13 燃える刃 2
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
彩華:実験機Aアビスエルナダハの操縦者。召喚された女サムライ。異性の戦友を蘇生させるため秘宝を求める。
しぶとく、だが瀕死で立つAアビスエルナダハ。
アーロンは勝利を確信した。
「焼けて砕けろ! 下等な土人がぁ!」
腰両側の光線砲を敵機へ向け、容赦なく撃とうとした。
だがその直前。
エルナダハが走った。
前方に拡散しながら、何機ものエルナダハが!
面食らうアーロン。
だがすぐに察する……これはまやかしなのだと。
実にその通りだ。エルナダハには己の姿を複数映し出す幻像能力がある。
それらは個別に動かす事もでき、音さえ立てる。実際には幻が音を立てるのではなく、偽の音とともに動かしているのだが。
「ちぃッ! 小細工を!」
アーロンは照準をつけ直した。そして今度こそ地上へ撃ち込む。
ベンヌの腰についた左右の砲から太い光線が放たれた。
二条の光は間隔をあけて着弾し、盛大な爆発を起こす。
全てのベンヌを巻き込む爆発を!
(幻覚など造り出した所で、全て巻き込むように範囲を調整して撃てばいいだけの事。このヘブンベンヌがそれを可能とする機体だった事が貴様の不幸だ)
アーロンは操縦席でせせら笑った。
爆炎と煙が晴れて敵機の残骸が露わになる、その瞬間を空で待つ。
果たして、煙が失せた時……大地には何も無かった。
エルナダハの残骸も無い。
一転、狼狽えるアーロン。
「なにィ!? 全て虚像? ならば奴はどこに……?」
次の瞬間。
ベンヌが衝撃を受けて激しく揺れる!
「ぐぉっ!?」
呻くアーロンはモニターに表示されるHPが大きく減るのを見た。
「俺がダメージだと!? どういう事だ!」
必死に姿勢を立て直すが、直後、再び衝撃!
流石に二度目となると、混乱しながらも周囲を見渡す事ができた。
地上にエルナダハがいた。
幻覚達が走ったのとは、全く違う方向に!
幻像についてはアーロンが見抜いた通りだが、別の幻影――正確にはその応用――まで併用されている事は流石に見抜く事はできなかった。
それは保護色。景色を見極め、琥珀色の本体が変色して周囲に溶け込むのである。
激しい動き――敵への攻撃や高速の移動等を行うと変色速度が追いつかずに無駄となるが、通常の移動や静かな呪文の使用程度であれば、幻像能力と同時に使えばまず見破られる事は無い。
三度、エルナダハがベンヌを撃った。不可視の衝撃が鳥人機の全身を打ちのめす!
エルナダハが内臓している唯一の射撃武器……超音波が。
深海型ケイオス・ウォリアーとして、水中での使い勝手を重視された武装である。それ故に威力は特に優れているわけでもない。
だが無防備な所に三連発である。
実験機の基本性能の高さもあって、ベンヌは甚大なダメージを受け、地上へと落下していった。
アーロンは必死に姿勢を制御する。大地に叩きつけられる前にベンヌは翼を広げ、無事に着陸する事ができた。
着陸――そう、地面に降り立ったのである。
エルナダハはそこへ駆け寄る。そうしないわけがない。
無論、ベンヌは再び飛ぼうとした。そうしないわけがない。
片方が地を蹴り、片方の剣が一閃する。全くの同時だった。
ベンヌの胸部装甲が大きく斬り裂かれ、その身を仰け反らせた。
体ごと移動しようとする相手に追いつけないイロハの剣ではない。
鳥人機がまだよろめいている間に、エルナダハの第二の――とどめの一撃が打ち込まれた。
それで勝負はあった。
筈だった。
これが当たりさえしていれば。
一つ。
エルナダハはあまりにダメージを受けていた。
爆風で商隊の運搬機が何機も破損し、転倒する威力の光線を、直に受けて半壊しているのである。必殺の剣を、腰を入れて連続で打つには状態が悪すぎた。
二つ。
アーロンとて何年も戦場で生き抜いた職業兵士である。
続けざまに打たれる斬撃に、反応して回避を試みる事ができる、その域にはあった。
三つ。
ヘブンベンヌには自己修復能力があるのだ。
一瞬で何もかも回復するわけではないが、超音波で受けた損傷は、既に少しずつ塞がり始めていたのだ。
当たらねばならない起死回生の斬撃は、片翼を大きく切り裂き、終わった。
刀を振りきったエルナダハから少し離れた所に、翼を刻まれたベンヌが着地する。
着地だ。翼を斬られたベンヌは上空には戻れない。
だからまだエルナダハが敗れたわけではなかった。
だからまたアーロンは光線砲の照準をつけた。
(あの小賢しい幻覚さえ使わせなければ、俺は勝てる)
アーロンは確信していた。
(だから俺の勝ちだ)
ベンヌから見て、エルナダハのさらに向こう。
商隊の運搬機が破損状態で動けなくっていた。
負傷して逃げられないのだろう、そこには数人の商人が身を寄せ合っていた。




