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16 獣の性 2

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

リリィ:魔王軍の残した実験機Aグールアンムトの操縦者。病の後遺症で最近まで動けなかった。体を完全に治癒させるため、蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

アイル:魔王軍の残した実験機Aワールドハーミットの操縦者。滅んだエルフ国の元王。息子を生き返らせようと蘇生の秘宝を求める。

『捕まえました』

 嬉しそうなリリィの声が通信機から届く。

 アイルは――

「そうだな。ならこれを受けてもらおう」

 そう言って、近づかれた時のための呪文を唱えた。


 魔法戦士であるアイルは、いかなる敵でも打ち倒す絶対の呪文は習得していない。

 自分がどんな魔法を使おうと、状況次第で通じない事は誰よりも本人がわかっている。

 だから接触が危険なAグールアンムト相手に、二つの戦法を思いついていた。

 一つは先ほどの、射撃戦を強要する作戦。

 そしてもう一つは……接触されてからそれを打ち破る作戦だ。


 触手がAワールドハーミットに噛みつく。

 だがENの吸収が始まった直後、アイルが次の呪文を完成させた。

 途端、轟音とともに強烈な稲妻が天より落ちる!

 それはハーミット自身を直撃した。


 膨大な電力が岩山の上で弾けた。

 触手が焼け、燃え、弾け飛ぶ。

 その触手を伝導し、電撃はアンムト本体をも焼いた。装甲の隙間から火花が散り、煙が上がる。

 なまじ敵の全身を拘束していたせいで触手がアースの役目を果たし、稲妻がもつ電力のほぼ全てをアンムトは食らってしまった。


 射程距離ゼロ、接触した相手にのみダメージを与える攻撃呪文は少ないながら有る。

 肉弾戦のできない後衛職の魔術師達にとっては使う機会はほとんど無いが……威力が直接叩き込まれるので破壊力は大きく、敵の特性や弱点と噛み合えば効果は大きかった。


 全身が焦げたアンムトがよろめく。

 そこへハーミットが駆け寄り、剣の強烈な一撃を加えた!

 アンムトの焼けた装甲に刃が深々と食い込む。至近距離へ迫ったという事は互いに格闘戦を仕掛ける事ができるという事。そしてアイルの剣技に支えられるハーミットの近接戦闘能力は、この大陸全土でも指折りの域に達しているのだ。

「トドメを刺させてもらう!」

 アイルは敵にこれ以上の機会を与える気は無かった。もはや己とハーミットも限界なのだ。

 食い込んだ剣に力を籠め、敵を両断にかかる。それを跳ね除ける力をもはやアンムトは持たない。


 だがしかし。

 除ける必要は無かった。

 アンムトが下に沈んでいくのだ!

「なにっ!?」

 驚愕するアイルが剣に力を籠めても、アンムトは岩山の中へ潜り込み、剣は地面に突き刺さって置き去りにされた。


 アイルにはわかった。

 アンムトがどうやって岩山の上に来たのか。

 Aヘブンベンヌのフルパワー射撃をどうやって凌いだのか。

 自分やいろはやセイキやランを、どうやって不意打ちしたのか。


 リリィは、地面の中を泳ぐアンムトの能力を、ここまで誰にも見えない状況でのみ使ってきたのである。


(それを見せたという事は、もう打つ手が無いという事なのでは……)

 アイルはそう考え、岩山の上から周囲を見渡した。アンムトの姿を求めて。どこか遠くへ逃げた可能性も考えながら。


 しばらく探すと……アンムトが地上に現れた。

 場所は、隊商の商人達がいる所。

 その真ん中に現れ、アンムトは、周囲の運搬機や商人達へ、無数の触手を伸ばした。


「なんて事を! 気でも違ったか!」

 驚愕と怒り。

 アイルはハーミットを走らせた。岩山から跳び下り、ハーミットは向かう。

 商人達とその運搬用機が、次々とアンムトの餌食になっている現場へ。



――残骸と屍が散乱する元野営地――



「ふう、なんとか間に合いました」

 リリィは安堵の笑みを浮かべる。

 やってきた満身創痍のハーミットに向かって。傷のほとんど塞がったアンムトの操縦席から。

『こんな事をして許されると、思っているのか……?』

 怒りに震えるアイルからの通信に、リリィはくすくす笑う。


「はい、思います」



 自分を死ぬまで削ってでもリリィの世話をしてくれる人が、リリィを許さないわけがない。

 他の人間の意思や基準など、最初からどうでもいい。



 砕けた残骸が散乱する中、無数に転がる骨と皮だけの屍。全滅した商隊の只中で、ハーミットは剣を構えた。

『君のご家族にもっと余裕がありさえすれば、君はきっと、もっと違う人間だったのだろうな……』

 その通信は、リリィに向けて言ったというより、どうしても漏れてしまった物だった。


 ハーミットが走った。走って斬りかかった。既に半壊し、エネルギーも残っていない状態で、よくこれだけの一撃が打てると驚く他ない、最高の剣だった。

 こ(・)の(・)状(・)態(・)で(・)打(・)て(・)る(・)、最高の剣だった。


 迎え撃つ触手の群れは、幾本かを斬り飛ばされながらも、容易くハーミットを捉えた。その全身を砕きながら自らの方へ引き寄せ、凶悪な顎を大きく開く。

 アンムトはハーミットの頭を一呑みにし、噛み砕いた。

 力を失った手足も胴体も、次々と締め潰される。

 生気に満ちたアンムトの力任せの攻撃で、弱り切ったハーミットは砕かれ、最後の戦いが終わった。



 アイルスリオン=メネルキールは息子と再会する事ができなかった。

 再会すれば、恨みも批難も憤りも全て受け止めるつもりだった。

 もう一度向き合えるのであれば、全てをぶつけてもらい、ただ詫びたかった。

 望みはあえなく散った。



 蘇生の力を求める物達——残ったのは最後の一人。一人だけだ。


設定解説


【Aワールドハーミット】


 巨人型のケイオス・ウォリアー。Aは「琥珀《アンバー》」を現す記号。

 フードを被りマントを羽織った剣士の姿を模した機体。

 操縦者の戦闘技術を高精度で増幅・再現する機能に長けたうえ、四本の腕を利用し、武術と魔術の同時行使を可能とする。

 また出力・敏捷性・耐久力等、全ての性能がバランス良く高く、穴が無い。

 そのため操縦者の技量次第で、全実験機中最強の戦闘力を発揮する事ができる。


 半面、突出した能力が無い上に、戦闘力のほぼ全てを操縦者に頼っているため、能力の低い者が乗れば全実験機中最弱の力しか出せない。

 操縦者を巨大な超人にする、というケイオス・ウォリアーの原点から考えれば良くも悪くも真のケイオス・ウォリアーと言える機体。

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