表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/52

14 傷跡 2

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

アイル:魔王軍の残した実験機Aワールドハーミットの操縦者。滅んだエルフ国の元王。息子を生き返らせようと蘇生の秘宝を求める。

 ベンヌが大地を蹴った。

 垂直に舞い上がり翼を広げる。この時も貫いた刀が邪魔で片翼の動きが制限されたが、それでもアーロンは地上へ叫ぶ。

「さあどうする原住民! 俺はこの大空を自由に飛ぶぞ。ここからの砲撃で貴様は焼き払われるのだ。無様に逃げまわれ! お前らはそういう動物だ!」



 その口上の最中……アーロンは次の呪文を唱えていた。

(挑発? ()()()()()()()()()()? 何の意味があるのだ……)

 敵の行動に疑問を覚えつつも、呪文は完成した。

 青白く輝く半透明の弓がハーミットの腕に出現する!


 この世界インタクセシルに存在する魔術には、一定時間、魔力で武器を創り出す呪文が存在する。武器の威力は術者の魔力によって左右され、熟練の魔術師が使えば並の魔剣を凌駕する武器が生じもする。

 だが武術と魔術の両方に通じる者が少ないため、どちらかといえばマイナーな系統でもあった。

 しかし武術と魔術の両方に通じる数少ない者の一人が、まさにアイルなのだ——!



 天と地で撃ち合いが始まった。

 片翼を制限され運動性の落ちたベンヌと、魔法の矢と攻撃呪文を同時に放つハーミットで。

 何度かの撃ち合いの末に光線(ビーム)がハーミットを掠め、装甲を焼いた。

 が……ベンヌは矢と火炎弾を両方食らい、装甲片を飛び散らせた。


 再生能力があってもなおダメージは溜まる一方。

 アーロンは混乱した頭で考える。

(なぜだ!? おかしい、俺は勝てる筈だ。さっきも勝った。さっき……)

 先刻の事を思い出した。

(さっき……)


 必殺の光線(ビーム)の間から、己へ伸びる死の切っ先……!


 慌てて頭を振った。

 脳裏の光景を振り払いながら、僅かに残った思考が苦し紛れに思い出す。

(そうだ! 原住民どもを射線に入れるのだ!)



 半壊したベンヌが降下してくるのを見て、アイルは驚いた。

(自分から下りて来ただと?)

 それで敵に勝ち目が増えるとは思えない。

 だから余計に策を警戒し、射撃を一瞬止めてしまった。


 するとベンヌは着地し、砲の先を転がる運搬機へ——まだ人影のある機体へ向ける。

『避ければ後ろの原住民がどうなるか、お前程度でも理解はできるだろう!』


(そういう事か……しかし、それでも不自然だ)

 やはりアイルには納得できない。

 ハーミットと全く違う方向に人質がいるので、二門ある砲のうち片方しかこちらへ向いていないのだ。

(そんな事なら、上空でやれば良かったのでは?)

 アイルが怪しんでいても、アーロンは構わず叫ぶ。


『もう一度、あの世へ行けェ!』


 アイルには何を叫んでいるのかわからなかった。

 だが砲身の中にエネルギーが満ちるのを見ると、そのままにするわけにもいかなかった。

(やらせん!)


 ハーミットは呪文を放った。

 天空から雷撃がベンヌに落ちる!

 それは装甲を焼き、刺さった刀に伝わり、そこから機体の中に流れ込んだ。

 ベンヌの内部が爆発を起こし、翼が片方もげてしまう!

 再生能力があっても戦闘中に回復は不可能な欠損がここで生じた。


 ()()()()()()()、アーロンは気づいた。

 エルナダハの刀がまだ刺さっていた事に……。


『こ、こんな下品なソードがあるから!』

 ベンヌが刀を掴み、引き抜く。

 それを見てアイルはまた驚かされた。

(それを()()()()()()のか!?)


 刃物の刺さる位置や深さによっては、抜き方を考える必要が生じる。余計に傷口が広がるからだ。

 片胸を貫く刀は、長さ故にベンヌ自身では真っすぐに抜けない。

 なのにベンヌは力任せに引き抜き——刀を投げ捨てると、同時に、片腕が肩ごと地面に落ちた。

 角度がついて抜かれた刃が、肩を切り落としてしまったのだ。


 二門のうち片方しか撃てなくなった瀕死のベンヌが、残る腕で砲を一つだけ構える。

『これで終わりだ!』

 その叫びはまるで悲鳴だった。


 光線(ビーム)が飛ぶ。

 それを横跳びに避けながらハーミットは輝く矢を放った。

 ベンヌの鳩尾(みぞおち)を矢が貫く。

 ついに限界に達し、ベンヌが爆発した。


 終始混乱していた敵の最期を前に、アイルは答えの出ない問いを投げかける。

(あの男、あまりにも追い詰められていた。やはり君のおかげなのか)

 ほんの一、二日しか共に過ごしていない女サムライへ。

「ありがとう、彩華(いろは)

 その礼ははっきりと口にだし、アイルは地面に転がるベンヌの残骸を眺めた。



 アーロンはここまでだった。

 巻き込まれた戦いの中、野望を抱き、それ故に引き返せない戦場に引きずり込まれ、先ほどまでは生き残るために戦い、それ故に命を落した男は。



 蘇生の力を求める物達——残り三人。

設定解説


【Aヘブンベンヌ】


 鳥空型のケイオス・ウォリアー。Aは「琥珀アンバー」を現す記号。

 空を飛べるうえにとにかくスピードに優れ、飛行速度と運動性がズバ抜けて高く、敵の攻撃を避けながら自分に有利な場所を取る事ができる。

 メイン武器は腰の両側に装備された可動式のビーム砲。

 長射程・高出力を兼ね備えており、広範囲を一度の射撃で焼き払う事も、その威力を敵一体に収束させる事も可能。

 装甲は厚くないが自己再生能力をもっており、多少の損傷は短時間で回復する。


 飛行能力と遠距離攻撃に特化しており、得意な間合いならば滅法強いうえに望むレンジを保持し易い。

 多少のダメージならリカバーできる再生能力も合わせると、六機の中でも実戦の強さは一、二を争う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