7 不死鳥来訪 3
登場人物紹介
ゼナ:魔王軍の残した実験機Aカルネージアポピスの操縦者。滅ぼされた侯爵家の元令嬢。実家を復興するため蘇生の秘宝を求める。
ラン:ナーラー国最強のエージェント。実験機の調査に動く。乗機はSルビーフェニックス。
ランはあえて陽気な声をあげた。
「あらあらまぁまぁ、落ち着いて。高貴な貴族家の淑女なんでしょ? 案外、貴女に相応しい高貴な貴族家の男子様が、他の機体に乗って同じ理由で旅してるかもしれないじゃない。それとわかりあえるとしたら、高貴高潔で純情可憐な貴女しかいないと思うわ。ね? ね?」
『高貴で、高潔純情可憐……』
ゼナの声が勢いを無くし、トーンダウンする。
それを戸惑いだと受け取り、ランは茶目っ気を交えてこの方向で押し続ける事にした。
「そうそう。きっと貴女はそんな素敵なレディよね? 安い女とは違う雰囲気が……」
突如。
モニターに映っていた少女の目が見開かれた。
そこにギラギラと燃える、明らかな殺意!
『死ねぇッ!』
「ええっ!?」
驚愕するランの前で、ゼナの機体……Aカルネージアポピスが牙を剥いて咆哮する!
大きく開かれた顎が噛みついて来るのを、Sルビーフェニックスは間一髪で宙に逃れて回避した。
操縦席で冷や汗を流すラン。
(恋愛関係? ナニかトラウマでもあった? どこがマズったのかわかんないんだけど!)
ゼナが話した経緯の中に、彼女がどんな仕事をしてきたか……そこは意図的に省かれていた。
だから発言の何が逆鱗に触れたのか、ランにわかるわけもない。
カルネージアポピスが後頭部の尾を振り回した。
それは凶悪な鞭となり、大気を切り裂きいて敵機を襲う!
ルビーフェニックスは地を蹴って天へと飛んだ。その加速と衝撃で森の木々が大きく揺れる。
鞭は危うい所で当たらず、宙を叩いた。
その衝撃で揺れていた木々が折れ、砕け、薙ぎ倒された!
鞭が当たったわけでない。だが人間が振るってさえ先端が音速を超え、衝撃波を生み出しうる武器である。アポピスの尾は余波だけで大木を容易に破壊できる威力を有していた。
(パワーはあっちが上かしらね!)
操縦席で苦い顔をするラン。
フェニックスは翼を広げた。右腕から半月状のパーツが上下に展開して弓となる。それが紅く輝き、放たれるのは矢のごとき深紅の閃光。
その光線は狙い過たずアポピスに突き刺さった!
放った光線は量産機ごときなら一撃で貫通・破壊する威力を持っている。
実際、アポピスの装甲は穿たれ穴が開いた。
しかし……それに全く構う事なく、口を大きく開くと、黄昏色の息を吐いた!
ギリギリだった。
もしランに優勢を過信する奢りが僅かでもあれば、まともに食らっていたに違いない。
翼で宙を叩いて急発進し、かつ身を捻って避ける。
そこまでしても息は装甲を掠め、左半身が炙られた。
衝撃とともに、モニターが受けるダメージを表示する。数値が目まぐるしく変わり、HPの残量が大きく減った。
(かしらね、じゃなかった! パワーはあっちが数段上だわ)
ランが再び苦い顔を見せる。
ルビーフェニックスは勇者パーティに力を貸していた技師達が別れ際に造ってくれた高性能機で、これ以上の機体は今のナーラー国には無い。大陸全土で見ても十指にはほぼ確実に入るだろう。
白銀級機としては最高位、人間の技術だけで造れる機体としてはこの時代のほぼ限界である。
魔王軍の残した実験機は、それを凌駕する力を秘めていた……!
しかし、ランは不敵に微笑んだ。
「大した物ね。でもお生憎様」
ランはアポピスに通信を送った。自分の顔も表示させる。
「私は不死鳥獣人。この力で機体に自己修復能力を与える事ができるの」
その言葉とともに、ランの髪にある羽が輝き、ルビーフェニックスがその破損を修復していく。
モニターに表示されるHPもみるみる回復していった。同じステータスが相手のモニターにも表示されている筈だ。
これがランの強さを支える二大能力の一つ。
もう一つは……
「そして私を攻撃した物は滅びる。敵へ【死】を送り返す力が私にはある! 機能的に言えば、オートカウンターの即死攻撃……とでも言うべきかしらね」
ランが声高に宣言するや、アポピスが燃えるような光に包まれ、爆発した!
生死を司る不死鳥は死なず、それを害する者が死す。
神獣の獣人であるランは、本人自身が絶大な魔力を秘めているのだ。
だがしかし。
ランは見た。
爆発が起こした煙から、のし歩いて姿を現すカルネージアポピスを……!
設定解説
【神獣の獣人であるランは、本人自身が絶大な魔力を秘めているのだ】
この世界に神獣の獣人などいない。ランはフェニックスの力を宿す人種がいる世界から召喚された、稀有な存在なのだ。
故郷の世界でも希少な存在で、それについていろいろあったが、今作とは無関係なので割愛。
再生能力も死を送り返す能力もラン本人の身に宿るもの。
最高峰の神獣の能力を生来もっているので、身体能力・魔力・霊力・抵抗力全て人間の域を超えている。
もしこの世界に巨大ロボットがなくても、現在と同等以上の地位は得ていただろう。




