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9 野獣と女達 2

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

聖輝せいき:魔王軍の残した実験機Aブルートセルポパルドの操縦者。元は王家に仕える騎士。主人だった姫君を蘇らせるため蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

リリィ:魔王軍の残した実験機Aグールアンムトの操縦者。病の後遺症で最近まで動けなかった。体を完全に治癒させるため、蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

ラン:ナーラー国最強のエージェント。実験機の調査に動く。乗機はSルビーフェニックス。

 リリィのAグールアンムトと、ランのSルビーフェニックス。

 二機のレーダーは山の斜面を高速で駆け下りる機影に反応した。

 二人が斜面を見上げた時、その機体は既に跳躍して二機の頭上にあった。


 日光を背に受けて跳び下りる猛獣機。

 琥珀色の鎧、豹の頭部、左手の巨大な爪、そして右腕は蛇の頭。

 Aブルートセルポパルドが、二人が話している間に山上から忍び寄っていたのだ!


 まさに野獣の敏捷性、リリィは反応できずに立ち竦む事しかできない。

 セルポパルドの巨大な爪がアンムトを引き裂いた!

 装甲が容易く断たれ、モニターに映るHPゲージが一気に減る。

 大きな衝撃に悲鳴をあげるリリィ。

 打ちのめされたアンムトはよろけ、バランスを失い、道を踏み外して崖下へ落ちて行った――。



「リリィ!」

 叫びながらもランは機体を咄嗟に飛ばせた。ここらの反応速度差は、ケイオス・ウォリアー操縦の技量差でもある。

 だがセルポパルドに乗るセイキとて、皇騎士団で一、二を争う腕前だったのだ。

 猛獣機は右腕の蛇頭をフェニックスへ伸ばした。

 飛び道具かのごとき速度で蛇頭が伸び、敵機の足へ噛みつく。


 飛び立つのを妨害されたフェニックスは素早く腕の機構を展開し、弓で敵を射ようとした。

 だが凄まじいパワーで振り回され、山肌に叩きつけられる!

 操縦席で歯を食いしばるラン。

(こいつは……明確に、敵ってわけね。このパワー、このスピード、この狂暴性。明らかに戦闘慣れしている動き。ここらで発生していた行方不明事件もコイツの仕業なの!?)

 ランは見た。モニターに表示される甚大なダメージ値を。



(こんな所までしゃしゃり出てくる、目障りな勇者気取りめ! ナーラー国ででかいツラをしたのが運の尽き……俺が引導を渡してやる!)

 憎悪とともに力を籠めるセイキ。セルポパルドがその剣呑な爪をフェニックスへ向ける。

 だがそれを突き立てる前に、セイキはレーダーが敵を捉えたのを知った。

(後ろだと!?)

 振り向いたセイキは驚愕する。

 山間の山道にて己の後ろに回り込んでいたのはグールアンムト……ついさっき自分が崖下へ落とした筈の機体!

 そのボディには深く爪痕が刻まれている。確かに先刻の一撃はアンムトを捉えたのだ。ならば崖下に落としたのも間違いない筈。

 後でトドメを刺しに行こうと考えていたセイキは、思惑が狂った事で一瞬動揺した。


 アンムトの鬣から無数の触手が飛び出る。それは環形動物のようにうねりながらセルポパルドを捕らえ、絡みついた。

(しまった!)

 セイキが舌打ちした時には既に機体の全身が締め上げられている。運動性の高さを誇るセルポパルドにとって、これは極めて不利だ。

 案の定、アンムトは大きな顎を開いて噛みつこうと迫って来た。


 だがセイキは唯一自由になる部位で反撃する。フェニックスを捕らえていた蛇の頭だ。長く伸びて離れていたので、そこまでは縛られていなかった。

 伸びた腕がしなり、フェニックスを振り回した。それをモーニングスターの鉄球よろしく、アンムトへぶつける!

『きゃあぁ!?』『うぐ、ぐっ!』

 リリィの悲鳴とランの呻きが通信機から漏れ、衝撃でフェニックスに噛みついていた蛇の牙が外れた。アンムトはフェニックスと固まって転がるが、触手で縛られていたセルポパルドもそれらに引きずられるようにして倒れた。


(ええい、疎ましい!)

 苛立ちながらセイキは蛇の口から溶解液を放つ。

 アンムトの装甲を、そして触手を薬液が焼いた。ボディはともかく、細い触手は次々と溶けて千切れる。

 セルポパルドは跳ね起きた。爪を振りかざして敵機へと跳ぶ。凶悪な爪が再びアンムトを切り裂いた!

『あ、ああぁっ!』

「面倒をかけてくれたな、雑魚が!」

 敵機からの悲鳴にさえ苛立ち、怒鳴るセイキ。溶解液で焼け付いた敵の頭部へ、トドメの一撃を振り下ろした。


 その爪は寸での所で、差し込まれた剣によって止められたが。



『なにィ!?』

 セイキがあげる驚愕の声に、ランは操縦席で不敵に笑う。

「一応訊いておくけど、私がナーラー国のエージェントだとわかった上でケンカ売ってるのよね? ごめんなさいするなら言い訳ぐらいは聞いてあげるけど?」

『舐めるなァ!』

 セイキが怒鳴り、セルポパルドは爪を振り回した。そのスピードとパワーはまさに烈火のごとし、量産機ごときなら一撃で両断される斬撃が次々と繰り出される。


 だがフェニックスは、それをことごとく剣で弾き返したのだ。


『おのれ! 勇者気取りが! 王族が襲われた時にいなかったクセに、肝心な時にいなかったクセに! 今になってのさばる奴が英雄なわけないだろう! 消えて失せろォ!』

 ずっと抱いていた不満をセイキが爆発させ、乗機の爪に増々力が籠る。

 そのパワーに圧されながらも、ランは驚いて訊かざるを得なかった。

「あんた、王族の関係者なの!?」


 そんな言葉に構わず、猛獣機セルポパルドの蛇の牙が斬撃の嵐を縫ってフェニックスへ襲い掛かる!

 その牙は的確に操縦席を狙っていた。


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