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7 不死鳥来訪 2

登場人物紹介

挿絵(By みてみん)

ゼナ:魔王軍の残した実験機Aカルネージアポピスの操縦者。滅ぼされた侯爵家の元令嬢。実家を復興するため蘇生の秘宝を求める。

挿絵(By みてみん)

ラン:ナーラー国最強のエージェント。実験機の調査に動く。乗機はSルビーフェニックス。

 Sルビーフェニックスは街道から少し森に入った所に着地した。

「誰かいるんでしょう? 私に用があるんじゃないの?」

 通信機で外へ呼びかけると――


『現ナーラー天王第一の側近・ランね?』

 木陰からの通信。若い女の声だ。

「ええ、そうよ。貴女は?」

 肯定と誰何(すいか)に、相手も答える。

『ジダン侯爵家の長女、ゼナイド』

 少女の機体が姿を見せた。


 蛇の頭、後頭部には長い尾。

 纏う鎧は——

(琥珀色の鎧! 正体不明機……)

 僅かに動揺するランに、ゼナと名乗った少女から再び通信が入る。


『我が侯爵家は王家とも縁深き血脈。それを蘇らせるため、王の側近である貴女の協力をとりつけたいわ』

「ええ、いいわよ」

 ゼナからの要求を了解するラン。

 一瞬の沈黙……ゼナの声に疑いの響きが混じる。

『……ずいぶん、あっさりと了解したわね』

 一方、ランはくすりと小さく笑う。

「もちろん、味方になった私に事情は聞かせてくれるわね?」


 ゼナの声に次に混じったのは、警戒だ。

『聞いておいて裏切ったりはしないわよね?』

「あら? 天王の代理人(エージェント)が貴女の敵になるような話なのかしら?」

『……』

 沈黙したゼナへ、ランはさらに告げる。

「迷ってるならはっきり宣言するわ。貴女の話を聞いた後、現天王の利になるよう私は動く。貴女の味方かどうか、それでわかるんじゃなくて?」


 相手の出方を見るランの前で、モニターがゼナの姿を映した。

 気の強そうな美しい少女である――着ているドレスは派手目ながら少々安っぽいが。

『私は、ジダン侯爵家を蘇らせるわ』

 そう言って彼女は語りだした。


 ジダン侯爵家が滅んだ事、魔王軍の残した砦でこの機体を見つけた事、そして機体に選ばれた事。

 この機体が黄金級機(ゴールドクラス)に匹敵する事を目指し、蘇生の秘宝【ケプリケペラ】の欠片を心臓部にもつ実験機である事。

 六つの兄弟機の一つである事を。


 ゼナの話を聞き終え、ランは「ふむふむ」と考える。

「いかなる者をも蘇らせる秘宝ね。貴女が悪巧みしているわけじゃない事はわかったわ」

『ならば協力するわね?』

 ゼナの声には苛立ちが混じっていた。

 空気が張り詰めるのを感じながらも、ランは誤魔化さず疑問を口にする。

「でもさ……他の五機ももう動いているのよね? つまり、誰か乗っていると。それが魔王軍の残党やそれと同じような悪党なら、そりゃ退治するわけだけど」

 戦いになる危険を覚悟で、避けては通れない事を訊いた。

「貴女みたいに、ちゃんとした理由がある人だったら……どうすればいいのかしらね?」


 するとゼナは……ランに訊き返す。

『ジダン侯爵家は王家の親戚筋よ。貴女は天王に仕えているんじゃないの?』

 主人の親戚になら手を貸す筈、という算段がゼナにはあったし、だからこそ協力を要請しているのだ。

 そんなゼナに、苦笑交じりに答えるラン。

「ええ、あのお爺ちゃんを一人にはしておけないもの。まぁ介護みたいなもんかしら」

 まるで実家の爺さんの事かのように話す。

 旧ナーラーが崩壊する前は大陸で三指に入る権力者であり、生き神同然だった王の事を。


『……!』

 それはゼナにとって予想外で、しばらく口籠った。

 彼女が考えていたような上下関係ではなく、ほぼ対等の付き合いかもしれないと察したのだ。

 それはこの国の貴族社会で生まれ育ったゼナにとって、信じ難い事だが。


 しかしそれでも。

 ゼナは改めて訴える。

『ジダン侯爵家が蘇れば、その天王のナーラー国に大きな領土が戻ってくるわ。余所者の貴女にはそれが有益だってわからない? ジダン侯爵家の復活ほど価値のある理由なんて、あるわけがない!』

 ランに向けて言いながら、最後は感情を抑えられずに怒鳴っていた。


 明らかに、ゼナは交渉が上手い人間では無い。


 そう感じながら、ランはなんとか彼女に考えてもらおうとした。

「貴女にとってはそうでしょうから、それは否定しないわ。その上でなんだけど……」


 だがゼナに「その上で」他の道など無いのだ。


『そう。他の奴らと天秤にかけると言うのね』

 声に明らかな敵意が籠る。

(こりゃ、理屈をこねるのは逆効果ね)

 そう察し、ランはあえて陽気な声をあげた。

「あらあらまぁまぁ、落ち着いて。高貴な貴族家の淑女なんでしょ? 案外、貴女に相応しい高貴な貴族家の男子様が、他の機体に乗って同じ理由で旅してるかもしれないじゃない。それとわかりあえるとしたら、高貴高潔で純情可憐な貴女しかいないと思うわ。ね? ね?」


『高貴で、高潔純情可憐……』

 ゼナの声が勢いを無くし、トーンダウンする。

 それを戸惑いだと受け取り、ランは茶目っ気を交えてこの方向で押し続ける事にした。

「そうそう。きっと貴女はそんな素敵なレディよね? 安い女とは違う雰囲気が……」


 突如。

 モニターに映っていた少女の目が見開かれた。

 そこにギラギラと燃える、明らかな殺意!

『死ねぇッ!』

設定解説


【王の側近である貴女の協力をとりつけたいわ】


 魔王軍との最終決戦に参加した勇者の一人であり、目立つ機体であちこち飛び回っているラン。

 よほど辺鄙な田舎でもない限り、旧ナーラー圏の飯屋か酒場で聞けば、彼女が再即位した天王の片腕である事ぐらいは教えてもらえる。

 他の実験機を探しているうちにランの存在を知り、ゼナは接触を試みたのだ。

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