう。ルイザちゃんに。
一応、セフィ姉とエリスの邪魔をしない程度の理性は働いたようだ。
二人からは、まだだいぶ距離がある。
私はアリアの向かいに転移した。
「軽くだからね」
「うん!!」
目を輝かせたアリアが私に向かって突っ込んできた。
私はアリアの突き出した拳を躱して足をかけようとした所でギリギリ思い留まった。
今のアリアを転ばせるのはまずかろう。
「本気でやって!!」
ルイザちゃんの前で転げ回りたかったの?
「ダメよ。
服が汚れてしまうわ。
折角可愛く着飾ったんだもの。
本気でやりたいなら装いを改めなさい」
アリアったら、気合入れて準備していたんだもの。
今のアリアを砂まみれにするわけにはいかないわ。
そんな事したら、私が空気読めって責められちゃう。
「そうだったわ!
着替えてくる!」
「それもダメ。後になさいな。
落ち着いて、冷静に周りを見てみなさい。
アリアが燥ぎすぎて、ルイザちゃんが戸惑ってるわ」
さっきからハラハラとこちらを眺めていたルイザちゃん。
いきなりアリアが私に殴りかかったので、状況に付いてこれていないのかもしれない。
アリアは支離滅裂に行動しすぎね。
ちゃんと事前に説明しなきゃ。
少し軌道修正してあげましょう。
「先ずはセフィ姉とエリスの方を見学しながら、ここでやってる事を詳しく説明してあげましょう。
それにどうせやるなら、ルイザちゃんにも体験させてあげる方が楽しそうでしょ?
後でルイザちゃんの運動着も用意してあげてからにしましょう」
「うん!」
素直に頷いたアリアは再びルイザちゃんの手を引いて駆け出した。
『"人の振り見て我が振り直せ"とはよく言ったものね。
アルカが冷静に対処してるわ』
うっさいやい。
『アルカ』
『やればできる』
『もともと』
いつものやつ。
『最近は周りに振り回されてばかりだけどね。
昔のアルカってもっとクレバーだったよね?』
昔って?
もしかして一人で冒険者やってた頃の事?
同意求められても、私以外直接見てたわけでも無いし……。
『確かに。すっかり牙が抜け落ちてしまってるわね。
ここらで昔のアルカを取り戻すべきじゃないかしら。
この先、混沌ちゃんが何をしてくるかわからないんだし』
もしかしてイロハ、今見返したの?
まあ言わんとしてる事はわかるけども。
それって真面目モードじゃ足りないの?
『『ぜんぜん』』
さようで。




