14 傷跡 2
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
アイル:魔王軍の残した実験機Aワールドハーミットの操縦者。滅んだエルフ国の元王。息子を生き返らせようと蘇生の秘宝を求める。
ベンヌが大地を蹴った。
垂直に舞い上がり翼を広げる。この時も貫いた刀が邪魔で片翼の動きが制限されたが、それでもアーロンは地上へ叫ぶ。
「さあどうする原住民! 俺はこの大空を自由に飛ぶぞ。ここからの砲撃で貴様は焼き払われるのだ。無様に逃げまわれ! お前らはそういう動物だ!」
その口上の最中……アーロンは次の呪文を唱えていた。
(挑発? なぜ攻撃の手を止めて? 何の意味があるのだ……)
敵の行動に疑問を覚えつつも、呪文は完成した。
青白く輝く半透明の弓がハーミットの腕に出現する!
この世界インタクセシルに存在する魔術には、一定時間、魔力で武器を創り出す呪文が存在する。武器の威力は術者の魔力によって左右され、熟練の魔術師が使えば並の魔剣を凌駕する武器が生じもする。
だが武術と魔術の両方に通じる者が少ないため、どちらかといえばマイナーな系統でもあった。
しかし武術と魔術の両方に通じる数少ない者の一人が、まさにアイルなのだ——!
天と地で撃ち合いが始まった。
片翼を制限され運動性の落ちたベンヌと、魔法の矢と攻撃呪文を同時に放つハーミットで。
何度かの撃ち合いの末に光線がハーミットを掠め、装甲を焼いた。
が……ベンヌは矢と火炎弾を両方食らい、装甲片を飛び散らせた。
再生能力があってもなおダメージは溜まる一方。
アーロンは混乱した頭で考える。
(なぜだ!? おかしい、俺は勝てる筈だ。さっきも勝った。さっき……)
先刻の事を思い出した。
(さっき……)
必殺の光線の間から、己へ伸びる死の切っ先……!
慌てて頭を振った。
脳裏の光景を振り払いながら、僅かに残った思考が苦し紛れに思い出す。
(そうだ! 原住民どもを射線に入れるのだ!)
半壊したベンヌが降下してくるのを見て、アイルは驚いた。
(自分から下りて来ただと?)
それで敵に勝ち目が増えるとは思えない。
だから余計に策を警戒し、射撃を一瞬止めてしまった。
するとベンヌは着地し、砲の先を転がる運搬機へ——まだ人影のある機体へ向ける。
『避ければ後ろの原住民がどうなるか、お前程度でも理解はできるだろう!』
(そういう事か……しかし、それでも不自然だ)
やはりアイルには納得できない。
ハーミットと全く違う方向に人質がいるので、二門ある砲のうち片方しかこちらへ向いていないのだ。
(そんな事なら、上空でやれば良かったのでは?)
アイルが怪しんでいても、アーロンは構わず叫ぶ。
『もう一度、あの世へ行けェ!』
アイルには何を叫んでいるのかわからなかった。
だが砲身の中にエネルギーが満ちるのを見ると、そのままにするわけにもいかなかった。
(やらせん!)
ハーミットは呪文を放った。
天空から雷撃がベンヌに落ちる!
それは装甲を焼き、刺さった刀に伝わり、そこから機体の中に流れ込んだ。
ベンヌの内部が爆発を起こし、翼が片方もげてしまう!
再生能力があっても戦闘中に回復は不可能な欠損がここで生じた。
ここでようやく、アーロンは気づいた。
エルナダハの刀がまだ刺さっていた事に……。
『こ、こんな下品なソードがあるから!』
ベンヌが刀を掴み、引き抜く。
それを見てアイルはまた驚かされた。
(それを抜いてしまうのか!?)
刃物の刺さる位置や深さによっては、抜き方を考える必要が生じる。余計に傷口が広がるからだ。
片胸を貫く刀は、長さ故にベンヌ自身では真っすぐに抜けない。
なのにベンヌは力任せに引き抜き——刀を投げ捨てると、同時に、片腕が肩ごと地面に落ちた。
角度がついて抜かれた刃が、肩を切り落としてしまったのだ。
二門のうち片方しか撃てなくなった瀕死のベンヌが、残る腕で砲を一つだけ構える。
『これで終わりだ!』
その叫びはまるで悲鳴だった。
光線が飛ぶ。
それを横跳びに避けながらハーミットは輝く矢を放った。
ベンヌの鳩尾を矢が貫く。
ついに限界に達し、ベンヌが爆発した。
終始混乱していた敵の最期を前に、アイルは答えの出ない問いを投げかける。
(あの男、あまりにも追い詰められていた。やはり君のおかげなのか)
ほんの一、二日しか共に過ごしていない女サムライへ。
「ありがとう、彩華」
その礼ははっきりと口にだし、アイルは地面に転がるベンヌの残骸を眺めた。
アーロンはここまでだった。
巻き込まれた戦いの中、野望を抱き、それ故に引き返せない戦場に引きずり込まれ、先ほどまでは生き残るために戦い、それ故に命を落した男は。
蘇生の力を求める物達——残り三人。
設定解説
【Aヘブンベンヌ】
鳥空型のケイオス・ウォリアー。Aは「琥珀」を現す記号。
空を飛べるうえにとにかくスピードに優れ、飛行速度と運動性がズバ抜けて高く、敵の攻撃を避けながら自分に有利な場所を取る事ができる。
メイン武器は腰の両側に装備された可動式のビーム砲。
長射程・高出力を兼ね備えており、広範囲を一度の射撃で焼き払う事も、その威力を敵一体に収束させる事も可能。
装甲は厚くないが自己再生能力をもっており、多少の損傷は短時間で回復する。
飛行能力と遠距離攻撃に特化しており、得意な間合いならば滅法強いうえに望むレンジを保持し易い。
多少のダメージならリカバーできる再生能力も合わせると、六機の中でも実戦の強さは一、二を争う。




