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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
9/52

3 獣道の猛獣 1

これは、命を求めるが故に死を賭した戦いへ踏み込む者達の物語。

ここに三人目——。

 インタセクシルは剣と魔法の世界。そして魔物が存在する世界。危険な魔物は人に被害を与えるし、それを駆除してくれる者には報酬も出る。

 かつて大陸屈指の大帝国だったナーラーも、魔王軍により崩壊し、分裂している現状。戦前の秩序など戻るべくもなく、金で戦う傭兵や冒険者はあちこちで求められていた。



——かつてナーラー国の一地方だったある男爵領——



 巨大な竜が吼えた。地球の恐竜でいう大型の獣脚類——アロサウルスやティラノサウルス等——によく似た竜が、敵へと剣呑な牙を剥いて走る。

 身長二十メートルを超える巨体である。その威力に何が耐えられようか。


 だが竜の敵……量産型の青銅級機ケイオス・ウォリアー、人造の巨人戦士は恐れる事なく踏み込み、剣を繰り出す。


 牙と爪が人造巨人兵の鎧を掠め、傷跡を残した。

 だが巨人兵の剣は竜の急所を貫き、絶命させた。



——男爵の邸宅——



 太った男爵は自ら、金の入った袋を渡した。

「大した腕だな、助かった。たった一機で暴れ竜を容易く仕留めるとは。宛てが無いなら私に仕えないか?」

 金を受け取っているのはまだ若い男だ。彼は袋の中身をロクに確かめようともしない。

「宛ては無いが事情がある。生き残っている王族の噂話を聞いた事は無いか? 信憑性は問わない」

 男にそう訊き返され、男爵は相手をまじまじと見つめた。


 青年……まだ少年とさえ言える年頃の。

 黒い瞳に黒髪の、本来なら大人しい方の顔立ちだっただろう。

 しかし埃に薄汚れ、荒んだ放浪を長く続けている事は見て取れた。

 そして身に纏う鎧は——痛んで傷だらけ、装飾は削れて塗装も剥げて薄れてはいるが、男爵はようやく気付く。

 旧ナーラー国騎士団の最上位、王家の人間直属の皇騎士団。その装備品だと。


 男爵は言葉に窮した。

 男の、若い騎士の素性を薄々察したからだ。

 旧ナーラー王家は、魔王軍に侵攻された時に皆で避難したのだが、そのルートを知る者が敵にいたせいで奇襲を受け、一人を除いて全滅している。

 その一人こそ旧ナーラー全土を治めていた天王その人で、現在は旧王都で再び以前の地位に戻っていた。


 なのにこの騎士は旧王都へ戻らず、放浪している。

 彼が仕えていたのは王家の別の者なのだろう。

 そして王家の生き残りが一人だけいた事から、己が守り切れなかった主もまた生存しているのではないかと考え、未だに探し求めているのだろう。


「お力にはなれませんな」

「そうか」

 呻くように言う男爵へ素っ気なく応えると、騎士はくるりと背を向けた。

 その背に男爵が声をかけたのは、彼なりの親切心からだ。

「さ、探すにしろ王都へ一度戻られては? 天王もラン様も、協力を惜しみはしないでしょう」


 騎士は肩越しにギロリと男爵を睨んだ。

 殺気だ。そこに籠っている。

 男爵は声も出せず縮み上がった。震えながら仰け反りそうになる。


「……誰がそんな救けなど」

 微かにそう呟くと、騎士はまた振り向き、大股で邸宅から出て行った。


 へなへなと床に崩れ、太った男爵はびっしょりと顔を湿らせた汗を拭う。

(武人の誇りと意地か。主を守れなかったのに、おめおめと王の前に顔は出せんと……)


 実は、それは誤解だ。



 騎士は街の小汚い一画へ訪れ、安い宿をとった。

 ついでに食事も頼み、ガタのきたテーブルで粗末な粥を啜る。

 別のテーブルで話し合う酔っ払いの会話が耳に入った。


「旧王都近くで暴れてた怪獣の群れな。あれ、ラン様が駆逐したらしいぜ」

「ああ、魔王軍が飼ってた生き残りとかいうアレか。結局、あの人頼りかよ」

「流石はかつてヘイゴー連合で最強部隊を名乗り、魔王撃破の決戦にも参加した女勇者だな。一時は行方不明だった天王様が、自分を助けたからだと外国から五人も変な連中を連れて来た時は、大丈夫かよと思ったもんだが……結局、あの人が上手くやってくださってるわ。間違いなく今のこの国の頂点よな」


 その会話を聞いた騎士の腕が震える。

 怒りと苛立ちで。

 なんとか抑えて粥を食い終わると、騎士は部屋に引き上げた。


 鎧を外し、粗末なベッドに腰かける騎士。

(今の頂点だと? 上手くやっているだと? 本来なら王族がいる筈の所に、余所者(よそもの)が……)

 そう怒ってはいる……が、実はこの騎士もこの国の人間では無かった。この世界の人間でさえ無かった。

(何が外国の元最強部隊だ。何が魔王との最終決戦だ。天王様がこの国へ誘った五人のうち、二人は辞退、別の二人は国外へ姿をくらまして戻らない。ただ一人天王のお傍に仕えるランとかいう女、いかがわしいにも程がある!)


 そう憤る騎士、なのだが……ならば何故、彼は旧王都へ戻り、ランという女に目を光らせようとしないのか。


 その理由は——

(召喚され、右も左もわからなかった俺を、信頼してお側においてくださった俺の主人。あの人がいるべき場所なのだ……!)

 騎士の脳裏に一人の少女が浮かぶ。

 ナーラー王家の姫君の一人が。


 この騎士にとって最も重要なのは王家そのものではない。

 自分が仕えていた姫君なのである。

 騎士の名はセイキ。

 二十一世紀の日本から来た待田(まちだ)聖輝(せいき)という少年だった男だ。



(セイキ)

挿絵(By みてみん)

現代日本からの転移者も当然のように参加。

そして彼の、復活の秘宝を求める理由へと続く。

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