13 燃える刃 3
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
彩華:実験機Aアビスエルナダハの操縦者。召喚された女サムライ。異性の戦友を蘇生させるため秘宝を求める。
Aヘブンベンヌと睨み合うAアビスエルナダハ。
エルナダハの向こうに商隊の破損した運搬機。
数人の商人が、悲鳴をあげて運搬機の陰に隠れる。
遠くへは逃げない――足を引きずっている者や腕を押さえている者達だ。負傷していて遠くへは行けないのだ。
ベンヌが腰の左右にある光線砲を構えた。
そこから発射される光線をエルナダハが避ければ、間違いなく商人達は全滅する。
この位置関係は偶然ではない。
飛ぼうとして翼を斬られたベンヌは、残る空中制御能力を総動員し、この場所へ着地したのだ。
ベンヌは真っすぐ光線を撃つだろう。
エルナダハが幻覚を作っても、どんな幻覚をどう動かそうとお構いなく。
彩華は決めねばならない。
商人達を見捨てて避けるか、見捨てず射線内に留まるか……だ。
彩華の脳裏にクルスの小生意気な面が浮かぶ。
結果的に見捨ててしまった少年の。
(あなたは私に、何を言いたかったの?)
心の中で、もう一度クルスに問いかけた。
決めねばならない事が決まった。
いや……元々決まっていた。
エルナダハが走り出した時、アーロンは操縦席でほくそ笑んでいた。
「ああそうだろう。土下座して命乞いでもすればいいものを、お前ら日本人はそうやって逆らう」
笑みが一転、憤怒に変わる。
「人より生意気な動物に生きている価値などあるものかよ!」
アーロンがこの瞬間まで光線を撃たなかったのは、別に慈悲をかけていたからではない。
最大出力まで充填していただけの事だ。
だから容赦など全くする事なく、エルナダハへ二条の光線を撃ち込んだ。
エルナダハは刀を手に真っすぐに走った。
大出力の光線の中へ、真っすぐに。
嘲りの笑みを浮かべるも、アーロンの射撃は正確で、エルナダハは光の奔流に焼かれる。
光線はエルナダハに当たり、そのせいで僅かに屈曲し、運搬機を僅かに逸れ……陰にいた商人達は助かった。
だがしかし。
アーロンの目が驚愕に見開かれるのは、ほんの一、二秒後の事だった。
エルナダハは走っていた。
二条の光線の、その間を。
砲身が腰の左右についているので、ベンヌの撃つ二条の光線は間に僅かな隙間がある。砲身と腰を繋ぐジョイントの可動域の関係で、光線を完全に重ねるにはベンヌから多少の距離が必要になるのだ。
高空から撃ち下ろす普段の戦い方なら問題にならない程度の短い距離なのだが――
エルナダハはその僅かな隙間に駆け込み、体を左右から焼かれながらも走っていた。
可動域の限界の、その内側である。ベンヌには為す術がない。
エルナダハの刀が繰り出される。
「や、め、ろ、うわぁあぁ!」
アーロンは悲鳴をあげた。恐慌していた。
常に見下し続けていた憎き下等人種を前に、恐怖で叫んでいた。その事を自分では認識できないほど取り乱していた。
それへ繰り出される刀は、一切の迷いが無く、冷徹に己の敵を貫いた。
ベンヌの体を刀が貫いたのだ。
貫通し、その背から刃が突き出す!
傷口から火花を散らし、ベンヌは後ろへよろめく。
光線は止まっていた。
よろめき、無様に尻餅をついた。
その操縦席で、アーロンは呆けていた。
大量に汗をかき、ガタガタと震えながら。
ベンヌの体は刀に貫かれている。
その刀を握っていた、エルナダハの右腕が、ぼとり……と落ちた。
体は数メートル離れた所で倒れていた。
ベンヌが立っていた所の、目の前だ。
倒れているエルナダハはピクリとも動かない。
左右が焼き砕かれ、ごっそりと抉れている。腹部などほとんど残っていない。黒く焦げた砂時計のようだ。
焼け砕けたボディの隙間から神秘の光が漏れている。超高温の地獄でも、蘇生の秘宝の欠片を破壊する事はできないのだ。
だが、複数種類の板金で造られた装甲さえも溶かし砕く超高熱で左右から炙られた操縦席ブロック……その内側からは何かが煮える音がゴボゴボと不気味に響いていた。内部は、生物が生存できる温度では無い。
即座には分解されないだけで、光線の隙間もまた致命的な空間だった。
その致命的な場所からの最後の一撃で、彩華は敵を貫いたのだった。
もう一秒、命があれば、アーロンも道連れだったであろう。
そのたった一秒が足りなかった。
彼女に最も向かってきて、一番気になる人になった少年が、最後に何を自分へ言ってくれる筈だったのか。
彩華はついに聞く事ができなかった。
蘇生の力を求める物達——残り四人。
設定解説
【Aアビスエルナダハ】
深海型のケイオス・ウォリアー。Aは「琥珀」を現す記号。
水中戦を得意とし、水の中では陸以上の運動性とパワーを発揮する。
自身の幻を音つきで複数投影する事ができ、敵を撹乱して戦うのが得意。
また量産型機程度であれば相手のレーダーを直接狂わせ、敵味方の位置を誤認させる事さえ可能。
さらに幻覚を応用した迷彩保護色で周囲に溶け込み、姿を晦ます事ができる。
ただしこの能力は周囲の景色を把握しながら常時色彩を変え続けるので、攻撃や高速移動を行うと色の調整が間に合わずに維持できなくなる。そのため身を隠しながらできる事は低速の移動と静かな呪文を唱える程度になる。
幻惑・撹乱・奇襲といった戦い方と相性が良い反面、火力の高い武器は装備しておらず、いざ攻撃となると操縦者の戦闘技術に頼らざるを得ない。




