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15 不死鳥落つる 2

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

聖輝せいき:魔王軍の残した実験機Aブルートセルポパルドの操縦者。元は王家に仕える騎士。主人だった姫君を蘇らせるため蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

ラン:ナーラー国最強のエージェント。実験機の調査に動く。乗機はSルビーフェニックス。

 片翼でできる限り急上昇をかけたSルビーフェニックス。

 だが岩山を駆け上り、それを発射台のごとく跳躍したAブルートセルポパルドに宙で追いつかれる。

 野獣機の爪がフェニックスの腹を貫いた!


 二機は落ちる。一つになって落ちる。岩だらけの地面に激突する。

 フェニックスは仰向けに、背中から落ちた。量産機ならこれでバラバラになっただろう。だがフェニックスは持ち堪えた。


 なぜ体勢を立て直して着地できなかったか?

 それは爪を腹に刺したまま、セルポパルドが離れなかったからだ。


 そのセルポパルドは片膝をついた姿勢で着地していた。落下の衝撃を全身のバネで緩和しつつ。

 そして仰向けのフェニックスへ鉤爪を突き刺し、大地に押し付けた姿勢のまま——地を蹴って走り出した!

 強靭な脚部で大地を蹴り、フェニックスで地面を削りながら疾走、全力疾走。

 落下時のダメージ、地面との摩擦、(わだち)を作るほどの大地との衝突……それらがフェニックスの背面を砕いてゆく。

 避けていた翼が半ばから千切れて途中で置き去りにされた。


 激震する操縦席の中、ランは理解した。

(こいつ……再戦して私を倒すための、必勝の戦法を考えて!)


 奇襲しての翼潰し。

 距離を稼がせない、空へ逃がさない立ち回り。

 逆転のため放たれる筈の必殺技への対処の仕方。

 上空へ逃げた相手を追う機動。

 そして決着のための、敵の運動性を潰しながら己のパワーとスピードは全てぶつける必殺技。


(あんたはあんたで、一生懸命なんだね)

 ランは相手を認めてやってもいい気になりかけていた。

 だがだからこそ、わざと負けてはやれない。引きずられながらも腕を動かし、弓を造り出す。

 密着する技だからこそ、敵からの攻撃も避ける事はできない。それが欠点だった。


 弓が生じた腕に蛇の頭が絡んだ!

 牙を剥き、毒牙が首筋に噛み付く。

 聖輝(せいき)とて己の必殺技の欠点はわかっていた。

 だから敵の反撃への妨害も、機体の特性を活かして用意したのだ。


 聖輝(せいき)が吠えた。野獣そのものの声で。

 セルポパルドが踏ん張り、急ブレーキをかけながら上体を起こす。

 爪で貫き、蛇の首を巻き付けたフェニックスを、慣性を利用して縦に振り回した。

 まるで車輪の外周のように、フェニックスは弧を描いて——頭から地面へ杭のように打ち付けられる!


 大地に頭から激突しようとするフェニックスの操縦席で、ランは観念していた。

(脱出装置には頑張ってもらうけど、もしダメだったら……ゴメンね、お爺ちゃん)


 地面に叩きつけられたフェニックスは胴を貫く爪で縦に切り裂かれるだろう。

 大地と激突する衝撃で頭部から砕けもする筈だ。

 腹部から上を砕き切り裂く、徹底的に破壊する必殺の技から、もはやフェニックスには脱出する術が無かった。



 フェニックス()()



 セルポパルドがフェニックスを地面へ叩きつけようと振り回した、その途中——無数の触手が放たれた。

 それらはセルポパルドを後ろから雁字搦めにし、拘束する!

 全身全霊の技の最中、背後からである。聖輝(せいき)の技量が、セルポパルドの性能がいかに高かろうが為す術は無かった。


「なんだと!?」

 操縦席で驚愕する聖輝(せいき)。疾走中、他のケイオス・ウォリアーなどは見なかった。いなかった筈なのだ!

 だがセルポパルドは縛り上げられ、フェニックスは爪からすっぽ抜けて大地に投げ出された。


 セルポパルドの肩を、後ろから大きな顎が噛み砕く。

 その機体は——Aグールアンムト!

「お、おのれ……」

 憤る聖輝(せいき)は力任せの脱出を試みた。身を捩るセルポパルド。

 だが通信機からリリィの明るい声が届く。

『ムリです。もうエネルギーが無いでしょう?』


 聖輝(せいき)は愕然とした。

 モニターに表示されているエネルギー残量は、ほぼゼロ。

「バカな! いくらなんでももっと有る筈だ!」

 リリィがくすくす笑う。

『ランさん相手の、あんないっぱい動き回る戦い方……自分がやってたんじゃないですか』

「それでも! たった一戦で全て使い切るわけが!」

 聖輝(せいき)が怒鳴った時。

 セルポパルドの全身に亀裂が走った。

 触手に締め上げられ、巨大な顎で噛み付かれ、もはや耐えられないのだ。

 だがそれも……


「壊れるのが早すぎる……何もかもおかしい……これは、その機体の能力……」

 呆然と呟く聖輝(せいき)に、リリィが嬉しそうな声を送った。

『はい、そうです! ではさようなら』


 セルポパルドが潰れた。

 無数の触手により、握り潰された果実のように。

 触手が離れると、腕も足も胴にめり込んで判別できなくなったセルポパルドが地響きを立てて転がった。



『リリィ……そこまでしなくても……』

 あまりにも呆気ない聖輝(せいき)の絶命を前にランが呻く。力尽きて倒れたフェニックスの中で。

 それを機体の目で見ながら——リリィは微笑んだ。

「優しいですね、ランさん。じゃあ生き残ったのがアイルさんだったら、きっと私を止めようとしますね」


 触手がフェニックスに絡みついた。


『リリィ……?』

 わけがわからず名を呼ぶランに、リリィは微笑んだままだ。

「アイルさんとアーロンさん、どっちかが商隊の方にいる筈です。後一人です。じゃあ私、行ってきますね」


 触手がフェニックスに巻きつき、締め潰した。


 その残骸を、一度だけ悲しそうに眺め……リリィは再びセルポパルドの残骸へ。

 そこから心臓部を(えぐ)り出すと、もはや振り向かずに隊商の方へと去っていった。



 聖輝(せいき)は最後の皇騎士だった。だがその使命を果たす事はできなかった。

 彼の想い人であった姫を、守る事も助ける事も。



 蘇生の力を求める物達——残り二人。


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