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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
18/52

5 浮世の隠者 2

アイルが己の国を失った、その過去。

 暗黒大僧正の率いる魔王軍が活動を本格化させた頃。

 大国ナーラー勢力圏の外周に位置するロウグリーン国は侵攻を受けた。


 国境の砦が攻撃を受け、それが報告された森の中の都で、エルフの王・アイルスリオン=メネルキールは作戦会議を終えた。

「各自、ゆめゆめ油断せぬよう。さすれば負けはせぬ」

「「「御意!」」」

 重臣達が頷き、次々と樹上の会議室から出ていく。

 最後の一人が出て行った後、入れ替わりに部屋へ入る者があった。

 この国を百年近く治めるアイル王の息子で、まだ三十にならない若き青年……エルヴァロン=メネルキールである。

 

 王子は憂い顔を父に見せた。

「父上。私の進言、受け入れてはもらえませんでしたか」

「……家臣達と相談もした。だがやはりまだ早い」

 王は息子に会議の決定を伝える。

 息子の提案は、ナーラー国に救援を要請し、それが到着するまでひたすら防御に徹するというもの。

 だが国としての結論は、自国のみで攻めて来た魔王軍を撃破し、追い返す方針である。


「ロウグリーン国はナーラー国の属国ではある。だがその中にも立場という物がある。苦戦してからなら救援を要請もしよう。だがまだ国境の砦で戦っている段階ではないか」

 このエルフ国は大国ナーラーの領土ではない。だが関係で言えば下である。

 それでも独立国ではあり、法も軍備もナーラー国とは別物として存在し、主権は持っていた。

 だが簡単に頼っていると、それも軽んじられるばかりだ。

 国家にとっては(いくさ)と政治を切り離す事はできない。


「しかし、それが落とされそうなのでしょう? ならば……」

 そう言って尚も不安を露わにするエル王子。

 だがアイル王とて考えていないわけではない。

「報告にあった敵戦力なら、こちらが本腰を入れれば確実に勝てる。(いくさ)になっている事自体はナーラーに伝令を出してある。後は勝つのみ。ここは任せたぞ、エル」


 敵軍がゴブリンやオークを中心とした下級兵の集まりである事、ケイオス・ウォリアー自体が少なく、指揮官用の白銀級機(シルバークラス)が見当たらない事。それらは魔術も併用した偵察で判明している。

 砦が苦戦しているのも、ロウグリーンの将がまだ前線に到着していないからに過ぎない。

 そして敵が来た事を伝える兵は、そろそろ人間国家に到着している筈だ。


 それでも息子は食い下がった。

「父上……せめて、自ら前線に出るのはお止めください」

 そう、王自ら砦へ向かうのである。

 アイル王とて油断はしていない。必勝を期すため、王自らが士気を上げにいくのだ。そもそもアイル王こそロウグリーンで最強を誇る魔法戦士であり、国の保有する最高性能の白銀級機(シルバークラス)ケイオス・ウォリアーの操縦者である。

「魔王軍が援軍を寄越す可能性もあるからな。場合によっては国境で一~二年ほど睨みをきかせる必要も考える。その間の事は任せたぞ」

 王は近い将来自分の跡を継ぐ王子にそう言い残し、部屋を出て行った。

 都の事は王子に。妻の護衛は特に腕の立つ騎士に。それぞれ任せた。

 後は侵略者を撃退するだけだ。



——ナーラー圏外部との国境砦——



 王の予想通り、魔王軍は王自らが率いる援軍が到着してすぐに壊滅状態に陥った。

 歩兵同士の戦いはエルフの弓術と魔術で下級の魔物どもを撃ちのめし、ケイオス・ウォリアー同士の戦いでは王の乗機が率いる部隊で、量産型機しかいない敵部隊を蹴散らした。

 砦が落とされるどころか、その近くから魔王軍はどんどん追い散らされていく。


 しかしアイル王達は深追いはしなかった。

 砦の前で部隊を展開させていると、レーダーに新たな機影が映ったのだ。


「やはり敵増援が来ましたな」

「うむ。だがこれを撃退すれば、此度の(いくさ)は一先ず終わるか」

 傍らの側近——ロウグリーン国が保有するもう一機の白銀級機(シルバークラス)に乗る将軍——にそう応え、アイル王は敵を迎え撃つべく動こうとした。



 だがしかし。

 全軍の四割ほど……元から砦にいた兵達の様子が一気におかしくなった。

 歩兵もケイオス・ウォリアーの操縦者も、青い顔に脂汗を浮かべて苦しみだしたではないか!


