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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
22/52

6 奈落の幻惑者 2

女サムライ・彩華の、この国での過去。

 二年ほど前。

 召喚された者の例にもれず、彩華(いろは)は故郷との違いに戸惑っていた。

 この世界・インタセクシルについて説明はされたものの、格納庫でケイオス・ウォリアーを見上げていると、奇妙な夢でも見ているのかと思う。


(これが乗り物とは。異国、どころか異世界とは。何とも理解し難い)

 蒸気機関の大型船でさえ異国の最新テクノロジーだった世界から来た彩華(いろは)にとって、人の十倍に達する人造巨人は目の前にあってなお信じられない物だった。


 その感傷も、背後からとんできた乱暴な声に破られた。

「おい! 白銀級機(シルバークラス)を預かる以上、見合った働きはしろよ」

 見れば相手は、彩華(いろは)と歳のかわらぬ少年。元気の余っている小生意気な面構えで、挑戦的な目を向けている。

 その鎧は、この国の騎士の物ではあるが。


「貴方は?」

 彩華(いろは)が訊くと、待ってましたとばかりに少年は声高に名乗る。

「クルス=ラギニー。代々ストゥティ子爵家に仕える騎士だ!」

 当然、彩華(いろは)も名乗り返す事にした。

役乃(えんの)彩華(いろは)と申します。畿内(きない)葛義(かつらぎ)の地にて三十二代の役乃(えんの)家が二女、不肖ながら御角奈(おづな)流剣三段を修めた身。よろしくお願いします」

 慣れた口調で流れるように言い、丁寧に一礼。

 少年……クルスは露骨に面食らった。作法という物を苦手とするのは間違いない。

「あ?……ああ。他所者の女に頼る必要ないって所を見せてやる!」

 それでも気を取り直し、強気に宣言。


(なるほど。地元の武人、男子としては、私に負けては面子が立たないという事ね……)

 彩華(いろは)は格納庫を見渡した。

 技術者達も、戦士達もいる。その中には、自分に否定的な目を向ける者も少なくなかった。



――それから数か月――



 彩華(いろは)の戦果は、概ね期待された通りだった。

 いや、うら若き少女が現れた時には落胆した者も少なくなかったが、それを加味すれば期待以上とすべきか。

 常に部隊の先頭に立ち、魔王軍をほぼ寄せ付けずにストゥティ子爵領を守る彩華(いろは)。子爵も全幅の信頼を寄せ、彼女自身が一部隊の隊長へ就く事になった。


 それを彩華(いろは)自身が知らされた、翌日。

 仏頂面のクルスが羊皮紙を手に会いにきた。

「……あんたの隊のメンバーを報せに来たぞ」

「どうして君が?」

 問う彩華(いろは)に、クルスが苛々と叫ぶ。

「俺も配属されたからだよ!」

「そう。よろしく頼むわ」

 言いながら、彩華(いろは)は楽しそうに笑っていた。

 薄々感づいてはいたのである。


 クルスも数々の戦いに参加し、必ず生還していた。倒した敵も決して少なくない。

 地元人の若手としては最も腕の立つ騎士と言えるだろう。

 彩華(いろは)の部隊が結成されると聞いた時、若手から選ばれるなら彼だろうとは、彩華(いろは)自身が思っていた。


 歯軋りするクルス。

「先輩の俺に背中を守らせる以上、だらしないマネは許さないからな!」

「わかったわ。同い歳で、一週間だけ先輩で、前回は撃墜される寸前だった君に背中を守ってもらえるものね」

 上目遣いでちょっぴり意地悪く言う彩華(いろは)


