心霊スポット帰り
とある夜。アパートの自室でくつろいでいたヒナコは突然のノックの音に驚き、飛び上がった。
「ヒナ! ヒナ! 俺だ、開けてくれ!」
「ケ、ケンくん……?」
聞き覚えのある声にほっとする。が、それはほんの一瞬のこと。まだ動悸がしている。あの怯えたような声。何かあったのだろうか。だって今夜は確か……とヒナコは考えつつ玄関へ向かう。
「ミ、ミナと、この前話していた、し、心霊スポットに行ったんだ! で、でもあいつ、あいつ変になって……」
ミナというのはヒナコの友人であり、ケンの彼女。二人が今日、心霊スポットに行くことはヒナコも知っていた。
誘われたがパス。二人に気を使ったというよりは怖いのが苦手、それが理由。結果。その判断は正しかったようだが、だからといって優越感も何もない。
ドアを開けると、飛び込むように中に入ってきたケン。勢いそのままにヒナコを抱きしめ、ヒナコもまた宥めるように背中に手を回す。
震えている。余程怖かったのだろう。冗談ではなさそうだ。これが演技なら飛躍的な上達ぶりだ。あり得ない。ヒナコはそう思った。
そしてふと浮かび上がってきた不安を口にした。
「ねえ、バレてないよね……?」
「え? あ、ああ。もちろんだよ、へへへっ」
「ばか。違うよ。あっ、こら。ここに逃げて来たこと、バレてないよねって話」
ホラーが苦手とはいえ少しはそういったドラマを見たことがあるからわかる。いや、だからこそ当てはめてしまう。よくあるパターンならこのアパートの前にミナが……もしくは……
「そうだ、電話とか掛かってきたり……」
「え? 電話?」
「そう、ミナから。人のものとは思えないような恐ろしい声でさ……」
「お、脅かすなよ……。マジやばかったんだってば、白目剥いて喉鳴らしてさぁ、いやぁもう無理だわ。元に戻っても思い出したら萎えちゃうよ。へへへ」
「あ、だから、やめて」
「いーじゃんさぁ。今夜はこのまま、へへへへ、あっ、え……」
「どうしたの? まさか、着信が」
「いや、通話中になってた。なんでだろ?」
「相手は、あっ、ミナ……? これ、聞こえてたり」
『やぁっぱぁりぃ浮気ぃしてたぁなぁぁぁ……』
恐ろしい声であった。