36-27.悩み
「というわけなの。
カノンはどうしたら良いと思う?」
私はムスペルの件をカノンに相談してみる事にした。
うちのパーフェクトお姫様は頼りになるのだ。
「ツムギ達に任せなさい。
決してアルカが手を出す事だけはしないでね」
「うん……」
ツムギやイロハと似たような事を言う。
やっぱりそうするしか無いのだろうか。
「政変はどんな国でも起こる事よ。
ある意味、それが正常でもあるの。
強大な力を持つアルカが干渉すれば、必ずその国の在り方を歪ませてしまうわ。
ツムギ達の命に関わる事以外、何一つ関与してはダメよ」
「うん……わかったわ……」
もうだいぶ干渉しちゃった後だけど……。
でもカノンの言う事は尤もだ。
ここで私が手を出せば、カノンやノアちゃんの努力を踏みにじるようなものなのだ。
「一応、私もツムギと話してみるわ。
それで何が出来るとも言えないけれど、アルカも少しは気が休まるでしょう?」
「うん。ありがとう。
ごめんね。こんな話に関わらせて」
「何水臭い事言ってるのよ。
ツムギ達はもう私の家族でもあるのよ?
それに、妹分のマノンにだって関係ある事だもの。
もし教えてくれなかったら、それこそ怒っていたわ」
「ふふ。そうだね。
よろしくね、カノン」
「ええ!」
それから少し話をした後、話を終えたカノンは私の部屋を出ようと扉に向かって歩き出した。
少し気持ちが楽になった気がする。
カノンに話を聞いてもらえて良かった。
何時までも気にしすぎるのは止めておこう。
きっとツムギ達だって自力で乗り越えてくれるはずだ。
そもそも、王妃様さえ目覚めれば万事解決する可能性も高いのだ。
あの方にはそれだけの影響力が……ダメだ!このままじゃ王妃様が!
「ねえ!カノン!」
「なに?」
「王妃様が危ないの!
今は昏睡状態だから無防備なの!
きっと命を狙われてしまうわ!」
「……今回だけよ。
見逃してあげるのは」
「ありがとう!」
『まかせろ』
お願い!ハルちゃん!
分体を産み出し、王妃様の下へ転移させたハルちゃん。
分体ハルちゃんの見た景色が、私の中にも流れ込んできた。
『まだぶじ』
今はツムギ達も側についていてくれたようだ。
とは言え四六時中というわけにもいかないだろう。
暫くハルちゃんの分体を側に置いておこう。
『ついでにようだい』
『ちょっとみる』
ううん。それは止めておきましょう。
命に別状は無いって話だし。
『がってん』
目覚めるまで、ううん。元気になるまでは見守っていてね。
『まかせろ』
もし王妃様が暗殺されてしまえば、きっとこの騒動はより大きなものとなっていた筈だ。
既にツムギにも刺客が送り込まれていた程だ。
ツムギ達も既に想定済みだったのだろう。
気を回す必要なんて無いのかもしれないけど、これで動きやすくなるのは間違いない。
「アルカ。
ツムギに伝えてはダメよ。
その人達の側にだって信頼出来る護衛くらいいるはずよ」
「……うん。わかった。
干渉するのは最後の最後だけにしておくね」
「そうね。
それで良いわ。
……ごめんね」
「ううん。
我儘を言ったのは私の方よ。
ありがとう、カノン」
「ええ」
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「アルカ?」
不思議そうに私を見上げるへーちゃん。
へーちゃんは聡い子だ。
私が考え事をしていたのに気が付いたのだろう。
「大丈夫。なんでもないよ」
私達は今、自宅近くの森に来ていた。
分体の私がカノンと話をしている間、部屋を出るついでに少し散歩でもと出てきていたのだ。
私はへーちゃんの手を引いて再び歩き出した。
「へーちゃん」
「アルカ」
「ふふ。へーちゃん」
「アルカ!」
「へーちゃん♪」
「アルカ♪」
可愛い。
私達はすっかり仲良しだ。
相変わらずへーちゃんは私の名前以外喋らないけど、感情表現は豊かになってきた。
それに、よく笑うようにもなってくれた。
きっと私の想いが伝わっているのだろう。
へーちゃんは素直で優しい子だ。
「そろそろ帰ろっか。
もう少ししたら晩ご飯の時間だし」
「アルカ!」
「ふふ。それ返事なの?
もう。へーちゃんたら」
「アルカ!」
肯定するかのように家の方に進路を定めたへーちゃん。
やっぱり言葉は通じているようだ。
ならどうして他の言葉を喋ってくれないのだろう。
へーちゃんは不思議な子だ。




