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Doom Duellists(ドゥーム デュエリスツ)——果てなき希望——  作者: マッサン
第一部 惹き寄せる者達
13/52

4 餓鬼道の亡者 1

これは、命を求めるが故に死を賭した戦いへ踏み込む者達の物語。

ここに四人目——。

(勝手に起動しただと……?)

 開発者でもあり技術者でもあるその男は、巨大な人造の獣人を前に、格納庫で狼狽(うろた)えていた。

 広い格納庫の中、白衣の男の後ろではゴブリンやオークなどの下級の魔物どもの兵が同様に怯えている。


 かつて彼らが所属していた魔王軍。

 それが開発していた実験機。それこそが目の前の巨大な人造の獣人なのである。

 この格納庫はそれの専用空間であり——この基地自体、この機体を完成させるための施設なのだ。


 魔王軍が壊滅し、開発チームは白衣の男一人を残すのみ。

 それでも執念で研究を続けて来た男……魔王軍親衛隊マスタードゥラ。

 その彼にも今の状況は不可解だった。

 新型機は今日勝手に起動し、いつでも動かせる状態になったのだ。


 何が切欠でこうなったのか。故障か、だとすれば原因は何か?

 マスタードゥラには何もわからない。

(クソッ、研究班が健在であればな)

 苛立つ彼に、兵士の一人が訊いた。

「ど、どうしやしょう?」

 苛々しながらドゥラはそのゴブリン兵に命じる。

「お前が乗れ。そしてスイッチを切ってこい」

「ええ!?」

 ゴブリン兵は嫌そうな顔をして後ろに下がった。


 とはいえ命令。

 やがて渋々——他の兵士に文字通り背中を押されて——操縦席に入り、席に座る。


「ウギャアア!」

 断末魔とともにゴブリン兵が操縦席から転がり落ちた。

 床に叩きつけられたその体は……皮が骨に貼りつき、枯れ木のようになっていた。

 呆然とそれを眺める魔物達。

「ど、どうしやしょう?」

 その中の一匹が訊くと、ドゥラは呻いた。

「……村から一人連れて来るように言え」



——近くにある村——



 旧ナーラー国圏内の外れにある、寂れた田舎領主の国の、一番の端。

 その向こうには険しい山の峰が延々と続く小さな村の、小さく粗末な家。

 そこで怒鳴り声が響いた。


「馬鹿な事を言わないで! 帰って!」

 激しい剣幕で怒り狂うのは、歳のころ二十になるかならぬかの若い女性である。

 着ている服は粗末であちこちに修繕の跡があるが、本人はなかなかの器量で、笑顔さえ見せれば大概の男は好感を抱くだろう。

 だが彼女は怒りを露わに、激しい視線を遠慮なく客人達に向けていた。


 その客人の一人……大柄な青年が、どこか心苦し気に訴える。

「イリス、誰かが行かなければならないんだ。それなら……」

「それなら貴方が行けばいいわ! 他人(ひと)に行けと言う人が!」

 怒る女性——イリスが青年に怒鳴ると、青年はムッと顔を(しか)めた。

 青年の隣にいた中年男はもっと露骨に批難の目を向ける。

「無茶を言うな。こいつには老いた親がいる。面倒を見ねばならんのだ」

 そして別の客人、皺の深い老人が言う。

「だがリリィなら……。あの子はもう十分生きただろう。本当ならとっくの昔に、この世におらんのだ」


「いるわ! ずっとここにいる、私と一緒に!」

 イリスは叫んだ。その大きな瞳にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。


 だが家の奥からか細い声がかかった。

「お姉ちゃん。私、行くよ」

「リリィ!?」

 イリスは驚き、声の方へ振り返る。

 家の一番奥。

 そこには古ぼけたベッドが一つ。



 ベッドには一人の少女が寝ていた。

 不健康に痩せた、生気のない陰のような少女が。

 少女はどこか虚ろな目を皆に向ける。

 力なく、弱々しい目を。



 先ほどの老人が少女に確認した。

「リリィ、いいんじゃな?」

「うん。あいつらが、誰か一人よこせと言ってるんでしょう?」


 あいつら——魔王軍の残党。

 この村の少し奥に砦を築き、この村を実質支配している魔物ども。

 領主は自分の手におえぬと見るや、人っ子一人派遣してこない。

 村人はとうに諦めている。税を納める相手が変わっただけだと、自分達に言い聞かせている。



 中年の男が頷いた。

「ああ。老人や病人でもいい、まずは一人と」

「そう。わかったわ」

「リリィ!」

 細い声で承諾する妹に、姉のイリスが悲鳴をあげた。

 だが妹——リリィはやせ細った顔に微かな笑みを浮かべる。

「今までありがとう、お姉ちゃん。でも……お迎えが来たのよ」

「そんな事はないわ!」

 イリスは悲痛な声をあげ、妹へ駆け寄ろうとした。

 だがその肩を青年が掴む。イリスを止めて、そして他の村人へ声をかけた。

「急げ、運ぶぞ」

「やめて!」

 イリスは青年を振りほどこうとしたが、彼女を抑えるために別の男までが加わる。

 こうなるとただの村娘ではどうしようもない。

 イリスは半狂乱で叫んだ。

「リリィ! リリィ! お姉ちゃんを独りにしないで!」

 その時には、枯れ木のような妹は既に逞しい男に背負われ、家から運び出されつつあった。

 姉の声を聞きながら、リリィは呟く。


()()呼ばれているわ」


 その呟きを、犠牲になるべき人間の自覚だと()()し、リリィを背負っている男が申し訳なさそうに言う。

「そういう事だ。すまない」



 リリィは魔王軍残党の砦に運ばれていった。

 ()()()()()で。



(リリィ)

挿絵(By みてみん)

「骸骨のようにガリガリに痩せこけた娘」にしようと思ったが、そこまではイラストAIが対応してくれませんでした。それももっと知識と技術があればなんとかなるのかもしれませんが、まぁ自分には無理という事で。

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