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第30話 ハージマルダンジョン攻略(2)

 3階層へ降りると、ルークは立ち止まり後ろの2人を見る。


「この階層はなるべく音を立てないようにしてくれ。ここに出現する大ネズミは、刺激すると仲間を呼ぶ習性がある。そうなると大ネズミの群れと戦うことになるからな」


「戦わないのかニャ?」


「数は暴力だ。弱い魔物でも数で圧倒されると危険だ。それに、ここは本来魔物との戦闘を回避する方法を学ぶ階層なんだ。無理矢理突破する方法もいくつかあるけど、時間がかかるしリスクも高いから今日はやめておこう」


 今日じゃなければやるってことだよね? いや、むしろやる気!?


「魔物が大量に出てくるから、レベル上げにはちょうどいいんだ」


「やっぱりやる気だったよ!」


 ルークは驚くエリンを見て「メイス振り回せば、一振りで数匹はいける。エリンの見せ場だな。アハハハ」と笑っていた。


「さっきも言ったけど、この階層を早く抜けるコツは魔物と戦わないことだ。もし魔物が出てきても手を出さないように」


「……ん。シャル達が手を出さなくても、大ネズミは襲ってくる。どうするニャ?」


「僕が歩きながら撒き餌をしていく。ヤツらは生きた肉よりも死肉を好むから、僕たちじゃなく撒き餌に集まるんだ。だから、すれ違っても襲われないから安心してくれ」


 エリンは「どうして初めて来る階層のコツを知ってるの!?」と思ったが、ルークが足音を立てないようそっと歩きだしたので聞くのをやめた。


 少し歩くとルークは腰のカードホルダーから魔物カードを取り出し、『リリース』と唱える。そしてカードから実体化した角ウサギやリトルスネークなどの死骸を通路に置いていく。


 それから5分ほどすると、4階層へ降りる階段にたどり着いた。


「フゥ……緊張したよ。戦うよりも疲れたかも」


「アハハハ。確かに戦う方が楽だね。けど、ときには敵との戦闘を避けながら行動をとることもある。この機会に慣れておいた方がいい。……あれ、シャルはどこだ?」


 ルークとエリンは周りを見渡すがシャルの姿は見当たらなかった。


「エリン、最後にシャルを見たのはいつか覚えてる?」


「さっき大ネズミとすれ違うまでかな。あのときドキドキしちゃって、それから後ろ振り向いてないかも……」


「シャルが僕に無断で行動するなんて考えられない……あっ! 僕としたことが完全に見落としていた。猫人はネズミ系の魔物を見ると狩猟本能が刺激されるんだ。今頃きっと……」


 そのとき、通ってきた通路の奥の方からドス、ズバッ、ベチッと音が聞こえてきた。ルークはカードから戻したショートメイスをエリンに渡す。そして2人は音のする方へ走り出した。


 すると通路の先には、10匹以上の大ネズミと戦闘しているシャルの姿があった。

 近くには大量の大ネズミの死骸が散乱していた。


「し、シャルちゃん、腕や足から血が出てるよ!」


「エリン。静かにするんだッ! ヤツらが増える」


「う、うん」


「エリン、僕があの大ネズミをなんとかする。その隙にシャルを連れて4階層へ降りてくれ。魔物は階層を移動できないから、それで逃げられる」


 ルークはそう言うと、シャルめがけて走り出す。シャルの背後に回り込んでいた大ネズミ2匹を斬り倒すと、シャルの首根っこを掴みエリンめがけて放り投げた。


「ニャニャニャニャァァァァ!」


「シャル。静かにしろッ! これ以上、魔物を呼び寄せる気かッ!」


 怒られたシャルはサッとエリンの後ろに身を隠し、首をすくめながらルークを覗き見る。状況が状況なだけにエリンは我慢していたが、堪らず口にしてしまう。


「る、ルーク君……あの……言わないでおこうと思ってたんだけど、絶対にルーク君の声の方が響き渡ってるからね」


 その指摘にルークは悪びれることもなく「えっ? そうかな。アハハハハ」と笑っていた。


 エリンは「ルーク君、絶対にワザとやってるよね? この状況を楽しんでるよね!?」と心の中でつぶやきながらも、シャルを追ってきた大ネズミ3匹めがけてメイスを一振りする。すると3匹の大ネズミはベチャっと破裂し壁にこびりついた。


「うぇっ……ぐ、グロいんだけど。い、いや、今はそんなことよりシャルちゃんを連れて逃げなきゃ」


 エリンはシャルを軽々と抱え、そのまま階段目指して走り出した。シャルが「まだ戦うニャー」と叫びバタバタと暴れるので、エリンは落とさないように抱える腕に力を込める。「く、苦しいニャ……グハッ」という声は、走るエリンに聞こえることはなく、大人しくなったシャルはそのまま連れ去られていった。


 やっと行ってくれたか……それにしても少し騒ぎすぎたかな?


 このとき、ルークの周りを20匹以上の大ネズミが取り囲んでいた。さらに奥から大量の足音が近づいてくる。

 Eランクのソロ冒険者であっても、迷わず逃げ出す場面。しかしルークは笑っていた。


「せっかくの機会だから、どのぐらい強くなったか試させてもらおうか……」


 ルークの全身が紫紺色(しこんいろ)に淡く輝きだした。


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