11 ダークサイドブロール 3
登場人物紹介
アーロン:魔王軍の残した実験機Aヘブンベンヌの操縦者。召喚された西洋軍人で元魔王軍。奇怪な細胞に蝕まれた体を治すため蘇生の秘宝を求める。
聖輝:魔王軍の残した実験機Aブルートセルポパルドの操縦者。元は王家に仕える騎士。主人だった姫君を蘇らせるため蘇生の秘宝を求める。
リリィ:魔王軍の残した実験機Aグールアンムトの操縦者。病の後遺症で最近まで動けなかった。体を完全に治癒させるため、蘇生の秘宝を求める。
『そこまでにしませんか? 今は手を組んだ方がいいと思いますよ』
そう通信を送ってきた機体を、アーロンも聖輝も見た事があった。
爬虫類じみた頭部に鬣を持つ実験機——Aグールアンムト。
『お前は! 商隊にいた奴……』
驚くアーロンの声。
聖輝の方は剣呑な目を向け、油断なく身構える。
「俺に倒され、ランに助けられて生き延びた奴が何をしにきた。俺と再戦でもするのか。ならば相手になるぞ。何度やっても俺に勝てると思うな」
だがグールアンムトの操縦者——リリィは、落ち着いて、言い聞かせるように諭した。
『もう一度言いますけど、今は手を組んだ方がいいと思いますよ。ランさんと他の二人はそうしましたから』
目を見開く聖輝。
「馬鹿な。秘宝の欠片を手に入れるために実験機に乗った奴ら同士で仲間になるわけがない」
リリィは商隊で聞いた事を正直に話す。
『みんなナーラー国で偉い人だったそうです。どこかの子爵領に召喚された聖勇士と、ナーラーと同盟国の王様だった人だって。そしてランさんはナーラー国の代理人ですから』
その言葉に嘘は無い。
そう、嘘はついていないのだ。
だが、その言葉に聖輝は黙った。
一方、アーロンは聖輝の機体・Aブルートセルポパルドに疑いの目を向ける。
「お前もナーラー国の……皇騎士とか言ったか。お友達になりに行かんでいいのか?」
『俺はあんな成り上がり女の下にはつかない!』
言われた事の意を察し、聖輝は怒鳴った。
リリィが再び通信を送る。どこか弾んだ声で。
『じゃあ私達同士で、どうでしょう?』
「ふざけるな! なぜ手を組まねばならん!」
怒鳴り続ける聖輝。
しかしリリィはあっさりと。
『あっちの三人を同時に相手にしたら勝てないから、ですね』
『奴らの頭数を減らすまでは共同戦線……というわけか』
『はい!』
アーロンの疑いながらの問いにも、はっきりと、嬉しそうに即答した。
聖輝には納得できない。
「お前はランの下にいるんだろうが!」
確かに以前、この機体はあの女代理人に助けられたのだ。
ならば何故こいつがランを含めたチームを打倒しようなどと持ち掛けるのか。
その理由がわからないまま受け入れられるわけがない。
だがしかし。
『今のままじゃ秘宝は手に入らないんです』
理由はあっさりと答えられた。
「なるほど。だが一緒に戦えると思うのか? ここにいる三人が」
アーロンが気になるのはそこだった。
チームなど組んでも、元魔王軍親衛隊の己はすぐに使い捨てられるのではないか。
その懸念がある。
それに対してのリリィの返事は……
『一緒に戦わなくていいじゃないですか。あっちをバラバラにして、別々に……じゃダメですか?』
「なるほど。あくまで多対一を避けるためだけの協力か。面白い」
それならばアーロンにも納得できた。
それに……
(再生能力と飛行能力を併せ持つ俺が、一番有利に進められそうだ)
願ってもない方向に話が展開している、と思えた。
「それぞれ個別の戦いが終わったら、次は生き残った奴らで続けるという事か」
聖輝はまだ信じられれないのか、未だ疑わしく念を押す。
するとリリィが声の調子を変えた。
『はい! お願いします。いろいろ考えたけど、私一人じゃ勝つ方法が思いつかないんです』
声だけでなくモニターに映像も送る。
聖輝は初めてアンムトの操縦者を見た。
声で女だとわかってはいたが。
戦いとは無縁にしか見えない、自分より歳下であろう少女ではないか。
(蘇生の秘宝……よほどの理由で求めているのだろうな)
思わず同情しそうになったが、聖輝は頭を振ってその考えを消す。
「いいんだな? 俺はランを討ったら、次は君を狙うかもしれないぞ」
『それは……そうですけど。でも……』
リリィは何か言い返そうとしたようだが、次の言葉が出ないようだ。
以前の戦いで聖輝に歯が立たなかった彼女である。
(再戦すれば討ち取られるだけだろうと、彼女も予想はできるのだろう)
そう思うとやはり哀れを催してしまう。
それでも聖輝は努めて冷酷な声を作った。
「まぁいい。そうなったらさっさと降伏して機体を降りろ。俺と戦ったら勝てない事はもう十分わかった筈だ。こちらは秘宝の欠片が手に入ればいい」
(未開人の小娘に有色人種の猿が同情でもしたか。お似合いな事だ……どうせ一時的な同盟に過ぎん。すぐに二人とも始末してやる)
リリィと聖輝のやり取りを見ながら、アーロンは断言した。
『話は決まったようだな』




