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7 不死鳥来訪 1

秘宝を内に持つ六機の人造巨人が全て動き出した。

操縦者達が、誰一人降りる事のできない戦いの舞台へ上がる。

その命を代償に——。

(6人の操縦者と6体の実験機)

挿絵(By みてみん)

——ナーラー国・街道沿いにある街——



 その日、領主の館に客人があった。

 その人物を通し、太った領主は汗をかいてはハンカチでそれを拭う。

「琥珀色の正体不明機ですか。私自身は聞いておりませんが……」

「そう。なら仕方ないわね」

 客人は軽く肩を竦めた。さほどがっかりした様子ではない——大して期待していなかったのだろう。


 長い赤毛に孔雀の尾のごとき羽の混ざった、鎧で武装した強気な目つきの女性だ。

 領主は明らかにこの女に畏敬を抱いていた。


 この女、名前をランという。

 もしその怒りに触れれば、この領主など街ごと焼き払われてしまうだろう。

 この女は現ナーラー国朝廷の代理人(エージェント)であり、天王が血縁でもないのに「娘」と呼ぶほど重宝している、いわば右腕というべき存在。全幅の信頼を寄せられており、女を敵に回す事は今のナーラー国そのものを敵に回すに等しい。

 そしてもう一つ……全世界を滅亡の一歩手前まで追い込んだ魔王・暗黒大僧正が撃破された最終決戦に勇者パーティとともに乗り込んだ、この世界でも屈指の女聖勇士(パラディン)なのだ。


 ランが踵を返すと、領主は慌てて声をかけた。

「あ、今夜の部屋を用意させますんで!」

「結構よ。別に怒ってないから気にしないで」

 ランはそう言うと足を止めようともせず部屋から出て行ってしまった。



 領主邸の庭に停めていた、深紅の鎧を纏った鳥人機。ランはその愛機……Sルビーフェニックスに乗り込んだ。

(杞憂ならいいんだけど。何か、嫌な予感がするのよね)

 席に座りながら彼女は考える。

 ほとんど同時期に連続で出現した、六体の「正体不明機」の報告について。

(量産型でもない、共通の特徴を持つ機体が、旧ナーラー領各地に出現して消息不明。一機には魔王軍の親衛隊が乗っている可能性が高いとも……。少しは落ち着いてきたとはいえ、まだまだ立て直しの最中なのに。いかにも何か起きそうだわ……)



——その街の、貧民街の一画——



 空を横切る真紅の鳥人機はなかなか目立つ。

 往来を歩く通行人にもそれを見上げる者は少なくない。それはこの薄汚れた路地でも同じだった。

 大半の者は音と色と物珍しさにふと見上げる、ただそれだけだ。

 だが……その飛ぶ方向に注視し、頭の中の地図と照らし合わせて次の行先を探ろうとする者がいた。


(あれが最終決戦の英雄の一人、ランか……)

 皇騎士聖輝(せいき)がルビーフェニックスを見るのは今日が初めてだ。


 だが話には聞いていた。姫亡き後の王族に取入った不埒な余所者の女の事を。

 最近、その女が蘇生の秘宝を持つ機体を嗅ぎまわっているらしい事も。

(存在自体が目障りな奴が出しゃばりやがって。機会があればこの手で消してやる。そのためにも……少し追ってみるか)



——街を出て街道を進んだ、森の側——



 街道の上空を飛びながら、ランは操縦席で不満を感じていた。

(なんで私が一人でこんな奔走してるんだか。誰か一人ぐらいは一緒に居なさいよ!)


 ナーラー国の天王が特に認めた英雄達は、ランを含めて五人いた。

 一人は他国の貴族だったので故郷で家を継ぎ、別の一人は勇者達のリーダー格について新たな旅へ出た。

 その二人については仕方がないと言える。

 よって残る三人が招かれ、一時は朝廷に身を寄せたのだが……そのうち二人がいつの間にか姿を消したのだ。

 片方は獣人達の連合国に行ったらしい。内戦に参加し、統一後は遠い僻地の開拓団に入ったとかいう朧気な情報もあった。なぜそんな事になったのか、全くもって理解できない。

 もう片方はそんな情報も無い。腕ならランと互角の男だ、生きてはいるだろうが……どこで何をしているのやら。


 というわけで、結局、天王の下で働いている「魔王と戦った勇者」はラン一人しかいないのである。



 だがその憤りも、モニターに映る物を見て消えた。

(レーダーに反応!?)


 ルビーフェニックスは街道から少し森に入った所に着地した。

「誰かいるんでしょう? 私に用があるんじゃないの?」

 通信機で外へ呼びかけると——


『現ナーラー天王第一の側近・ランね?』

 木陰からの通信。若い女の声だ。

「ええ、そうよ。貴女は?」

 肯定と誰何に、相手も答える。

『ジダン侯爵家の長女、ゼナ』

 少女の機体が……竜鱗蛇頭の異形機が姿を見せた。



(現ナーラー天王第一の側近・ラン)

挿絵(By みてみん)

設定解説


【今のナーラー国そのものを敵に回すに等しい】


 分裂して小さくなってしまったが、この時点でも「ナーラー」を名乗る国が旧ナーラー圏で最大の国ではある。

 バラバラになった各地、見切りをつけて独立した幾多の領を再びまとめる力は無いというだけだ。


 大・中・小で分類するなら、現ナーラー国も中と言える程度の大きさと力はまだある。

 元は「大」で世界を三分割する勢力だったが……。

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