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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
19/52

5 浮世の隠者 3

そして時代は再び「今」へ。

 アイルは人の気配の無い基地に乗り込んだ。

(格納庫にはケイオス・ウォリアーが一機やそこらはあるだろう。それを中で自爆させれば、修繕する者もない今、崩壊は必至のはず)

 そんな事をして自分が上手く脱出できるかどうかはわからない。

 だが失敗して命を落そうと、構う事ではなかった。


 ロウグリーン国を守れなかった五年前、王たる己も死んで然るべきだったのだから。


 だがその跡地にこのような基地があってはならない。

 祖国を滅ぼした敵が、他の地を攻めるための足掛かりなどは。



 しかし……無人の通路を歩きながら、アイルは違和感を覚えた。

(基地ではないのか?)

 曲がり角の多い通路は迷路のようだ。

 宿舎や待機室、武器庫のような部屋も見当たらない。兵士達が駐屯する施設にしてはおかしい。

 部屋の一つでゴーレムに襲われ、それを剣と魔術で撃破せねばならなかった。

 そして通路の途中で、赤外線視覚(インフラビジョン)により隠し矢の起動トラップを見つけた時、アイルは確信した。


(これは迷宮(ダンジョン)……魔王軍が何か貴重品を隠した建物だ!)


 見当は外れたが、それはそれでやはり許せなかった。

 魔王軍の秘蔵品など、他者を害する邪悪な物に違いない。

 ならばそれを己が砕いてやろうと、アイルは奥を目指した。



 そして途中、配置された魔物どもと戦ううち、アイルの怒りは燃え上がって行った。

 魔物どもの中にはアンデッド・モンスターもいた。


 その材料は――かつてこの地で暮らしていたエルフの民だったのだ。


 朽ちた屍となってもなお弓を引き絞り、己を狙う、エルフの屍で造られたアンデッド・アーチャー。

 それを魔術の炎で焼き払いながら、怒りの炎が長い放浪で止まりかけていた心を炙る。

(おのれ! どこまで我らを踏みにじるか!)



 かつて民だった不死の魔物どもを打ち倒しながら、アイルは奥へと進み続けた。

 そして気づく。

 いつの間にか分かれ道の度に、迷うことなく道を決めて前進する己に。


 まるで――何かに引き寄せられているかのようだ。


 それに気づいた時。アイルは何かの声を、聴いた……ような気がした。



 そして前方に立ちはだかった魔物を見て、悲し気に首をふる。

「呼んでいたのはお前だったのか?」

 そこにいたアンデッドロード、右手に剣を、左手に禍々しい呪力を輝かせる不死の君主……その化け物にされていたのは、アイルの息子・エルヴァロン=メネルキールだったのだ。


 アイルは息子の最期をその目で見たわけではない。

 そんなムシのいい事が、と思いつつも、心のどこかでまだ期待はしていた。

 万が一の幸運で、息子が生き延びた可能性を。

 しかし……

(無駄であったか。頭では、わかっていたつもりだったのだがなぁ……)

 アイルは剣を構えた。


 剣に魔力を籠める。ミスリルの刀身が青く光った。

 全く同じ動きで、アンデッドロードは剣に魔力を籠める。ミスリルの刀身が血のように赤く光った。


 アイルは嘆きに満ちた目を敵に向ける。

 アンデッドロードの濁った瞳は何も映していなかった。番人(ガーデイアン)として造られた魔物に意志など無いのだ。

 両者は同じような前傾姿勢をとり、同時に互いの敵へ駆けだした。


 一閃!

 全く同じフォームでの斬撃が互いを斬り合う。


 胴が寸断され、ごとりと床に落ちた。

 アンデッドロードは不死の体を破壊され、呪われたその身の上に引導を渡されたのだ。

 アイルは脇腹を抑える。敵の一打で切り裂かれてはいたが、致命傷には紙一重で至らなかった。


 父が教えた剣技である。アイルに一日(いちじつ)の長があった。


 即死でないとはいえ、決して浅い傷ではない。

 しかしアイルは治療の魔術も使わず、ようやく解放された息子の亡骸を眺めていた。

 通路の壁によりかかる。

(エル。お前の言う通りにしていれば、また違った事になっていたかもしれん)


 敵の強さを考えれば、息子の進言通りにしていても無駄だったかもしれない。

 だがもしかしたら……今よりは救いが有ったのでは……

 滅びを招いた王は、永遠にその可能性を頭から振り払えないのだ。

 疑念に、呪われるしかないのだ。



 静かに、血とともに、己の体から力が抜けていくのを感じるアイル。

 しかし……まだ、奥に引き寄せられる()()を感じた。

(なんだ? 私を呼ぶとは……)

 小さく治癒の呪文を唱え、傷を止血する。

 そして足を引きずりながら歩き出した。

 自分の息子が守らされていた物へと。



 そしてついに迷宮の一番奥まで辿り着いた時。

 王はまた別の、懐かしい物を目の当たりにした。

「お前もか……!」


設定解説


【アンデッドロード】


 高位の魔法戦士が不死の魔物と化したもの。他の下級不死モンスターを統率する立場にある。

 生前に習得していた魔術と戦闘技術を用いてくる、極めて危険なモンスター。

 他者によって造られた個体には自我や感情は無く、戦闘機械と化して侵入者を殲滅する。だが稀に不死を求めて自らの意思でこの魔物になる者もおり、そうした個体は高い知性と歪んだ野望を持って、配下の魔物軍団を率いて人類に対する危険な勢力を作り上げる。

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