表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
24/52

6 奈落の幻惑者 4

聖なる力を内に持つ魔性の巨人が動き出す。

ここに最後の六機目。

 砦を離れて数日後。

 彩華(いろは)は単機で荒野を渡っていた。

 荒地の中にぽつぽつと集落が点在するこの地域は、現アパーム公国の隣に広がっている。

 かつてはここにもナーラー貴族の領地があったのだが、大国が壊滅した時の魔王軍侵攻により滅ぼされ、今でも治める者の無いまま無政府状態になっていた。


 その無法の荒野を、しかし彩華(いろは)は希望を胸に進む。

(生きているかもしれない! クルス、貴方が……!)



 クルスの部隊が出向し、行方不明になっていたのはこの領なのだ。領主が討たれて敗北し、援軍として加勢していたクルス達は帰ってこなかった。

 無論、彩華(いろは)は捜索に出向きたかった。だがダーナ子爵は自国の防衛に専念するため、自領外への捜索一切を禁じていた。

 外で戦っていた部隊ことごとくが行方不明なのである。それら全てへの捜索を許していたら、国内の戦力は激減する。アパーム公国にそんな事を許す余裕はないのだ。

 だから今までは彩華(いろは)も我慢してきた。

 今まで、は。



 通過した村々で集めた情報によれば、クルスの部隊は劣勢の中で転戦し、ついにはアパーム公国と反対側の砦へ追いやられたという。

 クルスの部隊とこの領の僅かな兵士達、その連合軍は砦へ立て籠もり——その後の事はわからない。

 だがその直後、魔王軍は撤退していった。タイミングを考えれば、砦が持ち堪えた可能性は大いにある!



——岩山だらけの渓谷地——



 岸壁による迷路のような地に流れる川。

 そこから水面を掻き分けて、琥珀色の鎧を纏った魚人機・Aアビスエルナダハが陸上に上がる。

 前方遠くの岩壁の間に、痛みきった砦があった。

 操縦席からモニターごしに、彩華(いろは)はしばらくそれを観察する。

 その目が……明かりの灯る窓を見つけた!


(誰かいる! 生きている!)

 彩華(いろは)は喜んで砦へ向かおうとした。


 だがレーダーに機影がいくつも映る。

 彩華(いろは)の乗る機体を囲もうとする形で!

(いけない! 今、私は魔王軍の機体に乗っている)

 その思いが動きを一瞬遅らせた。

 あちこちの岩陰から、矢と弾丸が無数に降り注ぐ!

 爆発と砂煙があがった。



『バカめ! ここらはもう俺達ロックリザードの土地よ!』

 そう(うそぶ)きながら、岩陰からケイオス・ウォリアーの群れが現れた。

 巨人兵、砲塔を担いだ甲虫人、狼男のような狗頭……数種類からなる十機以上の機体には、ここらに生息するイワトカゲが描かれている。

『お(かしら)! 量産型じゃなさそうでしたね』

『金になるかもだぜ! 残骸を探せ』

 その通信を聞けば、こいつらが戦後に増えた山賊の類だと察する事ができる者も多かろう。



 煙が晴れた。

 アビスエルナダハがいた場所を見て、山賊どもが仰天する。


 傷一つ無く立っているのだ。


『ど、どうなってやがる!?』

 混乱しながらも山賊どもは再び斉射を浴びせた。


 だがしかし。

 ()()()()()()、次々と爆発が起こった。

 同士討ちである。

 山賊の機体同士が撃ち合っているのだ!


『やめろバカ!』

『テメェ! 俺を撃ったなァ!』

 互いに怒鳴りあう山賊達。

 だがそのうちの一機が両断された。背後から刀の鋭い一閃を受けたのだ。

 一撃を見舞ったのは……アビスエルナダハ!


 混乱しつつそれを撃つ山賊達。

 しかし弾が炸裂し、爆発するのは山賊の機体!

 同士討ちとエルナダハの剣技で、すぐに山賊達は全滅した。



 行動不能のダメージを受けた機体の中、山賊の(かしら)が呻く。

 その機体に刀の切っ先が突き付けられ、(かしら)は「ヒッ!」と恐怖に顔を引きつらせた。

 通信機から少女の綺麗な声が届く。

『貴方達は何者?』

「あ、あそこの砦を根城にしてる山賊だ」

 (かしら)は正直に吐いた。

 少女の尋問は続く。

『あそこに逃げ込んでいた騎士達がいた筈だけど?』

「そ、それは……」


 何か不味い物を感じ、(かしら)は口籠った。

 そこから少女は察する。


『殺したの?』


 (かしら)は——大いに慌てた。そして必死に訴える。

「ど、どうせまともに動ける奴なんかいなかった! 破損した機体とケガした奴ばっかりで! 俺らがあそこを獲ったのは魔王軍が退いてから一ヵ月近く経ってからだ、帰る所がある奴らなら帰ってた筈だろ!」



 (かしら)の機体の操縦席を、刀の切っ先が貫いた。



——渓谷の砦の中——



 彩華(いろは)は砦を()()()()、格納庫の片隅に機体を置いた。

 操縦席で、独り、物思いに耽る。


 魔王軍が退いてから一ヵ月経つまで、クルスは生きていた。

 もし敵が退いてすぐに、王の命に背いてでも、こうして捜索に出ていれば——


「私、貴方を助けられたのね」

 今となっては手遅れだと、何の意味も無いと、十分に理解しつつ。彩華(いろは)は呟いた。

 その胸中に、彼女をここまで来させた想いがまたわいてくる。

(クルス。貴方が私に言いたかった事って何なの? 私、それだけは知りたい)


 彩華(いろは)は操縦桿を握った。

「待たせてごめんなさい。行きましょう、アビスエルナダハ」

 その呟きとともに、機体との一体感が増してゆく。その心臓部に使われている蘇生の秘宝の欠片から、エネルギーが彩華(いろは)に流れ込んで来た。

 それを全て集めねばならない。


(二度も見捨てたくはないもの)


 秘宝を奪い合う者、六人目——女サムライ・役乃(えんの)彩華(いろは)


設定解説


【機体との一体感が増してゆく】


 秘宝ケプリケペラにしてみれば変な奴らの勝手で六つに分断され、本来の使い方とは全然違う用途のために人造の装置に組み込まれている。

 秘宝としてはあまり嬉しくない状況である。

 各実験機が操縦者を求め、資格ある者を呼び寄せるのは、とにかく動いて状況を変えるため。他の欠片を集めさせるためだ。

 どの機体が最後の勝者になろうと、全ての欠片を合体させれば【ケプリケペラ】に戻る事ができるので、勝敗などどうでもいいからとにかく他の実験機と戦ってもらいたがっている。

 よって秘宝の欠片を集める意思を操縦者が持って、ようやく機体の性能を100%発揮する事ができるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