 この時期には、クルスの事をそれなりに知っていた。

 代々騎士の家柄なのに行儀や勉学はからきしで、負けず嫌いで時々無鉄砲な少年の事は、誰かに聞けばすぐ教えてもらえた。

 だから彼が最初に見せた敵意は、同年代で鳴り物入りで女性だった彩華(いろは)への、負けん気と対抗意識だったとすぐに理解できた。


「……く、この……今に見てろよ!」

 悔しそうなクルスだが、だからといって自分を陥れるような事はしないと彩華(いろは)は確信している。


 彩華(いろは)に否定的な者は多かったが、この頃には皆その態度を改めていた。

 掌を返して賞賛するか、陰でのみ悪く言うか、だ。

 だが一人だけ、彩華(いろは)の顔を見ればいつも突っかかってくる者がいた。


「今に見てろ。()()負けねーぞ!」

 今回の負けは認めながら、決して降参はせず挑戦してくる。

 それがクルスだった。


 その性情は彩華(いろは)にとって、どこか快い物だった。

 それを口にはしなかったが。



――それから数か月――



「よう。次は俺が先に行くんだぜ」

 ある日、意気揚々と、上機嫌で。

 クルスはそれを彩華(いろは)へ告げに来た。

「大丈夫?」

 心配する彩華(いろは)に、クルスは強気な笑顔を見せる。

「当たり前だろ! やっと俺も小隊長だ、いつまでも負けてないからな!」


 部隊長となってからも、彩華(いろは)は順調に成果を上げ続けた。

 それは隊員達への評価が上がる事も意味する。

 彩華(いろは)に次ぐ実力と目されるようになったクルスが、別の部隊の長に抜擢されても、何も不思議はなかった。

 そんな彼は初任務へ……魔王軍に苦戦している別の領への援軍に出るのだ。


 最も信頼する隊員へ、彩華(いろは)は――ほんの少しの寂しさを隠しながら――笑顔を見せる。

「期待しているわ」

「うん、してくれ!」

 もうすっかり打ち解けていたクルスは、どんと胸を叩いて見せた。


 そして、少し黙った後……ちょっと躊躇いがちに、少し焦ったように、少し自信なげに呟く。

「……きっと、イロハの期待に応えるよ。帰ったら聞いて欲しい事もあるし」


「え?」

 戸惑いながら聞き返す彩華(いろは)

 しかしクルスはくるりと背を向けると、逃げるように走り去った。



――それから半月ほど――



「出撃命令は? まだですか!?」

 ややヒステリックにさえ詰め寄る彩華(いろは)

 ここ数日、急に魔王軍の攻撃が激化した。どうしてだかナーラー国内に敵軍が溢れかえり、攻撃を受けていない地などほとんど無い。

 彩華(いろは)自身、ついさっき敵部隊を撃破して帰還したばかりだ。


 そんな彼女が訊いている出撃命令とは、別領へ援軍として出向した者達の救出である。

 いくつかの部隊がストゥティ子爵領の外で、孤立無援に陥っているのだ。


 その中にはクルスの部隊も……。


 騎士団の隊長は顔を背けて告げた。

「それが……王は、全軍に我が領の防衛を命じました」

 救出に向かうな、という事である。

「どうして!?」

 納得いかない彩華(いろは)に、騎士団長は叫んだ。

「ナーラーの都に魔王軍が攻め込んだんです! 王族の生存は絶望的だと!」


 この世界屈指の大国ナーラーが、事実上陥落したという事だ。

 この未曾有の窮地に、ダーナ子爵は徹底した防御を選択したのである。


 騎士団長が呻くように告げる。

「首都の戦いが落ち着くまでは、我が領の軍、例外なく防衛に専念せよ……との事です」

 彼自身、部下達を見殺しにするも同然の命令に納得しているわけではない。

 だが個人の心情など持ち出せない事態であった。



 結果として、ストゥティ子爵領は防衛に成功した。


 領の外に出ていた部隊は、一つとして帰還しなかった。


設定解説


【ストゥティ子爵領は防衛に成功した】


 ある程度の広さの領なので、蹂躙された場所や村などももちろんある。

 主要拠点を概ね守って撃退できた、という事だと解釈していただきたい。アリの子一匹入れなかったわけではないのだ。

 前話で騎士団達が報告に来た敵基地は、敵に制圧されていた場所で見つかった物。

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