15 不死鳥落つる 1
登場人物紹介
聖輝:魔王軍の残した実験機Aブルートセルポパルドの操縦者。元は王家に仕える騎士。主人だった姫君を蘇らせるため蘇生の秘宝を求める。
ラン:ナーラー国最強のエージェント。実験機の調査に動く。乗機はSルビーフェニックス。
台座のような岩山が点在する赤茶けた荒野。
その中でAブルートセルポパルドとSルビーフェニックスが戦っていた。
フェニックスの片翼は大きく裂けている。
セルポパルドの最初の奇襲でダメージを受けたのだ。
再生能力でいずれ回復、する筈なのだが……相手は執拗に翼を狙い、常にダメージを与えて回復させない戦法をとっていた。
やむなく地上戦で戦うフェニックス。
性能の高さと操縦者の技量により決して弱いわけではない。
だが地上こそがホームグラウンドであり、近接戦闘で真価を発揮するセルポパルド相手に飛行して距離を取れない状況で、戦い始めてからずっと劣勢を余儀なくされていた。
セルポパルドが右手の蛇頭から溶解液を放つ。
それが裂けた翼にかかり、煙をあげて焼き焦がした。
(くっ……しつこいわね!)
ランは苛立つが、それが有効な攻撃である事は認めざるを得ない。
至近距離に肉薄されているので弓も使い辛く、やむなく剣で応戦しているものの、再生能力を超えて徐々にダメージが溜まっていく。
敵の爪がまた装甲を裂いた。
お返しの剣を繰り出しながら苛々と叫ぶラン。
「魔王軍にいた奴と一緒に来るなんて、何を考えているの? それともあちらさんは改心でも為さっているのかしら?」
剣を潜りながら聖輝が叫ぶ。
『奴も後で倒す! 単なる順番の問題だ! 俺の君主が戻る所から、お前のようなエセ勇者を排除しておく!』
そして繰り出した爪は、剣で防御されたにも関わらず、フェニックスを吹き飛ばした。
岩山に叩きつけられるフェニックス。
それへ聖輝は蛇の頭を伸ばして追い打ちをかけた。
「何が最終決戦の勇者だ! 神獣の化身だ! そんな凄い奴なら何で皆が吹き飛ばされた後に来た! 後で取り戻せる物ばかりじゃ……ないだろうぅ!」
抑えきれず怒鳴る激情が、僅かに力ませ過ぎたか。
蛇の毒牙は際どい所でフェニックスの剣に弾かれた。
『皆って言うのは、あんたの主人とか、他の王族とか……皇騎士団の人達とか?』
剣を構え直すフェニックスからランが訊く。そして――
『そっか。あんたも助けて欲しかったんだ……』
納得したランの呟き。
それが届いて、聖輝は……何かに気づいたように目を見開いた。
だがすぐに血の逆流とともに叫ぶ。
「知ったふうな事を言うなァ!」
セルポパルドが爪を伸ばして走る。一瞬で間合いをゼロにし、爪を横殴りに繰り出した。
その一撃がフェニックスを捉える!
だがしかし。
切り裂かれながらもフェニックスは横へ、爪と同じ方向へ跳ぶ。
装甲を裂かれながらも致命的な部分は壊させず、大地を転がり、その勢いで立ちながら跳ね、敵との間合いを離した。
『ゴメンね。最終決戦には行ったけど、魔王本体には一太刀も浴びせてない、二軍の子だからさ。こんな時代だから勇者のふりして国民の皆様に安心してもらってるけど……真のヒーローが必要な事までは手が回らなかったのよね』
自嘲の混じる、ほんの少しおどけたようなランの通信。
途中から、そのおどけは消えた。
『エセ勇者ってのは本当だから、消されてもまぁ仕方ないかもだけど。その後は? あんたが真のヒーローになって、ディーヴお爺ちゃんの面倒を見てくれるの?』
ディーヴ……王族全滅から運だけで生き残った現天王。
その老人の名を出され、一瞬、セルポパルドが止まった。
「……俺にはできなかったじゃないかと、言いたそうだな」
聖輝は、怒鳴りはしなかった。
怒りはあるが、それより苦さがあった。
『そう……それがあんたの言い分なんだ』
そう呟くと、ランの声に、明るさと茶化すような響きが戻る。
『じゃあまだ私は頑張らないとね。あーあ、キャリアウーマン志望は無いんだけど。頼りがいのあるハンサムさんが強引に奪ってくれないかなぁ。私とお仕事を』
冗談を交えた軽口だが、聖輝は慎重に身構える。
フェニックスが見覚えのある動きを見せたからだ。
腕から展開する弓が大きな翼のごとき光を放ち、炎のようなエネルギーが満ちる。
(——来る!)
聖輝が思った瞬間、不死鳥が弓から放たれた。
セルポパルドが動いた。
だがそれを不死鳥の矢が捉える。ほとんど同時に、駆け込んだルビーフェニックス本体が剣を振るって追い打ちをかけた。
『フェニックス・ダブルブラスト!』
ランの声が力強く凛と響く!
斬撃が紅いエネルギーを押し込み、セルポパルドが爆発した。
ランは操縦席で目を見開いた。
炸裂したエネルギーが散ると……両腕を十字に組んだセルポパルドが立っている。
腕に剣を食い込ませたまま。全身を焼かれ、煙をあげて。
それでも余力を残し、立っている——。
『一度、これにやられた。対処を考えもする……』
聖輝が静かに呟いた。
「ああ……一度見た技は二度受けないとかいうアレね」
言葉で茶化し、顔は苦虫を嚙み潰すラン。
技のモーションを見た瞬間、聖輝は全力で防御に転じたのだ。
そして自分の距離——ほぼゼロレンジでの接触に持ち込むため、その場に全力で留まって持ち堪えたのである。
フェニックスは跳んだ。一転して絶対の危機となった間合いから。
しかし……
「そっちの最大の攻撃は止めた。次は俺が最大の攻撃を打つ!」
聖輝が吠えた。
セルポパルドが動いた。
片翼でできるだけ高度を取ろうとするフェニックスを、岩山を駆け上って追う。
Aヘブンベンヌとの戦いで見せた高速登攀……それは対フェニックスのために考えた機動だった。
両翼あれば別だったかもしれない。
だがフェニックスは追いつかれた。
その腹部を、セルポパルドの爪が貫いた——!