「こ、これは?」

「毒か!? しかしいつの間に?」

 エルフ軍は混乱に陥った。

 丁度、敵増援が戦闘可能距離に入るタイミングで。


(してやられた! このタイミングを狙って……)

 なぜそんな事ができたのかわからないものの、王は敵の術中に陥った事を悟る。

 さらに敵機の中には――

「この反応、白銀級機(シルバークラス)! 敵の隊長か」


 敵も白銀級機(シルバークラス)を出してきた。

 怪鳥ハーピーを模したその機体に魔王軍の幹部、大隊長直下の親衛隊が乗っている事を、王は知らない。

 その幹部が毒の知識と精製において達人で、戦闘が始まる前から飲料水に使う川に遅効性の毒薬を流していた事も知らない。


 さらに敵は念を入れていた。

 王はレーダーを見て慄き叫ぶ。

「も、もう一機!」


 敵の親衛隊、白銀級機(シルバークラス)はもう一機いた。

 鶏の頭を持つ機体が、翼を広げて敵部隊の後方に。

 強力な長距離誘導弾の、その狙いをエルフ軍につけながら。



 敵の罠で戦力を減らされ、動揺と混乱から立ち直る前に同等以上の戦力をぶつけられる。

 この状態でエルフの軍に勝ち目は無かった。



——ロウグリーン・北方の国境——



 撃墜された乗機から脱出し、人里離れた山中へ逃れた時、王は独りだった。

(まさか、一夜にして……)

 呆然と森を歩く足取りは重い。


 都へは戻れなかった。

 戻ろうとはしたのだが、エルフ軍を撃破した魔王軍は、そのまま都へ攻め込んだのである。

 燃える都を遠くから一瞥し、敵に見つからないうちに、アイル王は隠れて離れるしかなかった。


 だがそれもここまでか。

 量産型の飛行型ケイオス・ウォリアー、カラスの頭を持つ機体が王の頭上を飛んだのだ。機体のエンブレムは魔王軍のもの!

『見つけたぞ! 国王だな!』

(無念!)

 アイル王は観念した。


 だがしかし。

「父上! お逃げください!」

 その声とともに、量産型の巨人兵機が魔王軍の機体に弩を放ったのだ。


「エル!?」

 声で操縦者が誰かはわかった。

 エル王子は父を背に庇い、敵機へ射撃を続ける。

「母も逃げました! ここは私が!」

『しゃらくさいわ!』

 敵機も応戦する。腕は……大した事は無い。名も無き一兵士に過ぎないのだろう。

 だがすぐに他の敵機も来るに違いない。その時、エル王子の運命は……


 しかしその王子が父へと叫ぶのだ。

「父上! 現国王は貴方なんです! ここで死んではいけない!」


 アイル王は逆だと思った。

 国の将来のためにも、己が壁となり、若い王子を逃がすべきなのだと。

 だが……この世界の巨大な兵器に、今乗っているのは王子で、生身で逃げ回っているのは自分なのだ。

 役目を入れ替える事はできない。アイル王は壁にさえなれないのだ。


 王は、背を向けて、逃げた。

 選択肢は無かった。


 敵機の視界外へ走り抜けた直後。背後でケイオス・ウォリアーの爆発する音が聞こえた。


設定解説


【ロウグリーン国】


 無数に存在する小国の一つにして、エルフ族の国家の一つ。

 旧ナーラー圏ではあったが、ナーラー国の領地ではなく独立国家。しかし力関係にはやはり明確な上下があり、親分子分に近い関係だった。

 主産業は林業。エルフ族なので魔術は発展していたが、山野の自然や動植物に関わる物が主で、戦闘や武具製造の分野は特に強くも無かった。

 特産品は材木(杉)と牛肉で、得意の魔術で品質を高めた物。エルフ達が動物の「大量生産」を好まないためロウグリーン牛は出荷される量が限られており、質の高さと相まって一種のブランド食材になっていた。魔王軍侵攻以前は、肉の出荷量と値段が旧ナーラー国(の食肉流通業者)との間で最も大きな課題だった。


「他の世界から召喚されたエルフ族の聖勇士」が120年前に王家に入っており、アイルはその子にあたる(つまり異界人と現地人とのハーフ)。

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