9 野獣と女達 4
登場人物紹介
聖輝:魔王軍の残した実験機Aブルートセルポパルドの操縦者。元は王家に仕える騎士。主人だった姫君を蘇らせるため蘇生の秘宝を求める。
リリィ:魔王軍の残した実験機Aグールアンムトの操縦者。病の後遺症で最近まで動けなかった。体を完全に治癒させるため、蘇生の秘宝を求める。
ラン:ナーラー国最強のエージェント。実験機の調査に動く。乗機はSルビーフェニックス。
Sルビーフェニックス最大の剣を受け、Aブルートセルポパルドは倒れた。山肌にもたれ掛かるようにして天を仰ぐ。
『こ、の、実験機を……白銀級機で?』
呆然と呟くセイキ。
ランが「ふふん」と笑った。
「お生憎様。私は不死鳥獣人でね。その私の持つ神通力……まぁ一種のチートスキルが機体に上乗せされるのよ。ルビーフェニックスは並の白銀級機じゃないわ」
言いながら額に流れて止まらない冷や汗を拭う。
言葉ほどの余裕は無い――どころか、ギリギリでなんとか掴んだ勝利だ。
『くっ……くそぉ!』
セイキが叫ぶと、セルポパルドはまたも動いた!
(まだやれるの!?)
ぎょっとしたランが慌てて乗機を身構えさせる。
だがセルポパルドは膝をついた。
動けないわけではない。だが戦闘など不可能だ。
ふう、と一息ついてから、ランは改めて通信を送る。
「魔王軍の残したその実験機は渡してもらうわよ。どんな物か調べなくちゃ。そして皇騎士だというなら、あんたもディーヴお爺ちゃんの所に来てもらわないとね」
天王をお爺ちゃん呼ばわりしながら、ランはセルポパルドへ近づく。
その脇をすり抜けるように触手が伸びた。
槍のごとく繰り出された触手の先端がセルポパルドの操縦席に、そのハッチに突き刺さる!
『うおぉ!?』
驚愕するセイキの声。それに構わず、触手はハッチを破ろうとこじ開けにかかっていた。
咄嗟にランはフェニックスの剣を揮う。一刀で切り落とされる触手の束。
そして背後へ振り向き叫んだ。
「何をするの、リリィ!?」
触手はAグールアンムトの鬣から伸びていたのだ。
『今のうちに、秘宝の欠片を抜きださないと……』
「今、操縦席を狙ってたわよね? そんな所に有るの!?」
リリィの返答に仰天するラン。
もちろんそんなわけが無い。
『ううん、違うわ。先に操縦者を始末しようと思っただけ』
当然のように返すリリィに、ランはまたも驚くしかなかった。
「だけって、貴女ね……」
二人がそうやりとりしている、その時。
セルポパルドが動いた。
半ば転がるかのように横へ跳び、崖の下へダイブしたのだ!
「えっ!?」
慌てて崖下を覗くラン。
セルポパルドは岸壁を蹴って駆け下り、その姿は谷底へ消えた。
ふう、と溜息をついてから、ランはリリィへ通信を送る。
「逃げられたか。確かに私は甘かったわね。でもそんな簡単に殺そうとしちゃダメよ」
『国に仕えている人同士だから、そうやって手加減してあげるの?』
疑いの言葉を返され、ランはちょっと困って頭を掻いた。
「そう見える? 正直、こっちに襲い掛かってきた奴に仲間意識なんて無いわ。ただ、彼にも事情はあったみたいだからね……」
それを聞き、リリィはしばし沈黙したが――
『わかったわ。助けてもらったんだし、今はランさんの言う事を聞きます』
ほっと安心、にっこり微笑むラン。
「ありがと。さて、ここからどうしようかしら」
『琥珀色の機体がいると聞いて、この先へ向かっているんですけど……』
そう言われ、ランもまた自分が得ていた情報を思い出した。
「あ、それなら私の知っている情報と同じかもね。じゃあ一緒に行きましょうか」
ほんの少し迷ったのか、またも沈黙。
しかしすぐに返答が入った。
『うん。お願いします』
「こちらこそよろしく」
こうして二人は一緒に向かう事にした。
琥珀色の機体で仕事をしている者がいる、次の町へと。
ただ、思惑には少しズレがあった。
ランはリリィが自分の提案――体を治療する術師を手配するので、機体をナーラー国へ渡す――を承諾したと思っていた。
しかし、リリィは……
(一個逃がしたけど、そのぶんは手伝ってくれそうね……)
まだ秘宝【ケプリケペラ】を手に入れるつもりでいたのだ。
設定解説
【Aブルートセルポパルド】
猛獣型のケイオス・ウォリアー。Aは「琥珀」を現す記号。
パワーとスピードの両方に優れ、近接戦闘を得意とする。
左手の巨大な爪と頭部の牙は高硬度の鋭利な刃で、折れた時のため内部に予備をストックでき、戦闘中に数回の補充が可能。
右腕はヘビの頭を模した手甲と伸縮自在な前腕部を持ち、これを伸ばして中距離対応の武器として使う。敵を縛り動きを止める他、そのパワーで締め潰す事も得意としている。
ヘビの頭からは溶解液を噴き出す事もでき、これが射撃武器となっている。弾速には難があるものの、散布するので回避する事は難しい。
近距離で攻勢に回れば無類の強さを発揮するが、防御を補助する能力は無い。運動性は高いので、操縦者の腕次第で高い回避力を実現させて身を守る事はできる。




