10 集う決闘者 1
秘宝の欠片を求める者達が邂逅する。
各人の想いを秘めて。そして戦いは続く。最後の一人になるまで。
旧ナーラー領、今は独立した領主の治める宿場町。
そこにある大きな宿屋の前で、年老いた行商人が満面の笑みを浮かべていた。
「助かったよ。しかし腕が立つなぁ、君は」
「いえ、それほどでも」
そう答えたのは、着物姿に刀を差した少女。
アパーム公国の聖勇士、彩華だ。
行商人の後ろには大きな運搬用の改造生物——巨大な甲虫やトカゲ等——が何機かあり、その周りでは他の行商人達が作業をしている。
そこそこ大きなキャラバンであり、老商人はそのまとめ役だった。
戦後の混乱したこの世界で商隊を組んで旅するなら護衛は必須だ。彩華はその一人として雇われていたのである。
そしてこの町に来る途中、大型の魔物の群れが襲い掛かってきたのを、ほぼ一機で蹴散らしてしまったのだ。
他にも護衛はいたのだが、彼らの出番はほとんど無かった。
彩華の機体・Aアビスエルナダハを眺めて老商人が目を細める。
「機体の性能もいい。見慣れないが、どこかの白銀級機かい?」
「……未完成の実験機なんです」
彩華は言葉を濁した。
だが老商人は感心したようだ。
「これでかい! 完成してりゃ魔王軍もイチコロだったかもねぇ」
その魔王軍が開発していた機体だという事実は、この場ではどうでもいい事だ。
老商人は報酬の金袋を彩華に渡す。
「ありがとうさん。一月後には次の町へ向かうんだが、その時もどうだい?」
「ありがとうございます。けれどすぐに次の仕事を探しますから」
「大変だねぇ」
老商人は残念そうだった。専属として雇う事まで考えていたのだろう。
そんな彼に申し訳なさそうに、しかし彩華は切り出す。
「もしよろしければ、この機体——Aアビスエルナダハに乗っている者がいる事を、ぜひ同業者の方にも広めてください」
「宣伝かい。よし、了解だ」
老商人は快く了解してくれた。
彩華は行商人の護衛を何件もこなしつつ、町から町へ渡りながら、あえて自分の情報を流していた。
他の五機に……その操縦者に見つけてもらうために。
——別の行商隊に入り、数日——
運搬用の貨物機、改造巨大ムカデの背に乗せられた自機の中で、彩華はゆっくり流れる景色を眺めていた。
(次の町では出会えるかしら)
まだ見ぬ宿命の敵達に思いを馳せていると……ムカデが止まった。荒野の真ん中だが、休憩の時間なのだろう。
しかし商人の一人が何やら慌ててやってきた。
「イロハさん、あんたに会いたいという人がいるんだが……その、ナーラーのお偉いさんなんだけど」
(……誰?)
商人の後から貨物機に乗り込んで来たのは、初めて見る女戦士と小柄な少女だった。女戦士はにっこり笑って自己紹介する。
「初めまして。ナーラー国のエージェントをやってるせいであちこち飛び回ってるランという女よ。名前ぐらいは聞いた事があるかもしれないけど」
驚く彩華。魔王軍との最終決戦にも参加した、現ナーラーが誇る最強の勇者がこの女聖勇士である。
「今、琥珀色の実験機をちょっと調べていてね。貴女の乗っているコレよ」
そう言ってエルナダハを見上げるラン。
彩華は内心「しまった!」と思う。
(ナーラー国が目をつけているなんて。魔王軍の残した新型となれば、その可能性はあって当然だった)
黙っている彩華へ、ランは覗うような視線を向けた。
「どんな物なのか詳しく調べたいし、場合によっては破壊させてもらうかもしれない。その場合はできるだけ貴女の意に沿う形で買い取るわ」
「お断りします」
即答。
彩華の返事に、ランは苦笑いする。
「リリィみたいに納得してくれる人ばかりじゃないか……」
彩華は驚いてランの後ろにいる少女を見る。
(この人、実験機の操縦者なの? 機体を手放す事を了解したというの? 彼女は秘宝が要らないのかしら……)
視線が合うと、リリィは軽くおじぎをした。
つられて彩華も頭を下げる……と、外からの叫び声が聞こえた。
「野盗が出たぞぉー!」
彩華は急ぎ機体へ戻る。ランは溜息一つ、貨物機から飛び出した。
土煙をあげて迫る十機以上のケイオス・ウォリアー……巨人戦士や長い爪の蜥蜴人等、汎用型の青銅級機達。
どの機体にも壊滅した筈の魔王軍の紋章が描かれていた。魔王軍壊滅から一年が過ぎても、野盗化した残党はまだまだ残っている——どうせ下級の魔物どもにとって、やる事はほぼ変わらない。
彩華はエルナダハに乗って出撃した。抜刀して隊商を守る構えを見せる。するとその横に真紅の機体——Sルビーフェニックスが降り立った。
『先にあいつらを追っ払いましょうか』
通信機から届く声はランの物だ。
彩華は「はい!」と答え、二人の二機は野盗どもへ向かっていった。
技量と性能の差は明らかだった。彩華の魚人機とランの鳥人機が刃を振る毎に、野盗の機体が一機、斬り捨てられて大地に転がった。
圧倒的な強さを前に、野盗どもの半数は怖気づいて後退しようとする。
だが最後尾にいた機体が、雷を受けて爆発した!
野盗も彩華もランも、驚いて雷が飛んで来た方を見る。
そこに立つのは、琥珀色の鎧を纏った|、フードとマントを装備したケイオス・ウォリアー!
『貴女自身を撒き餌にした釣果ね。私達が釣られたんなら、他に同じような人もいるか』
彩華の耳に、通信機ごしにランの声が届いた……。




