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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
21/52

6 奈落の幻惑者 1

これは、命を求めるが故に死を賭した戦いへ踏み込む者達の物語。

ここに最後の六人目——。

 魔王軍が勇者達に滅ぼされ、多くの地が平和を取り戻した。

 そんな地域の一つ、アパーム公国。

 かつては大国ナーラーのストゥティ子爵領であったが、首都が陥落して国が分裂した時、領主の判断で独立。自領のみの防戦に専念する事でなんとか魔王軍を退けた。

 戦後を迎え、今では戦費で火の車となった財政の立て直しに大わらわだ。


 その城の廊下で、若き君主ダーナ=ストゥティが、細身で端正な顔を怒りで染めて、騎士をしかりつけていた。

「馬鹿者! それぐらい騎士団が片付けておけ!」

 怒鳴られた騎士は苛立ちを堪え「承知しました」と頭を下げる。


 だが廊下の角から現れ、声をかける者が一人。

「いかがなされました?」



 齢十七、八の少女である。

 黒髪に黒い瞳、若いながらも静水のごとき落ち着いた雰囲気を湛えている。

 だが奇妙なのはその服装。着物に袴——和服なのである。

 腰には刀を差していた。



 その少女に、君主は取り繕うような笑みを焦りながら浮かべる。

「あ、いや……貴女が耳に入れるほどの事では……」

 年若いといっても二十代の半ばではあるだろう。その君主が、着物の少女には目に見えて弱腰だ。

 そんな君主に、少女は訊ねた。

「魔王軍の事なのですね?」

 その声に騎士が頷いた。

「はい。残党退治をしていた騎士団から、奇妙な砦を見つけたと報告がありまして。防衛装置や大型の魔獣が守っているのですが、魔王軍の機体や兵士は全く見当たらないと」


 魔王軍が滅んだとはいえ、残党はまだこの大陸の各地にいる。それらとの戦いはまだまだ続くだろう。

 だが本人達がいない砦に、防衛機構だけは残っている——それはおかしな事だった。 


 しかし君主は納得しない。

「不可解な物を報告するのはわかる。だが騎士団本部にすべきであろう」

「その本部の判断です。出撃を要請しているわけではありませんが……護国の聖女・イロハ殿の耳には入れておけと」

 それが騎士の言い分だった。

 そして、着物の少女はそれに頷いた。



 着物の少女こそが、アパーム公国の皆が「護国の聖女」と呼ぶ聖勇士(パラディン)

 当時まだストゥティ子爵領だった頃、この城で召喚され、白銀級機(シルバークラス)のケイオス・ウォリアーを与えられて魔王軍と戦い、この地の主力として守り切ったサムライなのである。

 本名は役乃(えんの)彩華(いろは)……()時代の日本から呼ばれた名門武家の子女だった。



「私、行こうと思います」

 彩華(いろは)は君主に告げた。

「ナーラー国天王様の側近を勤めるラン殿という方も、いまだ自ら各地を歩いているという事ですし。同じ女の聖勇士(パラディン)として、私もそれを見習おうかと」



 首都を落され、一度は完全に壊滅したナーラー国。

 だが行方不明になっていた支配者・天王ディーヴが戻り、再び蘇った。

 しかし壊滅した時に一旦分裂した物はそう簡単には戻らず、かつて大陸三大国の一つだった時に比べ、領土も力も大きく縮小していた。

 そんなナーラー国・天王の右腕として、最強の代行者(エージェント)として、魔王軍残党退治や不穏な動きを見せる独立地域への睨みに常日頃から動き回っている者がいる。

 魔王を倒した勇者達とともに、最終決戦へ出向いて凱旋した英雄の一人……「不死鳥」の異名をとる、ランという名の女聖勇士(パラディン)が。

 ある者は弱った王国の救いの手だと感謝し、ある者は王に取り入った不穏な因子だと警戒し、ある者は自分達を牽制する者として敵視している。

 謎の多い女である。



 そして、ダーナ子爵からの評価は……端正な顔を(しか)めているのを見れば、芳しくないと誰でもわかるだろう。

「我がストゥティ子爵領は、もう旧大国の枠組からは外れました。あんな所に今さら(なら)う必要はありません。不甲斐なくも都が落とされた見せかけの元大勢力の女などより、今の我が領には、貴女がいます」

 君主にとって、この国の民にとって、彩華(いろは)は守護神そのものだ。

 だがそんな君主に、彩華(いろは)はあくまで落ち着いた声で諭す。

「だからこそ、私がこの領のどこにでも目を光らせていると、態度で示さねばなりませんね?」


 そこで一転、彩華(いろは)は優しく微笑んだ。

「ダーナ様。貴方からの求婚、帰ってからお返事させていただきます」

「おお!」

 感激の声を君主があげる。


 戦勝ムードをさらに高めるため、彩華(いろは)ほどの手練れをこの国から離さないようにするため、君主は彼女に求婚していた。

 この強く可憐な女サムライに心の底から惚れていた……という個人的感情も、まぁ無いではない。


「貴女の帰還までに式の準備をしておきます。真のヤマトナデシコ……この領と私を支えてくださるのは貴女しかない」

 そう言って彩華(いろは)の手をとるダーナ子爵。

 感激している彼に、彩華(いろは)は優しい微笑みを向け、そして胸の内で思っていた。


(私がそんなに大した者なの? 誰も彼をも助けられたわけではないのに……)



役乃(えんの)彩華(いろは)

挿絵(By みてみん)

設定解説


【明路時代の日本】


 我々の地球とは微妙に違う時空にある日本。

 それ以前の時代から武士の女性比率がこの世界より遥かに高く、総数の半分ほどを占めていた。

 よって平氏と源氏も半分ぐらいは女性。武蔵坊弁慶は筋肉巨女。

 よって戦国武将も半分ぐらいは女性。上杉謙信は正式に女。

 よって幕末の志士達も半分ぐらいは女性。どこぞの人斬りも美少女。

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