5 浮世の隠者 4
聖なる力を内に持つ魔性の巨人が動き出す。
ここに五機目。
迷宮最奥の広大な部屋の中、薄暗がりに立つ物を見て、アイルは呻いた。
「なんという事だ。お前まで……」
壁際のハンガーに立つ人造の巨人。
琥珀色の鎧を纏い、頭部にはフードを被り、大きなマントを装備している。
そこにあったのは魔王軍が研究・開発していた新型のケイオス・ウォリアーだった。
しかし、その機体にアイルは見覚えがあるのだ。
纏う鎧の色こそ違えど、自分がかつて乗っていたロウグリーン国の白銀級機・国王専用機だったのだから。
魔王軍の新型機は、撃墜されたアイルの乗機をベースに改造されて、製作されていたのである。
しばし呆然と新型機を見あげるアイル。
だがやがて格納庫を見渡し、辺りを調べ始めた。
かつての愛機といえど、魔王軍の手先として生まれ変わっているなら破壊しなければならない。
部屋の片隅に作業台を見つけ、その上にマニュアルがある事に気づいた。
それを手に取り、ページを読み進めていく。
徐々に……アイルの顔が険しくなった。
この機体はAワールドハーミット。
神蒼玉に代わる秘宝で黄金級機を生み出すために造られた実験機。
使われている秘宝は——大いなる蘇生の力を持ち、いかな条件をも超えて死者を蘇らせる事のできる神宝【ケプリケペラ】。
六つに別たれた、その一片がこの機体の心臓部に有る。
アイルは再びかつての愛機……が変じた実験機を見上げた。
「すまない。今度こそ最期まで世話になる」
変わり果てた愛機が、今、アイルに最も必要な物を持って待っていたのだ。
——Aワールドハーミットの操縦席——
そこはかつての愛機とほとんど変わらなかった。
座席に腰を下ろし、ハッチを閉じると、ベルトで体を固定してモニターに火を入れる。
機体と一体化した感覚の向こう、巨人機の中から受ける力に、アイルは面食らった。
(このパワー……以前とは桁違いだ)
アイルの乗っていた頃でさえロウグリーン国の最高傑作であり、白銀級機の中でも高性能の部類に入る筈だった。
だが今の機体に漲る力は、モノが違う。
この世に七つしか存在できない伝説の最強機達を目指して造られたのは伊達ではないようだ。
部屋の一面にあるシャッターを開ける。
そこは外……滅びたロウグリーン国の都だった。
アイルは機体を外に進ませ、そして振り返る。
今は滅んだ魔王軍が、実験機の研究開発のために、そしてその保管のために造った迷宮へ。
新たな乗機がマントを跳ねのけ、両手を高々と上げた。
その腕は両腕の後ろから生えている——この機体は四腕なのだ!
掲げられた両腕が魔力で輝き、電光が閃く。
アイルは機体を通じて破壊の魔術を放った。
それは秘宝の力を以て増幅され、幾条もの電光となって迷宮を穿つ!
迷宮の壁は砕け、瓦礫が舞い上がった。
それを前に、Aワールドハーミットは攻撃呪文を繰り返す。
竜巻が生まれ、真っすぐに迷宮を貫いた。
破壊の魔術の波状攻撃。
それにより迷宮は砕かれ、崩壊し、瓦礫の山と化してゆく。
魔王軍がロウグリーン国の跡地に建てた遺物は、大きな残骸と成り果てた。
巨人機が振り向き、歩き出す。
真っすぐに。人里へ向かって。
神宝の欠片を持つ五機の兄弟……己の敵を求めて。
(エル……もう一度、お前と話がしたい。愚かな父をあの世で待て)
アイルの目にはここ数日で失われた輝きが戻っていた。
目的に向かって生きる意志という光が。
それが他者の命を蹴落とす血塗られた我であろうとも。
秘宝を奪い合う者、五人目――亡国のエルフ王・アイルスリオン=メネルキール。
設定解説
【Sフォレストレンジャー】
かつてアイル王が乗っていたロウグリーン国最強の機体。名前の「S」は白銀級機を示す記号。
フードマントを装備した外観が特徴。
専用剣ハートソード、巨大弓エルヴンボウを装備しており遠近両戦闘に対応。
さらに操縦者の魔術を増幅して放つ事もできる。
ロウグリーン最後の戦争で撃墜されたが、魔王軍が回収し、実験機の素材として使用した。




