14 傷跡 1
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
アイル:魔王軍の残した実験機Aワールドハーミットの操縦者。滅んだエルフ国の元王。息子を生き返らせようと蘇生の秘宝を求める。
アイルは我に返った。
(ここは……?)
操縦席の中である。
確かAヘブンベンヌの砲撃を受けた筈。モニターを確認すると、表示されるHPは残り少ない。やはり相当なダメージを受けている。
周囲を見渡せば、破損して行動不能になった運搬機やそこから落ちたコンテナで囲まれていた。
(なぜ私はここに?)
爆発により吹き飛ばされたのだろうか?
ならばえらく幸運だった。
周囲の機体やコンテナの陰に隠れたおかげだろう、敵から追い打ちを受けていないのだ。
(まずは回復させるか)
アイルにも多少の回復魔法は使える。得意な分野ではないので、戦闘中に機体を修理できるほどの技量は無いが……隠れて術を行使できるなら話は別だ。
しかし、そう考えた直後。
一際強烈な光線がコンテナの向こうで放たれ、大地を焼いて飛んだ!
(少しの暇も無い!)
状況が緊迫している事を察し、やむなくアイルはAワールドハーミットを立ち上がらせる。
そして横転している運搬機を周り込んで、光線が放たれた方へ走った。
——二条の轍が走る荒野——
そこでアイルは見た。
尻餅をついているヘブンベンヌを。
そして操縦者が絶命している事は必至な、Aアビスエルナダハの焦げた残骸を……!
「貴様がやったのだな……魔王軍!」
アイルは怒りに叫んだ。
怒鳴り声が通信機から届き、アーロンは己を取り戻した。
敵だ。ワールドハーミットがすぐそこにいる。
なぜ自分は思考が停まっていたのだろう?——と考え、汗だくになった自分の、震えて止まらない足に気づく。
(違う、違う! 俺が下等人種を恐れるわけがない! 俺は危機に動揺しただけだ!)
己の心の中を己で否定し、アーロンは怒鳴り返した。
「この手で殺処分した! それがどうした、原住民!」
『仇は、私が討つ……』
敵の静かな怒りの声が通信機から返って来た。
「人間のマネをするなァ!」
大声で喚き、アーロンは震える手で操縦桿を握ると、射撃の照準を敵に合わせる。
ベンヌは光線を乱れ撃ちした。ヤケになったように連射する。
しかし狙いが甘い。特に片方の砲はまともに狙えていなかった——まだエルナダハの刀が胸を貫いたままなのだ。
ハーミットが跳び、走ると、光線はことごとく地面を撃った。既に大ダメージを受けて半壊しかけているハーミットを、いくら撃っても倒しきれない。
そのハーミットは竜巻の呪文を撃ち返してきた。渦巻く風がベンヌを捉え、全身を裂く。
踏ん張ってそれに耐えるベンヌ。射撃が止まったその瞬間、ハーミットは一気に駆け寄り、鋭く一太刀を見舞った!
ベンヌが切り裂かれ、大きく仰け反る。
モニターが受けたダメージを表示する中、アーロンは悲鳴をあげた。
あげながら必死に考える。
(何を、俺は何をやっている!? そうだ、飛ぶんだ。飛ぶんだ!)
やっとベンヌが大地を蹴った。
垂直に舞い上がり翼を広げる。この時も貫いた刀が邪魔で片翼の動きが制限されたが、それでもアーロンは地上へ叫ぶ。
「さあどうする原住民! 俺はこの大空を自由に飛ぶぞ。ここからの砲撃で貴様は焼き払われるのだ。無様に逃げまわれ! お前らはそういう動物だ!」
その口上の最中……アーロンは次の呪文を唱えていた。
(挑発? なぜ攻撃の手を止めて? 何の意味があるのだ……)
敵の行動に疑問を覚えつつも、呪文は完成した。
青白く輝く半透明の弓がハーミットの腕に出現する!
この世界インタクセシルに存在する魔術には、一定時間、魔力で武器を創り出す呪文が存在する。武器の威力は術者の魔力によって左右され、熟練の魔術師が使えば並の魔剣を凌駕する武器が生じもする。
だが武術と魔術の両方に通じる者が少ないため、どちらかといえばマイナーな系統でもあった。
しかし両方に通じる数少ない者の一人が、まさにアイルなのだ——!




