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17 revolution 2

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

リリィ:魔王軍の残した実験機Aグールアンムトの操縦者。病の後遺症で最近まで動けなかった。体を完全に治癒させるため、蘇生の秘宝を求める。

秘宝を手に入れようと争う他者全てを出し抜き、己の体の完全な治療を成し遂げた。

だがそのために無関係だった多くの人間を踏み台とし、犠牲者を多数出した。そのために……

――ナーラー国首都の郊外――



 都のすぐ側、互いに視認できる近距離に、頑丈な石造りの武骨な砦がある。

 だがそれは外観の話。その建物は砦ではない。

 犯罪者を収容する監獄なのだ。


 その牢の一つで、鉄格子を挟み、囚人と面会人が手をとりあっていた。

 囚人は上機嫌でにこやかに微笑んでいる。

「お姉ちゃん、来てくれてありがとう」

 囚人――リリィの言葉に、姉のイリスは涙を流した。

「来るわ、これからもずっと。私ね、都に引っ越したの。働く所も見つけたわ。お休みの日は面会に来るからね」

「うん、待ってるよ」

 リリィは笑顔で頷く。

 姉の言葉が、手を触れあえる事が、嬉しくてたまらないのだ。


「いい子にしていてね、看守さんの言う事を聞いてね」

 そう言ってイリスはリリィと額を合わせる。

 本当なら胸に妹を抱きかかえたいに違いない。

 だが二人を阻む鉄格子はそれを許さないのだ。

「うん、そうするよ」

 リリィは微笑みながら応える。

 姉の言葉が、額でも触れあえる事が、嬉しくてたまらないのだ。


「差し入れよ、食べてね、体を大事にしてね」

 イリスは笹の包みを渡した。

 彼女が働いているのは町の食堂。宿や酒場も兼ねているが、主に飯を出す店だ。

 そこで余った材料をいただき、せっせと作った握り飯である。

「うん、ありがとう。体はもう大丈夫だからね」

 リリィは差し入れを受け取って笑った。

 姉の作ってくれる食事が、それを食べられる事が、嬉しくてたまらないのだ。


「ああ、リリィ……」

 イリスは嘆き、妹の頭に両手で触れると、額に口づけをした。

 リリィはとても幸せで、くすぐったそうに笑っていた。


「そろそろ時間です」

 少し離れた場所で見張っていた看守が声をかえる。

 しかしイリスはせつなげな瞳を向けて、涙ながらに訴えた。

「もう少し、もう少しだけ……お願いします」



 姉妹二人が離れたのは、それから一時間以上後の事である。



 看守と共に出口へと歩きながら、イリスは涙にくれて訊いてくる。

「ああ、看守さん。リリィはいつ出られるんでしょう?」

「恩赦が出れば、という所ですね」

 なぜならリリィは無期懲役だからだ。


「それはいつでしょう? あの子はよく言う事をきく大人しい子ですよ? 模範囚はそういう物が早く貰えるんですよね?」

「まぁそういう傾向はありますが……私には何とも言えません」

 イリスは食い下がるが、看守は言葉を濁した。

 そうそう出るとは思っていないのだ。


「嘆願状という物を書けば出ると聞いたので、五十通は出しています。まだ足りないのですか?」

「あの子が収容されてから毎日書いているんですか……それなら上にももう届いています。後は上の判断です」

 イリスが一生懸命な事は認めつつも、看守は「逆効果では?」と疑ってしまった。だがそれはあえて口に出さない。


「どうして、どうしてあの子がこんな目に……」

 イリスの嘆きに、看守は溜息をつく。

「隊商一隊の全滅、旅人への強盗殺人を数件、あなたの故郷の領主もナーラー国に再帰属しましたので故郷の村の全滅も加わりました。犠牲者は百人でききません」

 故郷の全滅はこの姉も知っている筈では……と看守は疑問に思いつつ、他の罪状も合わせて教えてあげた。


 それを聞いて、イリスは詰め寄るように訴えるのだった。

「でもそれは! おかしな魔法の品に狂わされたからでしょう? あの子は病の後遺症でずっと苦しんでいたんです、そこをつけ込まれたんです。あの子も被害者なんです。何も悪い事はしていないんです」

