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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
4/52

1 天界の神鳥 4

そしてついに、聖なる力を内に持つ魔性の巨人が動き出す。

まずここに一機。

 二日ほど後。アーロン達は人里離れた山中にいた。

 文字通りの山の中……地中をくり抜いて作られた地下基地へ。

 魔王軍が滅びた今は放棄された、空戦大隊の砦の一つ。

 新しい包帯で異形の皮膚を覆い隠したアーロンは、焦りながらベアーテを連れて基地の最奥を目指す。

(ここにある筈だ……そうでなければ、俺は……)



 大隊長の座に空席が生じた事で、その座を狙う幹部達は大隊長を討った勇者達へ挑まんとした。

 首領・暗黒大僧正もそれを認め、支援として彼らの機体を不可思議な秘法で強化した。

 アーロンもまた、大隊長の座を求め機体を強化してもらった者の一人だった。


 だが秘法は諸刃の剣だったようだ。

 首領の死後……強化された機体は紅玉のような粒々に覆い尽くされ、使い物にならなくなった。

 そしてアーロンの皮膚も、毒々しい植物の外皮のような細胞に浸食され始めたのである。回復・治療の魔術を試させもしたが、どれもこれを除去する事はできなかった。



(このままだと、俺はどうなる? 死ぬのか、化け物になるのか)

 己の視界に入れぬため気休めで巻いた包帯の下、謎の細胞は徐々に広がっている。いつかはアーロンを覆い尽くしてしまうだろう。

 その時、彼はどうなるのか?

 何か致命的な状況になる事は、本能的に察する事ができた。

(御免だ! 俺は生きる!)


 そのための希望が、魔王軍壊滅前に聞いた実験計画の中にあった。

 情報通り……最奥の倉庫に、それは放置されていた。

「これは……」

 ベアーテが驚きで呟く。


 誰もいない格納庫に立ち竦む人造巨人。

 琥珀色の鎧を纏い、鳥の頭を持ち、大きな翼を背に畳んだ怪鳥機。



 格納庫の机にマニュアルが置いてあった。その表紙に機体の名前が記されている。

『試験用ケイオス・ウォリアー:Aヘブンベンヌ』


 アーロンは必死にマニュアルを(めく)った。

(これの中に、俺を蘇らせる秘宝がある筈……)


 真の、最強のケイオス・ウォリアーたる黄金級機(ゴールドクラス)には、その動力回路に神々の秘法神蒼玉(ゴッドサファイア)が組み込まれている。

 それは本来、全て集める事で神々の武器を召喚できるという七つの宝玉であり、それゆえ最強のケイオス・ウォリアーは同時に七機までしかこの世に存在できないのだ。


 ならば同等の魔力を有する別の秘宝を使えば、黄金級機(ゴールドクラス)と同等の機体を作成できるのでは?――魔王軍の技術者達に、そう考える者達がいた。

 彼らに案を提出された大隊長の一人が、手持ちで最高級の秘宝を与えて実験機を造らせた……それがこの基地、このAヘブンベンヌなのだ。


 その動力に組み込まれた秘宝が何なのか、アーロンは聞いていた。

 その秘宝こそが彼の目当てであり、どこを分解すれば取り出せるのかをマニュアルで調べた。



 やがて、彼は目当ての情報を得た。だが……

(なんだと!?)

 彼の目が失望と怒りで染まる。



 取り出す事はできる。

 だが秘宝は()()()()()()()()()

 より多くのデータを短期間で取るため、六つの基地で六つの実験機が作成されていたのだ。

 六つの機体から六つの欠片を取り出し、それを組み合わせて一つにしなければ、秘宝を手に入れる事はできない。



(ここには一機だけか)

 格納庫を見渡し、忌々し気に歯軋りするアーロン。

 彼はベアーテを連れて実験機に乗り込んだ。

 動力に火を入れ――そして彼は機体と感覚を一体化させる。


 ケイオス・ウォリアーの操縦は、操縦者が機体と一体化する事で行う。操縦者を巨大な超人と化す事が、ケイオス・ウォリアーの設計思想なのだ。


 そして一体化したアーロンは感じ取った。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 それは六つに別たれた秘宝を持つ機体同士の共鳴なのだろう。

 それらが操縦者を得れば……当然、秘宝を狙ってくるに違いない。


(やむをえん。他の五機ことごとく破壊し、秘宝の欠片を集めるしかない)

 苛立ちながら、アーロンは格納庫のシャッターを開けた。山腹に隠された出入口から外の光が差し込む。


 山間に十機以上のケイオス・ウォリアーが集まっていた。

 剣と弩で武装した仮面の巨大な戦士……どれも青銅級機で、同じエンブレムを肩に刻んでいる。それを見てベアーテが目を輝かせた。

「あれは、我が領の兵達!」


 だからこそ、その目の輝きはすぐに失われる事となる。


 アーロンの乗るAヘブンベンヌが翼を広げる。腰の左右に畳まれていた砲身が伸びた。

 怪鳥機が空に飛び立ち、地上で群がる敵機へ砲身を向ける。

「生きるのは俺だ。貴様らは死ね」

 二つの砲身から眩い光線が放たれた。

 光線の奔流が真っすぐに大地へ突き刺さる。そこに立っていた人造の巨人達は、避ける間もなくそれに飲み込まれ、膨大な熱量の中で分解し、爆発した! ベアーテが悲鳴をあげる。

 一撃で半数近くが吹き飛び、残りの動きには明らかな狼狽と恐怖が露わになた。



 六つに別たれた秘宝。その名はケプリケペラ。

 有するは大いなる蘇生の力。いかな病魔・毒素・呪術でも浄化し、影響下にある者全てに完全な健康をとりもどさせる。死者でさえも複数人、力を使い切るまで生き返らせる事ができるという。

 この秘宝が、アーロンの最後の希望だった。



 すぐに、山間部は焦土となった。動く物は何一つ無い。ただ無残に焼け焦げた人造巨人の残骸が煙を燻らせるのみ。

 戦いとは到底呼べない。ただ一方的に焼き払っただけだ。

 この実験機の性能が、量産型の青銅級機(ブロンズクラス)どころか一品物の白銀級機(シルバークラス)さえ大きく凌駕する事を、アーロンは実感していた。

 その機体を着地させ、アーロンは座席の後ろで呆然としているベアーテへ話しかける。

「結局、お前など要らんかったな」


 女騎士が高官にあると見て、追手への人質として盾として連れまわしていたアーロン。

 だがこの実験機を手に入れ、その性能が現行機の部隊さえ遠く及ばない事がわかった今。もうこの女に用は無かった。



 ハッチが開き、ベアーテが放り出される。

 十メートル近い高さから、彼女は無慈悲に地面へ叩きつけられた。

 動かなくなった彼女に、もう欠片も興味を持たず、アーロンは大空へ機体を羽ばたかせる。他の五機を倒し、秘宝の欠片全てを手に入れるために。


 秘宝を奪い合う者、一人目――元魔王軍親衛隊・アーロン。

設定解説

【Bソードアーミー】

巨人型のケイオス・ウォリアー。全身を鎧で覆い、剣と弩で武装した戦士の姿をしている。

この世界で最も普及している機体。全てにおいて可もなく不可もない性能が特徴。

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