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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
3/52

1 天界の神鳥 3

時は再び「今」を……魔王軍が滅んでから約半年後を舞台に。

 追手の騎士達を(たお)したアーロンは、森を抜けて田舎の村を通りがかった。

 その後ろには項垂れた少女を一人連れている。

 女騎士ベアーテだ——が、武器も鎧も取り上げられ、厚い生地の上衣(チュニック)とズボンという恰好。軽装の旅人にしか見えまい。

 彼女の瞳は虚ろで、抵抗の意志などとうに失くしており、黙ってアーロンの後をついて歩いていた。


 村人達は好奇の目は向けるものの、警戒する様子は無い。

 すれ違いながら、アーロンは心中で彼らを見下していた。

(ここに俺を知る奴はいないようだな。まぁ気づかぬ方が幸運というもの……)


 握り飯——現地語で何と呼ぶのかは知らないが——を売っている屋台があったので、そこで二つほど買う事にした。

「まいど! オマケしといたよ」

 くたびれた老店主は三つ包んでくれた。その目はアーロンが巻いている包帯と後ろの少女をちらちらと見ている。

 負傷した兵とその同行者へ親切心を起こしたか。

 アーロンは黙って銭を払った。その銭は……先日(たお)した騎士達から奪った物だった。


(馬鹿な原住民どものおかげで多少は懐も温まった。目的地も目の前……)

 欠片ほども感謝せず、握り飯を頬張りながら歩くアーロン。

 大きな足音と振動を感じて横を見れば、一機のケイオス・ウォリアーが土木作業に使われていた。



 ケイオス・()()()()()という名の通り、この世界の人造巨人は兵器として産まれた物だ。この世界の国家は多かれ少なかれケイオス・ウォリアーを配備しているし、名のある冒険者パーティなら青銅級機(ブロンズクラス)の一機は持っているものだ。

 そして土木や建築にも、武装の無い作業用機が使われるようになっている。



 資材を運んでいる作業用のケイオス・ウォリアーを横目に、アーロンは内心考えていた。

(一つ貰っていくか?)


 ケイオス・ウォリアーを操縦するには適正が必要だ。その適正が有るか無いか、凡そ五分五分である。

 だが、異界より召喚された聖勇士(パラディン)ならば、その適正を確実に持っている。持っている者を召喚するよう、魔法の術式が組まれているために。


 その力とは……【異界流(ケイオス)】。この世界の住人がそう呼ぶそれは、次元の力の切れ端。


 世界に存在する者達は、存在するというだけで物理的・霊的にエネルギーを持つ。この世界の住人もそれを持ってはいるのだが、異世界から召喚された者には、この世界に存在する事で持つエネルギーに、元の世界から持ち込んだエネルギーを加えた者――いわば二重のエネルギーを持つ者がいる。

 二重にエネルギーを持つという事はそれだけ高い能力を発揮するという事でもある。

 それこそが「聖勇士(パラディン)」と呼ばれる、召喚された者達が異様な強さをもつ理由であった。


 そしてこの世界の巨大ロボット……ケイオス・ウォリアーは、操縦者の異界流(ケイオス)により、その強さを増幅させる特性を持っている。


 アーロンにも、この世界の住人の数倍に及ぶ異界流(ケイオス)のパワーが備わっていた。よって彼ならば土木作業用の機体でも、この世界の雑兵が乗る青銅級機(ブロンズクラス)を超えるパワーが出せる筈なのだ。



 しかしアーロンが何かするよりも早く、村の外で(とき)の声があがった。

 そして村人の悲鳴!

「魔王軍の残党だ!」


 ダークエルフの率いるゴブリンとオークの群れが、得物を手に村へ押し入ってきた!

 村人は悲鳴をあげて逃げ惑い、自警団が武器を手に必死で応戦を始める。

 魔王軍が滅びたとはいえ、まだまだその残党は多く、こうして無法を働く事も多かった。


「逃げろ、お二人さん!」

 屋台の店主がそう声をかけ、本人も金袋を握って物陰へと走る。

「ヒャッハー!」

 品の無い声と共に、自警団を突破した魔物どもがアーロンの周りにもやってきた。


「おおっと、女がいたぜぇ!」

 ゴブリンの一匹がショートソードを手に野卑な笑みを浮かべて叫ぶ。

 身を縮めて「ひっ!」と怯えるベアーテ。

 アーロンはゴブリンに訊いてみた。

「マスタールテナント……という名を知らんか?」

「知るか!」

 吐き捨てるように言う別のゴブリン。こいつらがアーロンの顔とコードネームを知っていれば面倒事も避けられただろうが、その望みは潰えた。

(ならば仕方ない)

 面倒臭さに、アーロンは胸中で溜息をつく。



——数分後。村の中のすぐ近く——



 残党リーダーのダークエルフは、部下達の絶叫を聞いた。

(この程度の村に何がいるというのだ?)

 怪訝に思いながら自警団どもを蹴散らし、残りの部下を連れて声のした方へ向かう。みすぼらしい民家の角を曲がった所で、その現場に出くわした。


 剣を手にした包帯の軍人と、すぐ後ろでへたり込んで震える女。

 その周囲で(たお)れて動かない部下達。

 軍人がこちらに鋭い目を向ける。


 ゾッと背筋に悪寒を感じ、ダークエルフは咄嗟に呪文を唱えた。

「【光熱の領域、第三の段位。炎は塊り球となる。球の炸裂は敵を焼き払う】――ファイアーボール!」

 火の玉が生まれ、軍人へと飛ぶ。それは狙い過たず相手を捕らえ、爆発した!


 だが炎の中から軍人が出てくる。

 包帯が燃え落ちていた。

 その下の肌が露出している。

 ケガなどどこにも無い。

 白い肌を覆うのは……毒々しい苔のような物に覆われた、植物の外皮のような皮膚!

 毒草がごとき肌を露わにしたアーロンが、憎悪に満ちた視線を炎の中からダークエルフに向けた。



 数刻後。

 アーロンは土木作業用のケイオス・ウォリアーに乗り、村を離れた。

 村は()()()()()。もう誰もいない。

 襲撃者も、村人も。生きている者はもう誰も。

 操縦席の後ろで、ベアーテは一人、薄っすら涙を浮かべて歯を噛みしめていた。

設定解説

異界流ケイオス

この世界で生物が発揮する精神・生命の融合した内的パワー。

その源は次元の力の切れ端。


世界に存在する者達は、存在するというだけで物理的・霊的にエネルギーを持つ。

だが異世界から召喚された者には、この世界に存在する事で持つエネルギーに、元の世界から持ち込んだエネルギーを加えて有する者——いわば二重にエネルギーを持つ者がいる。

当然エネルギー総量は格段に上がり、結果、それだけ高い能力を発揮するという事になる。元の世界ではうだつの上がらない凡人だった者が、短期間の修業で剣の達人や高位の魔術師となれるのだ。

そういった者達が【聖勇士パラディン】と呼ばれて重宝されてきた。

それもあってこの時代の召喚魔法は【異界流ケイオス】をある程度以上もつ者を条件に召喚するよう設定されている。

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