「してるんじゃないですかね……ともかく、その事も考慮されたので縛り首は免れたのです。落ち着いてください、お姉さん」

 刑罰の軽減には、天王の片腕・ランの意見も大きかったと看守は聞いている。

 本当に罰を軽くすべきだったのか、疑わしいと看守は思っていたが。


「ああ、ああ……どうしてリリィばかりが、こんな……あの子は心の綺麗な子なのに……」

(そうかなぁ?)

 イリスの嘆きを聞きながら、看守は内心疑問を抱いていた。

 この看守、リリィが持ち場の囚人の一人なので毎日顔を合わせているのだ。



 イリスは往復便の馬車で都へ戻って行った。

 それを見送ってから看守は持ち場に戻る。

 リリィのいる一画へと。


 看守が戻った時、リリィは土産の包みを平らげ、寝台で横になっていた。

「姉さん、帰ったぞ」

「知ってます」

 看守が声をかけても、毛布をかぶったまま起きようとしない。


「君の事を心配しているぞ」

 そう言うと看守へ顔を向け、にっこりと微笑んだ。

「でも大丈夫です。もう私のためにお姉ちゃんが削れたりはしません。お姉ちゃんは幸せになれます」


 リリィが姉を本当に愛している事は看守も認めている。

 だがこの微笑みを見ると、やはり言いたくなるのだ。

「……君が殺した人達にも、同じくらい大切な家族がいたんだが」


「ふうん。そうですか」

 全く興味をもたず、リリィはごそごそと毛布を被った。


(心の綺麗な子、ね……)

 看守は呆れるが、それ以上何も言わない。説教などしようとも思わない。

 ここは監獄。収容されている者の多くは人の道を外れた者なのだ。



 毛布の中、リリィは幸せだった。

 もちろん、不便も不満もある。イリスと触れあえるのが一週間に数時間しかない。抱いてもらう事も一緒に寝る事もできない。


 でも、幸せなのだ。


 無理をして根を詰めて疲労の色が濃かった時代に比べ、イリスの血色も体調も良くなっている。もう姉を削らなくてもいいのだ。

 リリィ自身、息が苦しかったり、寝返りをうつのも大変だったり、時々咳が止まらなくなったりはしない。いつでも立てるし歩ける。

 まぁ牢屋の中での時間は大半が寝ていたが……それはする事が無いから、それだけだ。物心ついてから寝てばかりでなければならなかったリリィが、好きに寝ていい状態を苦痛に感じるわけがない。



 どこにでも歩いていける健康な体を得ていながら、リリィには自由がなかったが。

 様々な所へ訪れ、様々な物を見て、様々な物を味わう。そんな事はできなかったが。

 色々な仕事を見て、自分も何かに挑戦し、身に着け、生活を送る。そうして自分の可能性を試す事もなかったが。

 人と会い、知り合い、共に作業をし、友情や愛情や仲間意識を育むという事もなく、大好きな姉以外を知る事もなかったが。


 それらはリリィにとって、初めから無かった物だ。

 自分がどれほど多くの物を手に入れ損ねたのか、リリィには理解できない。だがあくまで持っていなかった物――失ったわけではない。

 リリィは監獄の寝台で、心から安心していた。



 リリィは完全な体を得て、姉の負担にならなくなった。緩慢な滅びを克服し、最愛の人と自分にずっと続く明日を掴ませた。

 リリィの願いは叶った。

 願いだけは、叶った。



(劇終)


一つの作品の別ルート、という形式をやってみたくて書いたこの作品。

これにて完走。

自己満足のみでほとんど読んでもらえない作品になってしまったが、まぁこういう物があってもいいだろう。

それでも読んでくださった方、ありがとうございました。


懲りずに3ルート目をどこかでやるか、今思いついている全く別路線のものでも始めるか、はてさて。

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