13 燃える刃 1
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
リリィ:魔王軍の残した実験機Aグールアンムトの操縦者。病の後遺症で最近まで動けなかった。体を完全に治癒させるため、蘇生の秘宝を求める。
アイル:魔王軍の残した実験機Aワールドハーミットの操縦者。滅んだエルフ国の元王。息子を生き返らせようと蘇生の秘宝を求める。
彩華:実験機Aアビスエルナダハの操縦者。召喚された女サムライ。異性の戦友を蘇生させるため秘宝を求める。
アーロンの怪鳥機・Aヘブンベンヌが放った二条の光線。
それはアイルと彩華の機体を捉え、大爆発を起こした。
ほくそ笑むアーロン。
煙が徐々に晴れ……あちこちが焼け焦げ、装甲の所々が砕けた、二機の人造巨人がかろうじて立っていた。
『大丈夫か、イロハ』
アイルのAワールドハーミットから彩華に通信が入った。
「ええ、なんとか」
そう答えはしたものの、途端に彼女のAアビスエルナダハが膝をつく。
リリィのAグールアンムトにより触手で絡めとられた二人は、光線に対して反撃ができなかった。
だが咄嗟に防御系の魔法——ダメージを軽減する一種のバリア——を使い身を守ったのだ。
それは効果を発揮したものの、ベンヌのビームに対しては壁として薄すぎた。
魔術の技量が高いアイルでも甚大な被害を受け、いろはに至っては足元も覚束ない。
そんな二機に、ベンヌが再び砲身を構える。
『いかん! 来るぞ!』
「くっ……」
アイルの声に彩華は歯軋りし、機体の足に力を籠めてなんとか立ち上がった。
当然、アーロンは容赦などしない。
『吹き飛ぶがいい! 塵芥のように!』
彼の叫びとともに、ベンヌが再び強力な二条の光線を砲から撃った。
光線が爆発を起こす!
だが……今度はアイルと彩華まで届いておらず、その途中で、だ。
ハーミットの電撃とエルナダハの光弾、二機の撃った攻撃魔術が激突し、相殺したがために。
先ほど食らった一撃は痛手だったが、絡みついていた触手も吹き飛んだ。だから今度は自由に対抗できたのだ。
リリィからの妨害は、今度は無かった。先ほどアンムトが隠れていた場所にその姿は無い。
『ほう? まだ対抗できるのか』
感心するアーロンだが、少々の苛立ちも見せる。
敵がしぶとい事と、リリィが姿を消した事に。
『二人でなんとかするしかないな。どうやら敵も二人のようだ』
アイルからの通信を聞きながら、彩華もまたアンムトの姿を探していた。
(リリィさん、どうして? なぜ魔王軍の生き残りを手助けしているの? いつの間に従わされたのかしら……)
だが、再び触手が二機を襲った——背後から!
『なんだと!?』
機体を絡め捕られながら驚愕するアイル。
通信機からくすくすと笑う声が漏れた。
グールアンムトはさっきとほぼ真逆にある運搬機の陰にいたのだ。
「いつの間に!?」
彩華が驚くも当然、二機のいる位置を横切るか迂回せねばそこに移動はできない。
荒野でそんな事を見落とす筈が無い。
しかしアンムトは背後にいて、エルナダハも触手に捕らえられた。
二機は剣を振って触手を切り裂く。
だが脱出するまでアーロンが待つわけもない。大出力の光線がまたも撃ち込まれた。
上空から、三機のケイオス・ウォリアーを巻き込むように。
『え?』
リリィが呟いた直後、大爆発が一帯を吹き飛ばした。
(裏切る奴は何度でも裏切る。悠長に泳がせず早く始末した方がいい)
立ち昇る爆炎を眺めつつ、アーロンは攻撃体勢を維持する。
機体の火力には自信があるが、敵も同格の機体なのだ。
煙が晴れた時……そこにはアビスエルナダハ一機だけが倒れていた。
「なんだと!? どこに逃げた」
二機も消えた光景に狼狽えるアーロン。
いくらフルパワーで撃ちこんだといっても、実験機が跡形もなく消滅する筈が無い。
第一それでは秘宝の欠片が回収できず困る。
『リリィさんを……どうやって操ったんです?』
その問いが通信機から届き、アーロンはハッと我を取り戻した。
半壊したエルナダハがよろめきながら立ち上がろうとしている。
アーロンは苛々と言い返した。
「勘違いするな。あの小娘から申し出て手を組んだのだ。お前ら薄汚い未開人どもが強者に尻尾をふり、卑屈に立ち回る事に何の不思議がある? なぁ? 我々に媚びへつらって手に入れた技術で、厚かましくも逆らう日本の土人!」
彩華が日本という国から召喚されたサムライである事は、リリィから情報として得ていた。
(何を言っているのかしら?)
彩華には何の事だかよくわからない。彼女のいた時代には、西欧列強との戦争など起きていないのだ。
だがリリィがこの男に従ったのは本人の意志だと、相手は主張している。それはわかった。
(それが本当なら悲しい事だけど……)
相手の言葉を疑いながらも、彩華は機体を起き上がらせる。
かろうじて立ったエルナダハは既にボロボロで、モニターに表示されたHPは赤く点灯していた——危険領域にある事の警告である。
それでもエルナダハは刀を構えた。
彩華は空にいる敵機を睨む。
(最期の最後まで、退けない)
前進か死か。
公国を一方的に捨てた瞬間から、彩華の道は後ろにだけは無いのだ。
設定解説
【この男に従ったのは本人の意志~】
仕方のない事だが、この時点でもまだ彩華はリリィとアーロンの関係を勘違いしている。
ここら辺をもうちょっと疑う性格なら、別の立ち回りができた可能性もあっただろう。




